二度目の目覚め
暖かい日差しに誘われるように、フィリアはゆっくりと目を覚ました。目の前に広がる、どこか見覚えのある白い天井。
(いたっ)
身をよじろうとして、腹部の痛みに顔を歪める。その痛みが、夜の出来事を思い出すきっかけとなった。
痛むお腹を抑えながら、ゆっくりと体を起こすと、意外な人物が視界に入り、目を数回瞬いた。
ベッド脇の椅子に腰かけ、腕と足を組んで目をつぶっているのは、ボスだった。
太陽の光を浴びてキラキラと輝く金髪に閉じられた瞳に白い肌、どこかの王子のようにとてもかっこよく見えた。
「ようやく、お目覚めか」
(お、起きてたの!?)
ゆっくりと瞼が開き、ブルーの瞳がいたずらに輝く。起きていたことに気づきもせず、見つめていたことに恥ずかしくなり、すっと視線を逸らしてしまった。
しかし、その行為はボスにとって別の意味で捉えさせてしまったようだ。
静かになったボスに視線を移すと難しい顔をしてフィリアのお腹辺りを見つめていた。
(あ…)
「すまなかった」
ボスは頭を静かに下げた。昨日、ボスは影から全て見ていたらしい。つまり、フィリアが死を覚悟したとき助けに現れたのは、偶然ではなかったのだ。
「さすがに怪我をする前には出るべきだった」
フィリアは、頭を下げる彼をじっと見つめる。その目にあるのは怒りでもなく、悲しみでもなく、優しさがあるように見えた。
つんつん、とボスの肩をつつき、視線が合ってから口を動かして見せる。
「!あ、ありがとう?君が襲われていた時に、助けなかったのに?」
フィリアは困ったように笑って見せる。昨日の出来事は、フィリアが外に出なければ起こりえなかったし、外に出たいと誰かに言っていれば、襲われる前に追い払えたかもしれない。
つまり、非があったのはフィリアの方なのだ。それなのに彼は、それを言わずに謝ってくれている。
いい人なのだと、フィリアにも分かった。
「“私も、ごめんなさい”、か。お互い様、ということだな」
(あ…)
ふっと微笑む彼のその目に、心が何だか温かくなる感じがした。
空気が緩んだとき、コンコン、と扉が遠慮がちに叩かれた。
「あぁ。そうだ。君を心配していたのは俺たちだけじゃないんだ。-入っていいよ」
促され入ってきたのは昨日の女の子だった。ドアノブにもう少しで達しそうな小さな少女は昨日と同じぬいぐるみを胸の前でぎゅっと抱きしめ心配そうにこちらに駆け寄ってきた。
「おねぇちゃん…」
(良かった。無事だったんだ)
女の子を手招きして、安心させようと頭を撫でる。困惑した瞳はボスに向けられていた。
「こいつは色々あって話せないんだ。怒ってるわけじゃないから安心しとけ」
「そう、なの…?」
ぱっとこちらを振り向いた少女に苦笑を浮かべ、口をパクパクと動かして見せる。悲しそうな顔をしたので、フィリアはもう一度頭を撫でた。
「この子は、数日前から行方が分からなくなっていたんだ。俺たちも必死で探していた」
「助けてくれて、ありがとう」
いまだ戸惑いに瞳を揺らしながら上目遣いに少女は言った。
「自己紹介してなかったな。俺はゼン。この子はミーナだ」
ゼン、ミーナ、そう心の中で繰り返す。
「君は―フィリア、か。良い名だ。改めて、君を歓迎しよう。フィリア。これからよろしく」
こちらこそ、そう微笑んで差し出された右手に同じ手を出して応えた。