パワーマンステージ
ロロアちゃんは遂にパワーマンの居るニュートリノ発電所までたどり着いた。
特殊部隊の期待を一身に受け、緊張する。
果たしてロロアちゃんはパワーマンの暴走を止める事ができるのだろうか!?
「ロロアちゃん。分かったわね。」
「うん。」
テリンコさんに言われ、私はうなずいた。
心臓のフィンが高鳴り、不安と恐怖でいっぱいだ。
パパに頭を撫でられ、ヘッドギアを装置される。
ぬいぐるみのママが私に寄り添う。
「私はこの体がもつ所まで一緒にいくから。ああ、ロロア・・。私のロロア!」
ママがマイクごしに泣くのを感じる。
「ロロア、危ないと思ったら逃げ出さず、安全な所を確保してジッとしているんだ。冷却水のルートが見つかってしまう危険もさておき、ロボット兵団は人間のように降伏した相手に情けをかけない。ロロアバスターは自身が危険を感じた時のみ撃ってくれ。無用な発砲は敵の増援を招く事になるだろう。」
真夏さんに言われ、緊張のあまり朝に食べたモンブランを嘔吐した。
「も、もっとプラスな情報はないんですか!?」
パパが私の背中を擦りながら悲痛に訴える。
「そうだロロア、もしもロボットに見つかってボディを破壊されても。脳のデータが残ってればすぐに直す事が出来るから・・あぁあっ!」
「縁起でもない事いわないで!」
ママに注意され、パパは嘆いた。
「ロロアちゃん、ロボット兵団は良くも悪くも従順なの!大事がなければ、きっと持ち場を離れたりしない。冷却水の中は警備をしていない筈だし。あなたはロボット。つまり仲間として認識される筈だわ!」
私の頭の中にニュートリノ発電所の内部情報がダウンロードされる。
『井上ルート』が小さく表示され、私の進むべき道が青く記された。
配管が通路を通っているからか、ほとんど井上ルートだった。
「お使いのある、かくれんぼだと思えばいい。オニに見つからずバルブをしめる。そして、隠れる。簡単な事だ。施設が冷却されるのを確認したら、特殊部隊が突入してパワーマンを破壊する。大丈夫、きっとロロアならやれる!」
真夏さんが肩をバンバン叩き、ダーパさんは私を見て(ガ・ン・バ・レ)と小さく言った。
作戦室を出ると、他の隊員も私を見に来た。
私に手を降ったり、表情は様々だ。
ただ、みんな泥だらけで、疲れていて、体のどこかしらが負傷している・・。
「ロロアちゃん、頭に気をつけて!」
テリンコさんにつれられて、ニュートリノ発電所が一望できる所に来た。
その瞬間、リクトが汚い雑巾で溢した牛乳を拭いたような私の人生で嗅いだ事のない悪臭がした。
動物の腐敗する臭い、ロボットが焼ける臭いだ。
発電所は即席のバリケードが幾重にも重なっていて、たまにバリケードの隙間から光線銃の銃声とキラッキラッと光が見える。
私は唾を飲み込むと、恐る恐る双眼鏡を覗く。
煙がいくつも立ち上ぼり、護送車が横倒しになりバリケードを突き破ってとまっていた。
あそこが『井上ルート』だろう。
バリケードのまわりに特殊部隊が何人もいた。
ロボット達は気付かないのか、別の方向を狙っているみたいだ。
「あの・・テリンコさん。あそこのバリケードにいる方達は何をされているのですか?」
「ロロアちゃん。あれはウェーブ1でやられた残骸よ。」
ロロアが本陣を出て、特殊部隊の最前線につく。
ロロアのリュックにはAタンクが2つとぬいぐるみが入っていた。
手が震えだし、両手でグッとおさえる。
しかし、私の体は全身震えだし、歯がガチガチ言いだした。
心臓のフィンも壊れそうになるくらい鳴る。
遠くで真夏さんが野砲を構えているだろう。
テリンコさんは援護射撃をしてくれる筈だ。
「大丈夫か?ロロアちゃん」
「・・・はぐっ!」
「ロロアちゃん!」
「あぐっ!」
鎧を着た女性隊員が私を叩く。
「しっかりして!みんな怖いの!!強くなれ!ロロア!」
「みなさん!ロロアの命を繋いで下さい!お願いします!!」
ママがリュックから顔を出して叫ぶ。
「おう!!」
「おうよ!!」
「やってやろうぜ!!」
皆が自分の鎧と盾を叩いた。
真夏さんがサーベルを持って前に出るのが見える。
私を見ると、サーベルを斜め下に掲げる。
「そうだ・・みんな怖いんだ!!頑張れ私!!頑張れロロア!!」
私は自分の頬を叩いた。
「撃てぇええ!!」
不意に真夏さんが絶叫し、怒号のような銃声が聞こえた!
