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人魚姫  作者:
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新たな仲間


 翌日目を覚ますと、ベッドの脇に新しい服が置いてあった。

(これ…)

 両手で持ち、広げてみるとフィリアの知っている服より、丈が短いものだった。どうやってこれで身体を隠すのかと思っていると、服の下にもう1つ服のようなものがあり納得がいった。

 これが人間の履くズボン、と呼ばれるものだと理解したフィリアはさっそく着替えだす。


「お嬢さんー?お目覚めですかー?起きていたら扉を叩いてくださいー」

 扉の向こうからルイスが声を掛けてくれた。丁度身支度を整え終わったので扉に駆け寄って合図を鳴らす。

「おはようございます。ここで待っているので、着替えが終わったら出てきてくださいー」

 返事の代わりにもう一度扉を叩いた。


 着替えた服を鏡で確認すると、昨日のワンピースとは違い動きやすい短めのズボンに薄手の長袖、赤チェックの膝くらいまである上着。靴、と呼ばれる足を保護するものも、デザインが可愛く、フィリアは気に入った。髪も頭の上の方で一つに結び、人間の女の子になっている。

(に、似合ってる、かな…)

 種族は違えど、フィリアも女の子だ。鏡の前でくるくると角度を何度も変えてチェックしてしまう。

 いまだに足があることになれないが、昨日よりはだいぶ勝手がわかってきた。

  

「おっ。やっぱり似合ってますね」

 部屋の外にはルイスが言葉通り待っており、フィリアの姿を見ると嬉しそうに笑っていた。

 ルイスの反応に気付かれないようにホッと胸を撫でおろすフィリア。

 朝日の差し込む廊下を、ルイスと共に歩き出す。


「実はその服、お嬢さんに似合うと思って昨日買っておいたんすよ」

 意外なその言葉に、ルイスをまじまじと見る。当の本人は気にすることなく前を向いて歩き続けている。

 

(じゃあ、もしかして…)

 ワンピースに着替えさせてくれたのも、ルイスなのでは、と考えかけて慌てて頭を振った。それはもう考えないようにしたんだと言い聞かせ、廊下に視線を移す。

 フィリアが借りている部屋と同じ扉が均等に2つ並び、反対の壁は長細い窓が1メートルおきくらいにあるため、太陽光がよく入り、とても明るかった。


「ここがリビングです」

 右に曲がった先に大き目な扉があり、ルイスがゆっくりと押し開く。 

扉の先には、火のついていない暖炉や広めの長机を囲むようにゆったりできそうなソファが置かれていた。なんだか心が落ち着くような空間だった。

 フィリアはあたりを見回し、視線が一点に止まった。ソファに誰かが寝ていたのだ。

 フィリアの視線をたどり、同じところを見たルイスは、そこにいた人物に顔をしかめる。


「おいバリオ!ソファで寝るなって言ってるだろう!」

「んー?うるさいぞ、ルイス…」

「うるさくもなるだろ!何回言っても聞かないんだから!」

 けだるそうにバリオと呼ばれた男性は体を起こす。額に手を当て、眠そうに片目だけ開いている。

 身支度は整えられていることから、仮眠を取っていたと予想がつく。

 フィリアがじっと見つめていると、視線に気づいたバリオが顔を上げた。


「そうそう、この子が、ボスの言ってた…」

「おや、可愛い子だね。俺はバリオって言うんだ。君の名前を聞いてもいいかな、子猫ちゃん」

(こ、こねこ…)


 ルイスなどいないかのように、バリオはフィリアだけを見つめてくる。

 フィリアの背に、悪寒が走った。バリオの艶妖な笑みや視線、言葉遣いすらなんだか絡みつくようで、半歩後ろへ下がる。

 バリオはフィリアよりも頭一つ分背が高く、近寄れば近寄るほど視線が上がってゆく。

 しかし、そんなフィリアを気にせずに立ち上がったバリオはずいずいと近寄り、両手を握ってくる。

 身を引こうとするが、がっちりと掴まれた腕は振りほどけなかった。

 フィリアは違和を感じ恐る恐るバリオを見上げる。

 目が合った瞬間、動けなくなった。顔は笑っているのに、目が笑っていなかったのだ。

 

「バリオ、お嬢さんが嫌がってるだろ」

「嫌がっている?本当に?ルイスは彼女のことを良く知っているのかい?」


バリオの言葉にルイスは言葉につまった。逆にフィリアは合点がいった。

ボスが助けたとはいえ、言葉の話せない、身元不明のフィリアをバリオは警戒していたのだ。




「朝から騒々しいぞ。お前ら」

「おはようございます、ボス」

 呆れながら入ってきたゼンにけろりと挨拶を交わすバリオの様子に、フィリアは不信感を抱く。

「バリオはこんな感じなんです。悪い奴じゃあ、ないんですけど」

 態度が顔に出てしまったようで、ルイスが申し訳なさそうに言った。

 不審なのは、自分も同じだ。いくらゼンが拾ってきたからと言って、自分の目で確かめてみなければ判断することはできないだろう。

 フィリアは一歩、バリオに近づいた。

「ん?”わたしは、ふいりあ”…フィリアちゃんって言うのかい?」

 笑顔で頷いてから、ごめんなさい、と口を動かした。

 すると、3人ともポカンと口を開けてフィリアを見つめていた。

「…はは、ははは!いいね。天使ちゃん、気に入った。これからよろしくね、フィリアちゃん」

 ゼンとルイスはやれやれといった様子で頭を抱えてため息をついてしまった。正反対の反応でフィリアもどうしたらいいのかわからなかったが、バリオの雰囲気が優しく変わったので良しとすることにした。

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