彼女の名前はロロア
新しい体に作り替え、転入してきたロロアちゃん。
体の調整もそのままに、クラスメイトとファーストコンタクトをとる。
2xxx年
人類はロボット工学の発展と共に繁栄と栄華の絶頂にいた。
科学者マット博士のもと世界規模の都市計画事業が進められ。
空気から水を作り上げる浄水場。
地底のマントルから得られる火力発電所。
人工樹木のあるフォレストパーク。
スペースデブリを回収する宇宙要塞。
そして、未来の宇宙開発の基礎となる重力センターなど多岐に渡り、それを統括する優れた頭脳を持つロボットが作られていった。
そして理想都市『メルヴィア』。
そこはマット博士を初めとする優秀な科学者達が住む近代都市だ。
そして、カイン博士が医療の分野で成果をあげた。
それが・・。
「今日は皆に、新しいお友達を紹介します!皆と少し違う所があると思いますが、皆と変わらない元気な女の子です。みんな、仲良くできますね?」
「はぁーい!」
「先生ー!『皆と少し違う所』ってどんなところー?」
「彼女は長いこと入院していて、ようやく退院できたのです。ほらッ、今ドラマでやっている『レフトサポート』を観た生徒なら分かるんじゃないかな?」
「どうゆうドラマだっけー?」
「リクト、知らないの!?遅れてるぅ!あははは!」
私は緊張しながら、自分の名前が紹介されるのを廊下で待っていた。
心のフィンが鳴り、その振動が教室に聞こえてしまうんじゃないかとヒヤヒヤした。
とても女の子とは思えない青緑の大きな足。
鎧みたいな腕。
赤いランプの付いた胸。
歩くと足に内蔵されたエアーで、皆と違った足音だってする。
皆、私を見て驚くかもしれない。
恐がるかもしれない。
「『レフトサポート』って、足の無い人や体の無い人にパワードスーツを付けてあげる上条シュン主演のドラマですよね先生?」
「そうそう!私、上条シュンのファンなのよ!」
「えっ!?そういう話?」
教室の中は賑やかだ。
『ロロアちゃん、学校を楽しんできておいで。笑顔を大切にするんだぞ?』
お父さんに言われた事を思い出して、窓ガラスに反射させて笑顔を作った。
肩まである、赤みがかかったブロンドの髪。
青い瞳。
大丈夫、きっと私なら、大丈夫。
「・・じゃあ、話がだいぶ反れましたが。
皆さん拍手をして!親しみを込めて呼びましょう!ロロアちゃーん!」
「はぁーい!!」
私は頑張って声を張り上げて飛び出した。
「わぁー!!」と言う歓声と、黒板に私の名前が映し出された。
名前が輝きながら『welcome』と言う文字が出る。
「なんだぁ、普通の女の子すぎてびっくりしたよ!」と、女の子が驚いた。
「はい!みんな静かに!じゃあ早速ですが、ロロアちゃん、簡単な自己紹介をお願いします!・・やりたい事があるんですよね?」
「はい、先生。私は皆とかけっこしたり、体育を行いたいです。私は小さい頃から体が弱くて。
パパ・・父に体を作ってもらい、こうして歩けるようになりました。」
「まんま、レフトサポートだ!」
男の子が驚く。
「そうかもしれませんね!なので、私を仲間に入れて皆でスポーツをしてくれたら嬉しいです!宜しくお願いします!」
「宜しくね!ロロアちゃん!」
「よろしくー!」
「はーい!素敵な自己紹介でしたね!皆でロロアちゃんと遊んであげましょう!」
皆が拍手をして、奥の席につくまでハイタッチしてくれた。
私は少し恥ずかしがりながらハイタッチする。
「私、ハナゾノ・メリル!よろしくね!メリルでいいから!」
「俺、カガミ・リクトって言うんだ!」
「はいはい、リクト!」
「なんだよーメリル!それはないだろ!?」
メリルとリクトは仲がよさそうだ。
左の席のメリル。
右の席にリクト。
名前を覚えないと!