私はその音を合図に走り出した!!
「うぉおお!!」
後ろから雄叫びが聞こえ。
いくつもの弾丸やビームが私の後ろを通りぬけた!!
「ロロアちゃんに続けぇえ!!第一前線まで保護ー!!」
私の後ろに盾を持った特殊部隊が続いた。
私は歯を食い縛りながら走った!
特殊部隊をぶっちぎり、残骸を抜け、真夏さんの砲撃が頭上を飛んだ。
砲弾は私の後ろに炸裂し、ロボット達が破壊される。
井上ルートの目印である破壊された護送車を抜け、ニュートリノ発電所のバリケードを飛び抜けるとポッカリ空いた巨大な穴が見えた。
私はタン!!とたたらを踏むと。
ギリギリ入れるくらいの巨大な管を見つけて中にとびこむ。
そして膝下くらいまで水に浸かりながら、冷却管の中を進んで行った・・。
「・・ちゃん。ロロアちゃん。大丈夫?」
「うん。」
いくぶん心が慣れてゆく。
冷却水の水の音しかしない暗い中を、ロロアは頭と胸のライフコアの明かりを頼りに進んだ。
「ここよ、ロロア」
暫く進むと、『23号点検口』と書かれたハシゴがあった。
おそらくこの上が井上ルートだろう。
警戒しながら点検口を開け、さらに進む。
途中に2メートルはありそうな段差や、天井に空いた扉にあたった。
ワイヤーで登るように工夫がされていたり。
無理やり爆破した形跡がある。
防護服を着た人が倒れていて、私の横の壁がたまに何かのシグナルを通路一面に発する。
人間の活動出来ない『何か』が流れているサインなのかもしれない。
その先でも何人か覆い被さるように重なっていた。
おそらく、ロボット達が人質にしようと連れてきて、防護服を着せたが侵食してしまったのだろう。
合掌したまま倒れている人もいる。
やがて井上隊の隊員らしき死体も見つけた。
隊員達は、防護服を着けずに鎧と白い襷をバツの字につけて絶命していた。
多分、護送車で突っ込んだ後にパワーマンに一矢報いる。
または一太刀でも入れようとしたみたいだ。
井上隊長はどこだろう。
「ロロア・・私、限界かも・・しれない。」
ママはリュックから飛び出した。
見ると体は熱くなり、動きがおかしい。
「ママ、大丈夫?」
「・・そうだ、ロロア。私は・・医務室と隠れられ・・・所を探してくるわ。」
「そこで何してるんだ?」
「きゃっ!!」
※※※※※※※※※
ZM-200は目の前の容赦ない砲撃と、仲間の死(ZM-000※の撃破)を眼前で見てしまい。
充電に行くと見せかけてサボり、自分の進むべき道に葛藤していた。
こんな戦場に不似合いな女の子がいる。
顔は人間のようだが、体はロボット。
もしかしたら上様が作ったサイクロイドかもしれない。
「あ、あのっ・・そのっ!」
女の子がモジモジする。
手にはぬいぐるみが抱かれ、武器らしきものはなかった。
「あの、オジサンは何をしているのですか?」
「えっ!?俺?俺!?」
声が上ずる。
お偉方の女方だったら大変だ。
でも、巷に聞くと女方はキュリーとか言う成人女だと聞くし。
女型ロボットは煌びやかに着飾ったボディが多い筈だ。
この女の子は一体?
「俺の名前はZM-200。ここいらの警備を任されています。」
「警備!?」
女の子は顔を真っ青にして驚く。
なぜ、そんなに驚くのだろうか?
あっ?まさか変な事言ったのだろうか?
「お、おうよ!・・す、すいません!嘘つきました!!」
しかし、やっぱりZM(雑務)の性分か。
嘘って言うのはつけねぇよ。
ちなみに彼女はロロアと言うらしい。
どうやら『お使い?』を頼まれたみたいで、俺はクマさんを医務室に連れて行くまでの間、今までの心の悩みを洗いざらい話す事にした。
ロロアちゃんはクスリと笑い。
「ニイさん(200なので)は、最初から良い人だと思ってましたよ。だって、ライフコアが青くなっているんだもの」
と、俺の額のコアを指差した。
「あっ!コイツはいっけねーや!あはははは!」
ロロアちゃんも笑い、しばらく笑った。
心から笑ったのってどれくらいぶりだろう?
