閑話-僧侶という人間は地獄に落ちるような悪人なのか?
俺は旅の装備を整えるために戦士と斥候の助言のもと、物品を購入した。
斥候と戦士による道具の手配は正確で手早かった。とりあえず必要なものを揃えていき、買った傍から装備を身に着けていく
その結果どうなるか
俺は体より少し大きい背嚢を担ぎ、ローブのようなゆるゆるとした黒の修道服に、さらにゆったりとした外套を着ているので非常に動きにくい
その修道服に無理やり固いベルトを通し剣帯を付け、買ったばかりのナイフを佩き、無駄に丈夫でごつい靴を履いて、先端に棘付き金属を付けた木の棒を杖代わりに突いて歩いている。
はっきり言おう、全てがチグハグでダサいし怪しいしジャマだ。
そもそもスカートのようなものも男の俺にとっては歩きにくいうえに非常に屈辱的に感じる。
他の奴らのような足にフィットした動きやすい服がいい、しかし僧侶は僧服を着ると魔法の威力が上がるなどの謎の理論により、この調和というものを放棄した服を晒さなければならない
「うんうん、僧侶ちゃんも結構様になってきたね」
なってない、何が様になっているだ、服のセンスが彷徨っているだろうが
「大体の物は揃えたが……、予定より金が余ったな……」
「あと何か欲しいものはある?僧侶ちゃん」
新しい服だ! ……とは言えないので俺は他の欲しい物を考える。
今までは寒村の教会暮らしで食う物も困っていたぐらいなので、実は金ができたら欲しいものは前々から決めていた。
「欲しいものがある。店を教えてくれ」
俺は二人に案内を頼む
「ここだ……、しかしいきなり欲しがるのがこれか……」
ほんのりと鼻を軽く刺すような感覚、しかし不快どころか俺はコイツが数少ない友人だと感じている。
コイツが無くて、貴重な果物を潰し発酵させて飲もうとした所を神父に見つかり、捨てられた上に説教をくらった時もあった。
そう酒だ。
この匂い、懐かしい……、今まで恐ろしいほどの禁酒を続けてきた。
正直今すぐに飲みたい
「宗教的にお酒ってどうなのかな?」
「赤ワインは神の血で聖なる飲み物だぞ?問題は一切ないな」
「……そんな話は初めて聞くしお前が買ってるのはワインじゃなくて火酒だろ」
「仲間と酒は強いほどいい、あとは丈夫な肝臓があれば最高だ」
「なんで肝臓?なんだか吟遊詩人みたいな煙の巻き方しだしたね」
俺は実はこのために買っておいた家畜の胃で作られた水袋に酒を入れる。
「グヘヘヘヘヘ」
「女の子がしちゃいけない顔してるよ……」
「とんでもない生臭坊主だな……」
「ヒャァ!!次の店だぁ!!!!」
後ろで何か言っているが無視する。
酒と来たら次に欲しくなるのはアイツだ
「おそらくここに売ってると思うが……、私は正直これは好かん……、匂いがついて仕事に差し障る……」
独特の強く香ばしい匂い、苛立った俺の心を癒してくれる。
コイツがいなくて口寂しく、枝を齧っていたら神父がそこらの草木を食べるほど飢えていると勘違いをされ、涙を流した神父に説教されることもあった。
そうタバコだ。
人の迷惑や副流煙など知ったことではない、早くヤニを肺いっぱいに吸い込みたい
「うーん、タバコって男の人が吸う奴だよね」
「あと臭いな……」
「ボク正直好きじゃないよ……」
二人を無視して店内を見回すと商品として刻まれた煙草の葉っぱや葉の形のまま残したものが置いてあり、店の奥の方ではこっちの世界では好事家ぐらいしか使わないパイプを持って店主が煙をくゆらせている
「……巻きたばこは無いのか」
見れば置いてあるのはほとんどがパイプでいつも俺が吸っている紙巻のタバコは無い、どうしたものかと考えていると店主が声をかけてくる
「ここは嬢ちゃんの欲しいようなもんは無いと思うがね」(子供……冷やかしか?)