私が心配する事なんて必要なかったんだ。
私はほっと一安心した。
「でねー!メリルが家に遊びに来なよって!パパ!今度行ってきてもいい?」
「ほぉー、ロロア、もう友達が出来たのか!」
早速、ラボから戻ったパパに今日の事を話した。
私の家は、3階建てのごく普通のセル型ユニットハウスだ。
1階のリビングの区画を中心にして2階にパパとママの部屋があり、3階に私の部屋がある。
リビングから廊下の区画が付いて玄関と、真ん中にトイレが南に付いて。
リビングの東の区画にパパのラボがついている。
パパはラボから戻ってくるとリビングのソファーに必ず座るので、私はいつものようにキッチンでソリッド(固形飲料)を液体に戻して飲み物を持ってきてあげるのが日課になっていた。
「はい。オレンジジュース!」
「ありがとうロロア。わっ。いつもよりキンキンに冷たいね!」
「でねー!メリルの家でVRをやろうって話になっているの!他の子もみんな優しくて」
「そうか、そうか。」
「ねぇパパ、いいでしょう?すぐに帰ってくるから!ね?」
「うーーん。でも、まだロロアの再調整が済んでないしなぁ。」
「再調整までに戻ってくるから!ね?お願い!」
私は、可愛く見えるようにパパの足下に来た。
パパはこれに弱くて、私は『最後のひと押し』で使っている。
「うーーん。分かった。でも、門限にはすぐに帰ってくるんだよ、ロロアちゃん?」
「やったーー!!」
私はパパに抱きついた。
「お、重い!!」
エアコンのヴンと言う起動する音がする。
「あなた、体内の血糖値が下がっているわ。ご飯を食べて?ロロア、今日は良い1日だったみたいね。」
「うん、ママ!いつからオンラインしていたの?」
「ずっとよ?ロロアの話を聞いて安心しちゃった!」
ママは優しい風を運びながら私に言った
。
ママはこの時間になると、エアコンの『見守り機能』で話かけてくれたり『ペディベア』になって寝る前にお話をしてくれた。
この時間にオンラインと言う事は、早く帰れたようだ。
ママは家庭用分子・ビストロトミー(分子料理の派生型)の料理研究員で、 世界を飛び回っているので滅多に帰ってこない。
チン!と言う音がして、料理の分子結合が終わった音がした。
「今日はポークステーキよ!ロロアも定期的にAタンクを飲みなさいね?学校でも飲んでるわね?」
「飲んでるよママ。安心して!」
「食べなくてもいいのにー。」
パパが駄々をこねる。
「あ・な・たは食べなさい!」
リビングからステンレスのテーブルユニットが出てきたので、ポークステーキのプレートと冷蔵庫からEタンクを出してきた。
パパはしぶしぶ、席につき。
私も椅子に座る。
「この何気ない日常が大切なのです。じゃあ、手を合わせて?いただきます!」
「いただきます!」
「いただきます。」
パパが、やれやれと言う顔でナイフで切ったステーキを食べ初めたので、私もAタンクの蓋を捻った。
パキッと軽い音がして、蓋が開き。
2番目の蓋から突起が出てくるので口にした。
味のしない冷たい液体が、私の口から喉を抜けて体の中に入る感覚がする。
胸の赤いコアの光りが鮮やかになった。
きっとママも向こう側で何か食べているのだろう。
『次のニュースです。』
パパが沈黙を破ってテレビを点けた。
『昨夜未明、フォレストパーク深層部にある伐採用ロボット3体が持ち場を逃走。労働組合員2人に切りつける事件がありました。』
テレビは、フォレストパークの広大な森
を映し出し、事件のあったであろう場所を映した。
樹木の合金形成層がズタズタに破壊されている・・。
『尚、フォレストパークでは以前からロボットの過重労働が問題視されており。2000時間の労働を強いられた運搬用ロボットが金属疲労で壊れる事件があったばかりです。警察は現在、事件・事故両方を視野に入れた捜査と、逃走したロボットの足取りを追っています。』
「最近、こういう事件多いね。」
私がポツリと言った。
「ロボット工学が進むにつれて、ロボットの人工知能が発達したからだろう。文明社会の発展か、ロボットの人権か・・。人間は大きな選択を迫られているのかもしれないね。」
パパはそう言うと、ひときわ大きなポークステーキにマッシュポテトを付けて食べた。
私は飲み終わったAタンクを見る。
『電解物質』『人体に深刻な影響あり』『目に入った場合、すぐさま医師の相談を・・』と、書いてある。
これを飲んでいる私って・・人間なのだろうか・・。