〜 北條と言う男 〜
奇妙な一日を終えた後。
何故か俺の母親と意気投合した光堂さんは家の居候となっていた。
「あらぁ、光堂ちゃんったらお上手なんだから、いつまでもここに住んじゃっても良いわ、あなたはもう私の二人目の息子みたいなものよ」
母親はいつも誰に対しても、こんな調子だ。
うちは母子家庭で、産まれた時には既に親父は居なかった。
最初から親父は居ないものだったから、居ない事で格別寂しさを感じた事はなく、なにより母親の明るい性格が俺にそれを感じさせる余地を作らなかったのかも知れない。
今まで何故父親が居ないのかは聞いたことが無かった。
正直、どうでも良かったし、いや本当は、聞き辛かったのかもしれない、母親からも語られる事は無かったから。
俺の隣の部屋は空き部屋だった、今はそこに光堂さんが住んでいる。
なんだか家が少し賑やかになった感じもしていた。
少し風変わりな兄貴が出来た様なそんな気もした。
あの日の帰り道、俺は光堂さんに聞いた事がある。
「何故俺の元に来たんっすか?それに俺に何をしろって?」
光堂さんは話をはぐらかす様に「まあ、そうせかすな、その時々ゆっくり語るよ」と言って話を逸らされた気がした。
一体俺はこれからどうなってしまうんだろう?
好奇心と同時に、言いようの無い不安に包まれる様なそんな気分もあった。
今までの常識の延長線上に思い描け無い未来、全く先の見えない明日が少し怖くもあった。
しかし、昨日の化物、あれは現実だったのか?
それに幽霊まで、いや、何より光堂さんの存在自体が謎すぎる、考えても分からないので、俺はとりあえず眠る事にした。
こうして俺の本当に奇妙な一日は終わった。
「おい、いつまで寝てるんだ」
その声に俺は叩き起こされる事になる。
「今日は休みっすよ」ってか起こすの誰だよ?と即座にそんな思いが頭をよぎった。
目を開けると光堂さんの姿が視界に入り、昨日と言う一日は、夢ではなく現実だったんだと実感する事になったのだ。
「今日は、お前をある人のとこに連れて行く」
「ある人?」
こうして俺と光堂さんは今電車に乗っているのだ。
昨日の運転で光堂さんは懲りたのか、どうやら今日は車を使わなかった。
しっかし、この反応は·········なんだ?
「うわーなっつかしいなぁ、電車、そうそう、やっぱこれだよ、電車なんかちっとも好きじゃなかったけど、こうして乗るといいもんだなぁ、まだまだ時代遅れじゃないよこれは」
何だこの反応は?時代遅れって、一体じゃあ最近光堂さんは何に乗ってたんだ?
「光堂さん、そろそろあんたの事教えてくださいよ」
光堂の笑顔が消える
なっ、なんだ 何か不味かったか?聞くのがこっ、怖い
にやり
「どこからどう見ても普通の人間だろ」
「そうじゃなくって」
「おっ、着いた 降りるぞここだ」
また話を逸らしたな…
その場所は森に囲まれ、辺りには建物などが一切無く、自然と一体化した様な古びた駅
人類と言う文明が何一つ手をつけていない様な場所だった。
「いやー聞いてはいたけど良い場所だなぁ」
「光堂さんここは?」
「お前に会わせたい人が居る』
「誰なんすか?」
「実は俺も会った事がなくてよく知らねぇ」
タケルはずっこけた。
「まあ、ついてこい。一つ」
「只者ではない事は確かだ」そう言う光堂さんの瞳は本気だった。
駅から更に森を3時間歩いて着いたのは(と言うかこんなに歩く事になるとは)何もなかった森の中、突然、大きな大きな、鉄で出来た門が姿を現した。
光堂が入り口の門を叩く
「すいません、北條さん、居るんでしょう」
暫しの沈黙の後
ゆっくりと門が開き出す
俺は覚悟した、きっと中から人ではなく、昨日の化物の様な奴が出て来るのだと、身体は勝手に身構えていた。
「いらっしゃい」
中から出て来たのは普通も普通、普通過ぎるオッサンだった。俺は再びずっこけた。
身長185くらいだろうか?
結構背は高い
すらっとして痩せているのだが、体格は、がっしりしている、黒髪天然パーマの、毛もじゃもじゃの六十歳くらいのおっさん。
格好は白いワイシャツに黒いズボン。
ちなみにワイシャツのボタンは上から3つくらい外してあった。
「初めまして、まっ、どうぞお入り下さい」おっさんは優しい笑顔を浮かべていた。
それは誰とも変わらない普通の笑顔の筈なのに、どうしてだか、妙に心が落ち着いた。
それが何故だったのかは、この時はまだ分からなかった。
前を歩くおっさんは振り向かずに言った。
「君は既に、ここの人間ではないね」
光堂が微笑む「さすがですね、すぐに気づく」
「ははは、分かりますよ。霊波動を上手にコントロールして身体を包んでいるのが私の目には見えていますから、それにこの波動」
「北條さん、俺の名前は光堂、あなたにお願いがあり、今日はやって来た」
「この青年の事だね?」
光堂は少し驚いた「分かるんですか?」
北條は頷く。
「視えていますから。正直、分かっていました。そして、少々心配だった、この地球が。遂にここまできてたんだね」
光堂も頷く。
「もう、ノーと言ってられる状況ではないでしょう?」
その言葉に光堂の表情は真剣な顔となる
全く話が分からず、少しイライラしていたタケル。
なんだか自分だけ一人蚊帳の外で勝手に話が進む様で
「ちょっと二人で勝手になんなんすか?俺は何にも分かってないっすよ、それに俺はなんもやらないからな」
北條は小さな吐息を吐いた後、囁いた「彼は知り合いかい?」
光堂の頭に?マークがよぎった瞬間だった。
身体に瞬時に衝撃が走る
「なんだこの霊力は?」
先程通った入り口の門が、突如、破裂したかの様な音がした。
「北條とはお前か?」
そこに立つのはタケルと変わらない程の年の少年
「北條、俺自身の力がどれ程か知りたいから、俺に殺されろ」
一同に衝撃が走る
こいつは一体何なんだ、何なんだよっ?
タケルはこの男が放つ異様な雰囲気に気おされていた。
〜 アンブラインドワールド 〜