「なぁ店主、パイプはいらないが巻きたばこはあるか?」
「あるよ……、でもちょいと貴重でね、タバコも吸ったこともないお客さんには売る気はないよ」
「いや俺は普通にタバコを……」
そういうといきなり店主はパイプ越しにこちらにむかって煙を吹きかけてくる。
かけられた俺は煙が目に染みて涙目になるが、相手はこちらから興味なさそうに目を外し手元の別のパイプを弄っている。
このヤニカス野郎が、やはり俺以外の喫煙者にはロクな奴がいねぇな……
俺は自分のことは棚に上げて、店主のパイプを奪い取り、一気に肺まで吸い込むとそのまま相手の目玉にぶっかけた。
驚いた店主が顔を顰めてこちらを見た時、もう一度煙を口に吸い、輪っかを作って顔にぶつけてやる。
「初めて吸ったからな、アンタがしたようにタバコは前の奴に吹きかけるもんだと勘違いしたよ」
「……なんだ嬢ちゃんも吸える口か、そうならそう言ってくれよ」
「俺はガキの頃から吸ってる。初めてじゃない」
「アンタ今もどう見てもガキだろう……」
そういうと店主はこちらを一応の客と認めたのか奥から小箱を持ってくるとこちらに中身を見せる。
中には紙巻ではなく高そうな葉巻が入っていた。
「コイツが巻きたばこだ、輸入もんだから高いぞ」
「紙巻はないのか?」
「紙?そんなんで巻いたらまともに吸えんだろ」
こちらの世界では紙巻が主流だったが、どうやらこの世界ではまだ浸透して無いようだ
この葉巻はおそらく高級品なのだろう、どう見ても高そうだ……入れてある箱も相当作りが良く結構な値段になりそうなので尻込みする
こちらの世界でもタバコの値段に悩まされるとは……
「……やっぱりパイプと葉をくれ、できれば丈夫な奴がいい、…………あと使い方も教えてくれ、……実は初めてなんだ」
「……」(やっぱり冷やかしか……)
店主はこちらを胡乱な目で見てきたが何とかタバコを買うことができた。
「ここまで来たら後は一つだ」
「まだ何かあるの?」
「……大体予想がつくな」
「酒ェ!!タバコォ!!!ときたら最後は女ァ!!!!」
この身が女になると同時に実を言うと性的な目で女を見れなくなった……なんてことは一切ない
女の裸を見れば欲情するし、男の裸は見たくもない
「そっ、そういうのはしちゃいけないんだよっ!」
「カァ~、これだからイイ子ちゃんはよ~、斥候なら店知ってるんだろ?」
「知ってるが一応私たちは勇者の一行だ、外聞が悪くする奴なら消すぞ」
外聞とかお前らがそれを言うのか……
「見つからない範囲で勝手にするんだな……」
「チッ、じゃあギャンブルだ!!!!」
「賭場も同じぐらい風評が悪いだろうが!金を渡せ!!帰るまで私が預かる」
「あっ、返せ!!」
「……今日の所はもういいから勇者の所に向かおうか」
こうなってしまっては仕方がない、今日の所は大人しく帰るか……
そして王城まで戻ることになる。この付近の地理に詳しい斥候が案内してくれるので安心して着いて行くだけだ。
その途中、何やら見覚えのある小道があった。
さて何の用事に寄ったのだったかと思案をしていると急に声をかけられる
「おねえさん……、お金下さい」
そういえば道を間違えた時に入り込んでしまった時の小道だと何時ぞやの乞食を見て思い出した。
それを見て戦士が不憫に思ったのか手持ちの小銭を渡したようだ
「ヘッ、金をドブに捨てるなら俺にくれよ」
「僧侶ちゃんって聖職者の癖に性格がドブみたいに汚れてるよね……」
「坊主なんてものはドブ野郎でなんぼの商売だぜ」
「まぁ僧侶の言うことも一理あるがな……乞食に金なんぞ渡しても無駄だ」
「もう……、いいんだよボクが勝手に気持ちよくなってこの子は今日の所は飢えない、それでいいじゃない」
などと話して歩き出すとこれも何時ぞやの焼き増しで酔っ払いが角からヌっと出て戦士に肩をぶつけて乞食の方に向かっていく
心を読まなくても雰囲気でなんとなくあの男は俺と非常によく似た奴だと分かる。
「おいテメェ!こんな端っこで金なんざ恵んでもらえるわけねぇだろ、もっと大通りでやるんだよ!!」
「……兵隊さんにどかされました」
「だったら別の道でやれ!このウスノロ!」
男が子供を平手で打つ音が路地に響く。
