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人生が地獄なら。女とは悪魔だ




 酒場での一幕の後、俺は晴れて勇者一行の仲間となることができた。

 勇者のおかげで表面上は和やかに酒盛りは終わり、明日また王城に集まることで解散となる。




 不本意ではあるがなったものは仕方がない、このままいけば人類はもって数年で滅亡、俺は善行を立てられずに今度こそ地獄に落とされる。


 考えてみれば世界を救うなんて途方もない正義だ、これを達成すれば閻魔との約束も世界平和も何もかもうまくいくのではないだろうか、ただ問題があるとすれば……



「ねぇアンタさっきから何無視してんの?」


 早速ファッキンパツキン少女をはじめ恐ろしい先輩方に絡まれていることだろう



「アンタが聖印持ちだか何だか知らないけど調子に乗らないでほしいだけど!」

「……調子になんてのってねーよ、俺は勇者になんざ興味ない、勝手にやってくれ」

「ボクらがそれを信じるわけないでしょ……」

「じゃあどうすれば信用してくれるんだよ」

「死んでください」

「生きるために何をすればいいのかって聞いてんだよ!!!」

「今好きでなくても未来は分からんぞ、芽は早めに摘んでおくにかぎる」

「だ・か・ら! 勇者なんて絶対俺は好きにならない!!」

「絶対なんて言葉はありはしないね」


 どいつもこいつも恋愛脳で魔王討伐のことなんざ一ミリも考えてない、こんなんじゃ旅に出てすぐに後ろから刺されてもおかしくない、何とかしてこいつらを納得させなければ……


「俺がいれば回復役としてチームのバランスがいいぞ」

「今のままで困ってないわ」


 嘘つけや!! 戦士、魔法使い、騎士、盗賊、吟遊詩人なんてどう見ても回復要因が足りてねぇだろ


「回復はどうなってるんだ!?」

「栄光ある勇者様の仲間が魔物ごときで死んだらそいつは仲間ではないです。回復は気合です」


 えぇ……、この騎士真っすぐな目をしてとんでもねぇことを言ってるよ


「でも普段は協力して魔物と戦ってるんだろ」

「ううん、ボクらそんなことしたら後ろから殺されちゃうからみんなバラバラだよ」

「むしろ遭遇したら殺し合うまであるな」


 嘘やん……、何のためのチームなんだよこいつら……

 出合頭に殺し合いとか剣と魔法の世界でこいつ等だけ世紀末の住人じゃねーか


 俺の有用性を説いても通じない、方向を変えて切り込まねば


「お前らが仲が悪いことは分かった。だがしかしだ、そんなことでは勇者は悲しむぞ、あいつの仲間だったら今は私心を殺して魔王を倒すのが大切じゃないか?」


 状に訴えかければどうだ! これこそ俺が地獄の閻魔からも生存を勝ち取った伝家の宝刀『泣き落とし』


「恋愛とは戦争であり、戦争とはそれ以前に積み上げた結果が出てくる場でしかない、今戦わずしていつ戦うんだい?」

「戦う相手が違うだろ!!」

「私も恋愛に手を抜く気はないわ、まぁ選ばれるのは私だけど」

「選ばれるもなにも勇者様の隣は初めから私です。訂正してください」

「は? 勇者の一番初めの仲間はこの魔術師様よ」

「一番って言ったら幼馴染のボクが……」

「……付き合いの長さなどどうにでもなる」


 やべぇ話についてけねぇ……


 俺は今のうちに逃げようかとも考える。


「僧侶!! アンタが勇者を好きでないっていう証明をしなさいよ!!」


 魔術師様やめて! 悪魔の証明はやめてください! 


 頭をフル回転させて俺が勇者に興味が無い理由を考える


「俺シスターじゃん、神職なわけだろ、この心と体は既に神にささげてるわけで純潔を守らんといかんでしょ」

「頭おかしいのですか? ……私の神は勇者様ですからあなたのその理論は成り立ちません」


 おまえのその理論の方が頭おかしいだろ。


 なんでみんな騎士の言ってることに納得したような顔してんの? 

 えっ今の意味不明な説明で俺が論破されたことになってるのか? 


