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彼女の微笑み

 もうこれ以上間が持たないと思ってからどれくらい時間が経っただろう。ドアが開いて白瀬が現れた。


「車、持ってきました。大きめのやつ、確保できましたので。あと、梱包材も使えそうなものを集めてきたんで見てもらえますか?」


 白瀬が戻った途端に、再び時間が動き出す。てきぱきとことが運び出す。


「本当に会場なんて取れたんですか?」


 坂田はまだ疑っていたようだ。


「はい、気に入ってもらえるかはわからないのですが」

「こんな短期間で出来ると思いますか?」

「大変だと思いますが、私たちもサポートしますから。告知も必要ですよね。とりあえず、会場のホームページには載せてもらうとして、あと市役所の方にも載せてもらえるように掛け合ってみます。坂田さんの方でも告知はしてもらえますか? 出来たとしてもこっちはあまり大きく告知してもらえるわけではないので、見る人は少ないかもしれません。あまり急なので大々的にチラシも配布できませんし。なので、本人からの告知があった方がいいかと思います」


 白瀬の言葉は淀みない。さっきまで坂田とあれだけ一緒にいて和季が交わした言葉なんてほんの一言なのに。


「ええ、まあ。一応SNSもやってますし、そこで出来るといえば出来ますが……。でも、フォロワーも少なくて、人なんか来ないかもしれませんが」

「それでも、やれることはやりましょう」

「……意味ないかもしれないですけど」


 最初に会った時と同じように、覇気がない様子で坂田は頷く。せっかく準備しても人が来ないことが不安なのかもしれない。無駄な三日間を過ごすことを恐れているのかもしれない。


「まずは展示したい絵をまとめましょうか。これ、梱包に使えますか?」


 後ろ向きな坂田の言葉をスルーして、白瀬はどこかからかき集めてきたらしい畳まれた段ボール箱と、新聞紙を差し出す。それを見た坂田の顔が曇る。


「……無理です」


 苛ついた声で、ぼそりと坂田が呟く。

 この時点で和季一人だったら絶対に心が折れている。絶対、帰る。

 それなのに、白瀬は何事も無かったかのように言葉を続ける。


「ええと、どんなのがよかったですか? すみません、先に聞いておけば良かったですね」

「ああ、でも急ぎだし贅沢なんて言えませんね。それなら……、そうですね」


 坂田が眉根を寄せる。


「……とりあえず新聞紙は止めてください。油絵に印刷の黒い部分が着いてしまう。絵が汚れるのは嫌です。段ボールに絵の表面同士を着かないようにして丁寧に入れればなんとなかなるかもしれません」

「なるほど」

「他に何か持ってきたものはありますか?」

「紙袋も多少あります。それと、ビニール袋。市指定のゴミ袋ですが」

「ああ、それに入れた方がマシかもしれないですね。持ってきてもらえますか? 飾りたい絵は沢山あるので、多いと助かるんですが」

「わかりました」


 白瀬がフットワーク軽く部屋を出て行く。


「ぼ、僕も取りに行きますっ!」

「うん、助かる」


 これ以上役立たずでは、さすがに気まずい。

 今度白瀬が乗ってきた車は白い車体のワンボックスだった。


「絵を運ぶのにいるかと思ってあるもの集めてきたんだけど、色々持ってきてよかったみたいだね」


 白瀬が重そうな段ボールの束を抱えようとしている。


「重いのは僕が運びますよ」

「そう?」

「白瀬さんは軽そうなやつ運んでください」


 力がある方ではないが、女性に重いものを持たせるわけにはいかない。


「力は結構あるつもりなんだけどね」


 白瀬がビニール袋の詰まった紙袋を両手に抱える。そして、和季に向かって微笑んだ。


「だけど、ありがと」

「い、いえ」


 思わず和季は目を逸らす。お礼を言われたことが素直に嬉しかった。そして、白瀬が和季に向かって笑ってくれたことが、なんとなくくすぐったかった。


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