「……ごめんなさい」
「なんだ、今日は少しは小銭が入ってるじゃねーか、もらっていくぜ」
「……」
これまた同じ展開で察してしまう、つまらないお遊戯に欠伸が出る。
以前も薄々察していたが、おそらくこちらが金を出そうが出さまいがあの胸糞寸劇が目の前に繰り広げられ、それを止めに入っていくと金を巻き上げられるという奴だろう。
いわゆる美人局の亜種みたいなものだ、関わらないのが一番いい、俺は小声で皆に伝える。
「なぁ……、早く行こうぜ、あれはクセェ演技だって」
「同感だな」
「……」(これに首を突っ込むのは責任を持たなきゃいけないことになるけど……)
「あのー戦士さん?止めときましょうぜ」
「諦めろ……、こうなった戦士に何を言っても無駄だ……」
「……」(決めた、助けるなんておこがましいけど関わる!)
助けてほしいのはこっちだ……、その優しさを俺に向けろよ……
どうやら戦士の持つ高潔な精神は、仲間である俺に一切向けられないが、道端の乞食には向けられるらしい
戦士は男の方に歩み寄ると声をかける。
「お話し中にすいません、そのお金はボクがこの子に与えたものです。なぜあなたがそれを取るのでしょうか」
男はにやにやとこちらに顔を向けている
「こいつは私の子供でねぇ……、子供の収入を親が管理するのはそうおかしいことですかね? 結局こいつを養ってるのは私ですから」
こいつらの顔はそもそも似てない、この男のガタイがそれなりにいいのに、その子供のこいつがガリガリな乞食である姿を見れば違和感を感じるだろう。
親子関係がないガキを利用する糞野郎なのは容易に予想がつくし、万が一に親子ならそれに輪をかけて糞野郎となる。
「ほんとのことなのかな?」
戦士が優しくガキに声をかけると、子供は機械的に頭を上下に動かす。
「この金でこいつの飯を俺が買ってやってるわけですよ、俺の酒代の後でね……、ヘヘヘ」
「……私はこの子に金を渡しました。この子に使わせてくださいませんか?」
「そうかい、お前はどう思ってんだ?」
「……別にいいです。ご飯はこの人からもらいます……」
「ねっ? こういってるでしょう、家庭の方針に口を挟まないでほしいんですよ」(孕んだ女が勝手に置いてったガキだどう扱おうが俺の勝手さ)
どうやらこいつは輪をかけた方らしい
「誰も困っていないのに何が気に食わないんでしょうかねぇ?」
こうなってしまったら戦士に大義名分は無い
「でもそうだな……、この子のためにも俺に金を恵んでくれるっていうんならコイツにさっきの金を渡して使わしてやれるんだがなぁ、どうも最近は生活が厳しくてね……」
これが目的だろう、小金をせびる子悪党らしい奴だ。
しかし糞野郎だが俺にしてみると妙な親近感が沸いてしまう、何より俺を散々苦しめてきた戦士が追い込まれている構図がいい、正直ポップコーン片手の見物気分だ。
「君……、君は本当にそれでいいの?」
「……大丈夫です」
戦士は最後の望みである乞食のガキに色々話しかけているが乞食はそれをかわしている。
助けてと言うだけでお人よしの戦士が助けてくれるのに馬鹿なガキだ。
助けを呼ぶことは恥かもしれないが、そんなもので無くなるプライドなどたかが知れているものを……
可能性があれば這いつくばって泣き叫べばいいんだ、少なくともそれで俺は地獄を免れた。
「どうなさいますか? ……お前も今日こそお家ではご飯が食べたいよなぁ?」(まぁこいつは路地にいっつも放置してるけどな……犬みたいなもんさ)
「……はい、……おなか減りました……」
戦士はどうすることも出来ずに金のある自分のポケットに目をやる。
しかし俺たちみたいなハイエナじみた奴に金なんて出したらしゃぶりつくされてお終いだろう
それは戦士も分かってはいるので、金を取り出す前にこちらの助けが欲しいのかチラリと見てくる。
斥候は助け舟を出すつもりは無いらしく静観している。
そして今度はこちらを見て……
(お願い……、助けて僧侶ちゃん!……)
逃れ得ぬ命令を俺に告げる。
なッ、なにィーー!? 勝手に突っ込んでいって助けろだと!! なんて恥知らず!! 普通そんなことプライドが許さず出来ねぇだろうが!!!!
