〜 射す光 〜
空を見上げる光堂の視界に入るのは、空を埋め尽くさんばかりの真っ黒なUFOの大群
「遂に来たか」
ギュオオオオンッ ギュオオオオンッ
響き渡るそれは、普通の人間の耳には聞こえない、音にすらならない、低く鈍い音
「ねぇ、何か聞こえない?」
「私もそんな気がしたんだけど」
「なんか耳が痛い気がする」
地球の人々にはまだ何も見えず、聞こえていないのだが、目には見えない何かに敏感な人の身体は、少しずつ、それを感知し始めていた。
光堂が心の中、喋りだす。
「ホルロ奴らが現れた、地球人の周波数が合ってない為、まだ大量のUFOを認識出来てない、だが敏感な者達は、奴らの放つ負の波動を感じ始めた様だ」
「コードー、こちらホルロ 繊細な細い糸を切らないように慎重に行動した方が良い、今はちょっとした事で人々の波長が崩壊しかねない。それほど地球の人達の波動が脆くなっている、奴らは今の所は、これ以上何もしてこないはずだから。ところでタケルと言う日本人は?」
「あっ、いけねぇ つい放っちまった」
「コード頼むよ、彼の面倒は」
「分かってるよ、じゃまた」
ブゥワアン
その、おおよそ地球で耳のする事の無い、奇妙な小さな音の直後、繋がっていた何かが途切れた様な感じがあった。
「コードったら自分の都合が悪くなるとすぐテレパシー感覚切っちゃうんだから」
「しかし、どうやら地球は大変な事になるかも知れない」
フゥ〜
深刻で深く、大きな、ため息一つ、壮大な宇宙空間に放たれる。
それはこれから起こる地球の危機を暗示するかの様に。
しかし、それは地球だけの危機では無かったのだ
この宇宙に遍満する無数の惑星全てに関わる大きく深刻な問題
「これから大変な事になるぞ」
本城たけるは歩きながら、先程出会った男(光堂)の事を考えていた。
ったく、何が死霊だよ。あの頭のおかしい奴の言葉に何びびってんだ俺は。
でもよ なんなんだよ なんなんだよ
さっきから空に浮かぶあの物体はよ?
俺の目の錯覚だよな?
その時だった、身体の全神経が突如悲鳴にも似た叫び声をあげる、突然、心の中からこんな想いが沸き上がる
この道をこのまま進んだら大変な事になる
なっ なんなんだよ この感覚はよ
それは思考と言う領域を超えたところから来る、直感
自身の歩いていた道の先になにかを感じ、すぐさま前方を見つめたタケルは驚きのあまり腰を抜かした。
「うわああっ」
道の先、大きな鎌を持ち、黒い装束に身を包む、真っ黒な骸骨が立っていたのだ。
「おやおや、どうにも気に食わない匂いがすると思えば、連合の犬の匂いが、あなたからはしますね」
「なっ なんなんだよテメェはよ」タケルの心は見た事もない異形な姿の存在を目の当たりにし、乱れていた。
「連合と関わりがあるのですか?ふっふ、こちら側に来れば、あなたの望みを何でも叶えてあげましょう、憎い者から、どんな存在でも、すぐに抹殺してしんぜよう」
「なに言ってんだよテメェ」
「さあ 手を出せ」 離れた場所に居た骸骨は、瞬時にタケルの目の前に立っていた。
タケルの顔を覗き込む、真っ黒で、真ん丸の不気味な二つの瞳
「うわああっ」
その瞬間、骸骨が舌打ちをする様に言った「ああ、やはり私の感は当たってましたね」
風がなびくと同時、タケルの背後に立っていたのは、全身を白い衣装で包む、先程の男
「やれやれ、こちらに来ていたのですね、どちらにせよ時間の問題です、地球と人間共は、我々の奴隷となる。コードー君 だったか?こちら側に寝返るなら今だぞ」
「人間を自分達の私物化にさせるなんて奴らと、死んでも手を組むかよ。俺は自身の内に宿る魂の声に従う」