「ロロアちゃん『お使い』って、ここに何しに来たの?」
俺は笑いながら、さっきから気になった事を聞いた。
「私?私はね!ニュートリノ発電所のバルブを閉めにきたの。」
「へぇ!こいつは驚きだ!バルブを・・はぁあ!?」
ロロアちゃんは、口を抑え『しまった!!』と言う顔をした。
「ご、ゴメンなさい!」
「いや、ゴメンなさい!って、えぇえ!!」
俺は驚愕した。
「私はあなた方の敵です・・!バルブを閉めるように真夏さんや、テリンコさんに頼まれて・・それで。それで・・!」
「なっ・・なっ!」
いやいやいや、マジかよ!!
それを頼むってなんだよ!!
バルブを閉めるのが云々(うんぬん)の問題じゃない。
敵として相対している人間の『性根の悪さ』に驚愕した。
いたいげな少女を使って、そこまで勝ちたいのか人間って奴は!?
で、何だ?
武器と言えば、ぬいぐるみで。
こんな戦場に放り投げるなんて!!
どこまで切羽詰まっているんだ!?
「あの私、みんなを助けたいんです!こんな事するより、もっと解決策はあるのではないでしょうか!?」
「む・・ぐむっ。ぐむむ」
ロロアは俺を見ながら訴える。
なんて綺麗な青い目をしているんだ!
しかし、自分にはどうする事も出来なかった。
「そ、そうだ。良い考えがある・・。」
俺は良い事を思い付いた。
「分かってくれたんですね!?」
ロロアが綺麗な瞳で俺を見つめた。
ロロアの足下は泥とオイルで汚れ、良く見たら目の下に涙の跡があった。
これ以上ロロアを見ていたら、俺のライフコアが破壊されそうだ・・。
同じZMシリーズで同じ理解者がいるのを思い出したのである。
※※※※※※※
ニイさんに連れられて私は歩いた。
ママを医務室に連れて行き、とりあえず『一番の理解者』の元へ行く事にした。
通路を左にそれて、廊下を抜けると博物館で見るような物があった。
『襖』だ。
「ZM-200入ります!」
「どうぞ」
・・・。
・・・。
「ニイさん、これ引き戸ですよ?」
「あっ!ゴメン!!」
ニイさんは馴れていないのか、襖の前でしゃがむと2回に分けて引いた。
「そこまで畏まんなくて良いでやんすよ。」
そこにはZM-300と言うロボットがいた。
見た目はニイさんとソックリだけど、赤いハッピを着ていてちゃぶ台で銀色の折り紙を刻んでいた。
奥には『寿』と書かれたAタンクの樽が置いてあり。
まるでここだけお祭りだった。
「かくかく、かような通りで」
ZM-200と300が両手を合わす。
情報を同期しているようだ。
「おーけー!」
ZM-300はグーサインをすると、しばらく考えた。
「それは困ったでやんすねぇ・・」
暫く考え。
「あの、パワーマンのお偉方は?」
とニイさんが聞いた。
「旦那様は上様からの一報が来ないのを気に病んでまして、コレ(飲む仕草をする)してます。」
「コレ、ですか?で、本部から、本当に何も来ないんで?」
「来ないでさぁ。あっしの情報では人間の兵隊サンとドンパチするのに、ストリームマンを徴収してるとかって話です。いやぁ、物騒なこったで。」
しばらく二人は『~でやんす』と話した後ようやく私の事を思い出した。
「まぁ旦那様にはあっしが言っときますから、連れてってやってくんさい。」
「いいんですか?」
「それで戦が変わるってモンじゃないっしょう?いいから、いいから。あ、お嬢ちゃん。」
私はZM-300から饅頭を貰うと(あぁ、忙しい)と、襖をピシャリと閉められてしまった。
本当に良いのだろうか?