俺はさっき自分が考えたことなど秒で手のひらを返し、戦士を罵倒するが閻魔の呪いが来てしまう
くそッ、どうして俺が巻き込まれなきゃいけないんだ! 俺は嫌だぞ……、あっダメだめっちゃ体の節々が痛い、耐えらんない……
痛みから逃げるように体を捩じらすその動きが、戦士のほうに歩いていく動きという悪夢。
俺は肩をいからせ、歯を食いしばり、目を剥いて必死に抵抗する
そして気づけば、戦士の横にいた…… 不思議だなぁ……
「僧侶ちゃん!!」(すごい鬼気迫る怒りの表情……やっぱり僧侶ちゃんの正義の心がこの子を見過ごせなかったんだね)
そんなものは無い、強いて言うならお前に怒っている。
「なっ、なんだい嬢ちゃん、アンタが払ってくれるのか」
若干、俺の顔面に気おされたようだ。
僧侶がこちらに小さな声で話しかけてくる。
「僧侶ちゃん、ボクがコイツと会話して時間を引き延ばすから、その間にあの子の説得をして……お願い」
助けを乞われてしまったらもはや助けて場を収めるしか俺に選択肢は残されていない
「コイツが何か助けて欲しいって言うなら俺だって引き下がりますよ」(まぁこのガキが喋る訳がねぇがな、そういう風に教育してやったんだ)
しかし不自然に目の前で小言を話しているので、男にこちらの狙いが筒抜けになってしまっているようだ
くそこうなったら仕方がない、やりたくはないが……
俺は両手を胸の前に組み、まぶたを全力で開け、普段より2トーン高い声で静々と男に話しかける。
「私は神に仕える僧侶です。私とあなたのお子さんだけで少しお話しさせていただけませんか?」
「僧侶ちゃん?……」(うわっキモ!)
聞こえているぞ、脳筋女
「……長々と説得されても俺は困るぜ」
「今、そこの屋根に沈みかかってる太陽が落ちきるまででかまいませんそれが終わったら戦士があなたにお金をしっかり払います」
「ちょっ!」
「へへへ、さすが神に仕えるお方だ度量が違うぜ」(世情に疎い馬鹿だな)
「では早速……、話させてください」
男が乞食に睨みつけるようなアイコンタクトを向ける
「おい! ……分かってるよな?」
「……はい」
これから口を閉ざした乞食から助けを求めさせなければならない、なぜ俺がこんなカウンセリングじみたことをしなきゃならんのか……
俺は下を向いている乞食に近づき、その手を取って少し皆から離れた位置に連れ込み一応の説得を試みる。
「お前が助けて欲しいと言ったらあの女が責任を持ってお前を助けてくれるってよ」
「……」
乞食は一切反応しない、あの男の言う教育とやらをされたのだろう、そもそも自分の殻にこもって考えるのを止めているので、優しく声をかけても無駄だ
俺は説得を諦めて別の手段をとる。
「お前の親父ってどこで暮らしてんの?」
「……」
「親父と似てないけどお前って母親似?」
「……」
「おいおい別に答えられない質問か、はい・いいえで答えられるだろ」
「……」
「じゃあさ、お前ってなんで母親に捨てられたんだ?」
「ッ……」(なんで……知って)
今まで無表情を貫いてきた乞食がこちらの方を睨みつけてくる。
「これも答えられないのか?あぁそうか分かったぜ」
「……」
「お前は外に放置されてるから親父がどこに住んでるかなんてわからないし、小さい時に捨てられたから母親の顔もなぜ捨てられたかも分からないんだろ?」
「ッ!」
「分からないことを聞いちゃってごめんな~」
