〜 奇妙な一日 〜
「体験?」驚くタケルをよそに、部屋の入り口に向かい歩き出す光堂。
すると急に何かを思い出した様に立ち止まった。
「あっ、そうだお前の家、車持ってるか?」
「まあ、ありますけど」
「ちょっと貸してくれないか」
光堂は、なんとなく不気味で嬉しそうな笑みを浮かべた。
こうして今俺は、訳も分からず光堂さんの運転する、うちの車の助手席に乗っている。
「じゃ、行くぞ」
ブゥゥーン
ガッ ガリガリガリ
「ちょ、ちょ、ちょっと光堂さん、壁に当たってますって、本当に運転出来るんですか?」
「うわっと、悪りぃ 久しぶりなもんで」
「ちょっと俺、母親になんて言ったら」
「心配すんなって、後でスペシャリストに直してもらうからさ」
「頼みますよ」
「分かってるって」
ガシャーン
「うわあああああっ、ちょっとサイドミラー折れましたよ」
「やっぱ運転系は苦手だな、まあすぐに慣れるさ、行こう」
「やだぁー死にたくなぃ〜〜〜〜〜〜〜〜」
ブゥゥーン
「なははは、ようやく慣れて来たぜ、運転系は俺の友達の多村って奴が凄い得意なんだぜ」
「多村?」
「ああ、俺のダチって奴だ、今度紹介するよ」
「それにしてもあんたは一体?」
「まあ、話で説明するより、体験だ」
「体験って、そう言えば何処向かってるんですこの車?」
「恐れ峠」
「ちょ ちょ ちょ ちょっと、あそこは有名な心霊スポットで地元の人間は誰一人寄り付かないっすよ、しかも、なんでこんな夜に行くんすか」
「なんだお前、幽霊信じないくせに怖いのか?」
「べっ、別に怖くはないっすけど」
「じゃあ良いじゃないか」
「でっ、でもっすねぇ」
ブゥゥーン 車は進む。
光堂とタケルは恐れ峠の吊り橋に立っていた。
「ちょっと光堂さん、ここの場所知ってんすか?この場所が一番まずいんですって、ここで沢山の人間が自殺してるんですから」
「だろうな、あそこで手招きしてるからな」
「手招き?」チラッ
「やだなぁ、変な冗談、誰もいないじゃないっすか」
内心タケルの心臓は、はち切れそうだったのだが。
「まだお前には見えないか?」
「さっ行くぞ」
「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」
「こっ こ こ こ こ こ こうどうさ〜〜〜〜ん」
「あっ、あれなんすかーー、さっきから橋の上から女の人が飛び降りては、また橋の上に戻って来て、飛び降りてを繰り返してんすけど、あれっ、俺の目の錯覚かな」
「ああ、自殺した人だろ」
「地球で生きる多くの人は、死んだら終わりだと思い込んでいる、その様な者が死を選ぶと、死んでも、生きてる事に疑問を抱き、まだ死ねて無いと思い、死のうと繰り返し続ける」
「ひょょょえええーーっ、やばいっすよ帰りましょうよ」
次の瞬間タケルは更に大きな悲鳴をあげた
「ぎゃあああああああああああああ〜〜〜〜っ」
「こっち見てる」(半泣き冗談のタケル)
「えっ、うそ、光堂さん」
次の瞬間、光堂はその女性に向かって歩き出していた。
「いつまでそこに居るつもりだ」
「あなた私が見えるの?」
「ああ」
「私はここに残る、だって私には価値なんて無いんですもの、こうして死んでも誰一人迎えに来ない、私は所詮誰にも愛されず見離された女なの、友達だって一人もいない、それならいっそずっとここにいる」
光堂は女性の後ろ奥の方を見つめていた。
「なるほど、肉体から出て霊体になってる事には、気付いている様だな、ところで…」
「おいっ、お前、彼女をこれ以上ここに縛るな、言うことをきかないと無理やり送る事になる」
「おっ、おいっ嘘だろ、俺頭おかしくなっちまったのか」タケルは地面にへたり込んでしまう。
なんと、女性の背後の山の奥から、体長三メートルはあるであろう、大きな毛むくじゃらの男があらわれたのだ。
「なんだ貴様は?」
「ああ、俺か? コードネーム 通称コードー、細かく説明すると、宇宙連合の一員、所属はそーだなぁ?お前みたいなのを霊界に送るのを許可されているチームに属する」
「黙れ小僧、その女は永遠に ここにいるんだ」
光堂が女性を見る
「あんた分かったろ、どうするんだ、あいつの言う通り、ここに残るのか?自分の意志で決めるんだ」
「うるさいわ、言ったでしょ私を待つ者なんて誰も」
光堂は上空を指差していた。
「おっ おばあちゃんっ」
「ちゃんと居るじゃないか、あんたを愛する者が、あいつが磁場を乱し、他の霊体をここに近づけなくさせてたんだ」
「で、どうする?」
「おばあちゃんのところに私帰りたい」
光堂の口元が小さく緩む「そうか」
「だからそれを誰が許可したんだ、そいつはここから離さない」
大きな身体を揺さぶりながら走り込んでくる毛むくじゃらの大男
「それを俺が却下する」
その瞬間光堂の全身を青白い光が包んだ、それはタケルの目にもはっきり見えていた
「あれは?」
「良いんだな、毛むく、無理やり送りだすぞ?」
「なにが毛むくだ、舐めやがって貴様もこの場所に永遠に」
青白い光が光線のように発射され、大男を包んでいた。
その瞬間、少女を抱き抱える、お婆さんの姿がタケルには見えた。
「ごめんね、ごめんね さちこ」
「おばあちゃん、来てくれてたんだね、私本当はずっと持ってた」抱きしめ合う二人
お婆さんは光堂に頭を下げていた、すると二人は光に包まれ、消え始めていく。
女性が完全に消えそうになる前だった光堂が言った。
「もう俺たちは友達だから、もし生まれ変わったら会いに来い」光堂はとても優しく暖かい笑みを浮かべていた。
女性の頬を伝う涙
その瞬間だった、気付いた時には、俺は叫んでいた。
「俺も友達だから」
「ありがとう」
こうして俺の理解し難い奇妙な一日は終わった。
俺が今日と言う一日の経験を通して分かった事それは、光堂さんと言う男が好きになったと言う事だ。
そうそう、それと後、最も大事な事が一つあったのを忘れていた
それは、多額の車の修理費であった。
〜 アンブラインドワールド 〜