「ロロアちゃん!良かったな!これでバルブを閉めれるな!」
ニイさんに言われ、一応良かったのだと安心した。
「ありがとう、ニイさん!」
私はいつしかスキップして鼻歌を唄っていた。
・・そこは、メカニロボの巣窟だった。
ニイさんに手を引かれ、ニュートリノ発電所の心臓部に向かう。
通路には倒した敵の外骨格で着飾ったバーサーカーと、サソリ型メカニロボが談笑しながら不気味に鋏を手入れし、ブラックアイが綺麗に隊列を組ながら歩いていた。
ムカデ型メカニロボが天井を怪しく歩き、グリーンキラーがため息をつきながら領収書を集めて計算している・・。
鎌に持ちかけた掃除ロボット、トゲトゲのついたタイヤのあるバイク型ロボ。
私はニイさんに説明をうけながらロボット兵団の軍事力を余すことなく見せつけられた。
「ここだ。」
しばらく歩くと、管制センターがあり。
上下に開く変わった形の自動扉が2ヶ所あり・・。
さらに進むと、そこには大量の黒いタンクが並んでいる不思議な通路に出た。
タンクに空いた小さい窓から燃焼する炉が見えた。
ニュートリノジェネレータはどこだろう?
「これが、バルブだ。早く終わらせてお帰り。俺も溶けちまいそうだ。」
ニイさんがたまらず外へ出て行き、私はバルブを握った。
「くっ!くぬぬっ!」
バルブを握った瞬間、手から煙が出る。
私は構わずバルブを閉め続けた。
私の腕でもバルブは大変なのだ。
「くぬぬぬ!ぷはぁー!」
バルブを閉め終わった瞬間、炉の明かりが一斉に消え。
壁を走っていたシグナルが消えた。
地面を小さく揺らしていた振動もなくなり、熱さもひいてゆく。
一瞬の静寂。
終わった・・よね。
「・・ふぅ。」
私は安堵して、隣の管制センターに向かった。
「ニイさん?」
管制センターのモニターは全て消え。
何かがノシノシ歩いてくる。
「あっ!!ああああっ。」
私はそれを見ると腰の力が抜け、座り込んでしまった。
そこには、縦も横も数倍大きい大男がいた。
「オマエは誰だ!!!」
「きゃああー!!」
涎を垂らし、怒りの形相をしている大男は、雷の雷鳴のように叫ぶ!
まるでさっき見た炉のように地獄の鬼は吼えた!
「心配だから見に来たら、このていたらく!!
どいつもこいつも仕事をしないで!!おまけに人間はガキをよこしてくるとは!!!丁度いい!!お前を見せしめに八つ裂きにしてくれるわ!!」
私は恐怖のあまり這いつくばった!
「きゃああ!来ないで!!!パパ!!ママ!!!」
私は腰を抜かしながら尚も這いつくばり、必死になって出口を探した。
扉までたどり着いたけど・・開かない!!
きっとバルブを閉めたからだ!!
心臓が狂ったように高鳴る!
そうだ!!
こんな時こそロロアバスター!
「うぉおおお!!」
しかし、男が地底から沸き上がるような壮絶な咆哮をした後、私は頭を捕まれたまま何度も地面に叩きつけられた!!
「い、痛い!!」
今まで味わった事のない激痛が襲い、バキバキと装甲が割れる・・。
足を捕まれ何度も壁に叩きつけられる・・。
どれほど経っただろう。
光がまわる・・。
不思議と痛みは無かった。
音もしない。
感覚もない。
コントロールパネルが何度かちらつき、私は壁にぶつかる。
ヘルメットが割れて転がり、右腕が千切れて落ちる。
息をしようとしたら、吸うばかりで吐く事ができない。
胸を見ると、壁の突き出た鉄骨が背中から胸にかけて貫通していて、白い水が吹き出していた・・。
貫通した鉄骨のせいで逃げれないや・・。
これが私の体を巡っていたのか。
白い水はやがて茶色いとろみのある液体に変わる・・。
手に取ろうとしたら、左腕が不自然な方向に曲がっていた。
瞳の中に不思議な『5099』と言う文字が出て『3556』や『1999』と急激に減ってゆく・・。
男に足を捕まれ、バチバチとした衝撃の後。
配線を引き摺りだされた。
足が外れて遠くに投げ込まれる。
顔に噴き出した白い水がかかる・・。
・・私が・・死ぬ。
・・私が・・バラバラになってゆく。
男が私の首に腕をまわし残っている胴体を海老反りにした。
もの凄いパワーで、胸のライフコアが弾け。
全身が軋みながら割れてゆく・・。
あいつは、最後の仕上げをしようとしている。
いやだ・・。
いや・・・。
い・・・。
モンブラン
かち栗(勝ち栗)にあやかり、カイン博士が与えたものと思われる。