「母さんの顔くらい知ってる!!」
初めて出した大声で向こうに立っている男と戦士が驚いたようにこちらを見る。男にとっては予想外のことだったようで慌てて乞食に向かって何か叫ぼうとするがそれを戦士が留めている。
「なんだ、お前喋れたのかよ」
「あっ……」
乞食は人と話している自分に驚くとすぐさま下を向いて表情を凍らせる。
俺は音を立てずにガキの耳の傍に口を近づけて囁きかけた。
「そんなにビビんなよ俺の親も糞だったんだ」
「……」(え……)
驚愕、それに加えてかすかな共感の感情が手に取るようにわかる。
「親ってのはガキからしたら神様みたいなもんだ、絶対にかないっこないと思ってるだろ」
「……」(どうしようもないじゃないか……)
「倒す方法なんていくらでもあるんだよ」
「……」(むりだよ)
「無理じゃない」
「えッ……」(えッなんで……声出してない)
相手は心の声を読まれるという種も仕掛けもないマジックに面白いほどびっくりしている。
混乱が収まらないうちに近づいた互いの距離は、既に相手の鼓動が聞こえるほど密着し、傍から見たらほぼ抱き合っているようだ。
この距離で相手にだけ伝わるよう今までで一番優しく染み込むように話しかける。
「これから寒くなるだろ?冬場の寒いときにアイツに酒を渡して浴びるほど飲ませろ、そして外に置いて凍死させればどうだ……」
「え……」
「冬まで待てなかったらいっそ酔いつぶした後で火の付いたパイプを家に置くんだ。体が燃えないように、よく煙を吸い込むように火を付けてやれ……」
「そっ……、そんなことできない……、酒もパイプもないし、それにアイツの家も知らない……」
激しい動揺、しかしこいつはそんなことは出来ないと諦めの言葉は吐いたが殺したくないとは言わなかった。
「いや違うね、お前はやろうと思えばできるはずだ……、アイツの家の場所が分からない? 追いかければいいだろ、あの千鳥足の酔っ払いを追いかけて気づかれるか?」
「でも……」
「パイプと酒はここにあるぞ、お前が欲しいなら帰り際にそこのゴミの中に隠してやる」
「あっ……、あっ……」
「……選べよ、俺ならどうせ終わらすなら自分じゃなくて相手をやるがね……他人を食べて生きなきゃ……生きるためだよ」
「……」(生きるために……)
初めてこいつの鉄面皮に表情がつく、そこから読み取れる感情は……
「おい!!!もう日が沈んだぞ!!」
時間切れだ……、男がこちらに近づいてくる。結局賭けは負けた。
戦士は男に金を渡し、ガックリと落ち込む中で男は意気揚々と戦利品を掲げて薄暗くなっていく道を帰っていく。
道の帰りに見るも欝々とした雰囲気を出している戦士がつぶやく
「結局、あの子を助けることなんてボクにはできなかったよ……」
斥候は呆れながら戦士を諭す。
「ああいうのは関わったら負けだとお前も学ばんな」
「僧侶ちゃんがあの子の感情を引き出して叫ばせた時にはもしかしてって思ったのに……」
「そもそもあいつ等はグルだぞ、親が小遣い稼ぎに子供に乞食の姿をさせるなんて珍しくない」
「でもあの子結構痩せてたよ……、ちゃんと家でご飯食べさせてるのかな?」
「大丈夫だろ」
斥候としても僧侶が落ち込んでいるのはうっとおしいのか、適当な言葉で元気づける
「それに見ろ、あの乞食も父親のすこし後ろに着いて一緒に帰ってるじゃないか」
どうやら新しいパイプと酒を買わないといけないようだ。