「アッハッハ これだからお前達は笑わせる。我々も自身の内なる声に従っているのだよ」
「さあ 始まるぞ 全宇宙、霊界全土を巻き込む壮大な革命が」
「手始めに、この星の全ての生き物を我々の奴隷にするつもりだ」
光堂は骸骨から目をそらし、タケルの方を見る。
タケルは気を失っていた。
「我々の今日の任務はこの星の視察、だから君達もさぁ、そうすぐに現れるなよ」ニタァアアアアア
骸骨を取り囲んでいたのは10人以上の人間の背格好に似た者達。
その者達は、人、動物の様な顔の者、様々な姿をしていた。
「死神、宇宙に存在する数多の惑星の者達は、お前達の行動を監視している、お前達の地球奴隷化計画を無視するつもりはない」
「では近いうちに君らをズタズタに引き裂いてしんぜよう、宇宙の闇がそれを遂行する」
突如上空の黒いUFOから発せられた光の中に吸い込まれ骸骨は姿を消した「それではまた」ニタァアアア
骸骨を取り囲んでいた者の一人が光堂を見る。
「コードー君、その子のケアは君に任せる、我々は今回の出来事を宇宙評議会にて報告する」
「分かった」
・・・・・・・
目を覚ますとそこは見慣れたベッドの上
ここは俺の家
ハッ そうかさっきのは夢だったんだ。
そう思い、ベッドから起き上がったタケルは再び気を失いそうになる。
何故なら目の前に公園で出会った、あの男が座っていたからだ。
そう、光堂と名乗るあの男が。
「ようやく目を覚ましたか」
「おっ、お前がなんでここに」
「まぁそう言うな、俺がお前を介抱したんだぜ」
「そっ、そうだ俺、熱でもあったんだ、だから頭が変になってて夢でも見てたんだ、この世にあんなのが居るわけないんだから」
光堂は帽子を脱ぎ、頭を掻き、椅子から立ち上がった。
「やれやれ、お前はとことん目に見える物と頭で理解出来る物だけが全ての人間らしいな」
「当たり前だ、UFOも幽霊も現実にいるわけないだろ」
「幽霊を見た人の話を聞いた事は?」
「んなのはあるに決まってんだろ」
「本当にこの壮大な宇宙に存在してるのが地球人だけだと?」
「お前は真剣に話す者の目を見ても、冗談か、本気で話てるのかも分からないらしいな」
「ああ、全部作り話に決まってる」
「じゃあ幽霊を見たと言う、すべての人間が嘘つきなわけだ。この世はホラ吹きだらけの世界って訳だな」光堂はほくそ笑む。
「お前の頭は人が本当を言ってるのか、嘘をついてるのかも理解出来ない程、盲目なんだ。常識と言うものが、カーテンの如き心を閉ざし、世界を覆い隠し、見えているのは本当に狭く、極僅かな小さな一部の世界」
「タケル」
「お前は、自分達人間が何も知らない事すら、知らないんだ」
タケルは目の前の光堂と名乗る男を、頭で判断せず、初めてきちんと見た気がした。
この男の話す事は常識では到底理解出来ない事、しかしこの男の瞳が嘘をついてる様にはどうしても見えなかった。
それに、ただの頭のイカれた男にも、見えなかったのだ。
俺はなにも見ていなかった、この男の目は真剣そのもの。
「ごめん光堂さん、信じちゃいないが、話は聴いてみたい」
光堂は再び椅子に座り、天井を見上げる
小さな沈黙の後
「いや、やめた」
「えっ?」
「話より、体験とするか」光堂が立ち上がる。
「体験?」
こうして、俺タケルの身に起こり始めた信じられない様な出来事の数々。
この光堂と言う男はいったい?
これから俺に何が起こると言うのだろうか?
俺の心は今、歩き出す、小さな好奇心と大きな不安に包まれていた。
しかし、それはまだ壮大過ぎる旅の、ほんの幕開けにすぎなかった
〜 アンブラインド ワールド 〜