 ダメだもっと違うことで俺が勇者に興味が無いことを言わねば……


「実は俺は男なんざより女の方が断然いいんだ。だから男の勇者なんぞにはアソコがピクリとも反応しないね」


 もうあそこは無いわけだが


「嘘だな、昔そんなことを言って勇者に取り入ったやつがいたが……結局私たちの食事に毒を入れて殺そうとしたから逆に殺した」

「今でも思い出すわね、あの呪術師の驚いた顔、毒が自分の料理にも入っていると思わずに飲んで喚きだした時は爆笑もんだったわ」


 こえーよ、お前らのサイコパスぶりにビクリと反応したよ


 ダメだ……こいつらに俺がいくら勇者に興味が無いと伝えても無意味だ。

 もっと別の……そうだ! 


「ほら見てみろよ俺の体! 枝みたいにガリガリで肌はガサガサだし顔はクマでひどいだろ! みろよこの後頭部! ハゲだよハゲ! こんな女が勇者にせまってもなびく訳が無いだろ!!」

「む……」

「確かに君は少し、くたびれているように見えるね」


 ちょっといい手ごたえなんじゃないだろうか、女というものは容姿には尋常でないこだわりがある生き物だからな、俺の地獄の16日間は無意味ではなかったのだ……


「でもね、この前ね、ボク戦士だから手がもう醜いんだけどね……、それを愚痴ったら勇者ったらボクの手を掴んで『こんなに頑張っている人の手が美しくない訳が無い……』って、うふふふ……卑怯だよね……」


 すいませーん、戦士さん今そんな話は一切興味ないです。


「つまり、勇者にとって頑張り続けてボロボロになったこの僧侶が一番美しい……?」

「やはりこいつはとんでもない淫女だ、しかも勇者のために女まで捨てられるほどの筋金入り……」


 なんだそれ、そんなわけないだろ、じゃあテメーらがボロボロになれよ!


「俺が勇者の性癖なんぞ知るか!」

「じゃあ聞くが勇者以外でお前はなんでこの旅に参加する必要があるんだ? ……」

「魔王討伐に決まってんだろ!!! テメーらこんな状況でマジで勝てると思ってんのか!? まずは魔王から倒した後でいくらでも恋愛ごっこをすればいいだろうが!!!」



 ダメだこいつら……、今確信した。このままでは人類に夜明けは来ない、大魔王陛下の世界統治の始まりだ。


 なんの縛りもないなら、今からでも寝返ることが出来ないか真面目に考えているころだ。


 しかしそれはできない。


 このまま勇者一行が滅びれば人類も死に絶え、俺は閻魔に地獄送りにされてしまう。


 こいつらがこんな旅を続けたら結局勇者は魔王のもとにすらたどり着けない。


 勇者にこのことを伝えてうまくこいつらをコントロールしてもらうのはどうだろうか、その場合、信じてもらえなかったり俺が言ったとバレてしまえばこいつらは必ず俺を殺す


 いっそ適当な奴と勇者をくっ付ければどうだ……いやだめだスプッラタホラーが始まる。俺はどうせ導入で殺される哀れなキャンパーだ……


 そもそもこいつらはなんで勇者に告白もせずに殺し合ってなんかいるんだ? 


「そんなに好きだったら……誰か勇者にさっさと告白しようとするやつはいないのか?」


「…………………………」


「なぁ?」


「……………………」


「おい?」


「…………」


 えっ……なにこの沈黙


「チャンスがないだけよ……、それにそういうのはもっとちゃんと言いたいし」

「ボクたちの関係、壊れちゃうかもしれないし……」

「そんなこと急にいわれてもだな」

「私は別に一緒にいられるだけでいいです」

「恋愛も耐え忍ぶことが大切なのさ」


 えっ何この反応、うわっ乙女かよ……、乙女だったわ。


「は? お前らあんなに愛だの恋だの意気がって、ビビってんのか」

「ビビってるというか…………なんていうかそれは抜け駆けじゃない……」

「女なんて男に比べたら生まれついての恋愛と裏切りの天才だろ、どうして周りを気にする必要があるんだ」

「ボクたちにはどうしようもないだろ……」

「だれも告白しようとした奴はいないのか?」

「抜け駆けした奴や弱い奴は皆、退場してもらった……」

「……アッハイ、そうでしたね」


 こいつら……つまり告白する度胸があるやつが根こそぎ消え、今いるのは好きな子に好きなんて言えない乙女心を煮詰めに煮詰めた生粋の乙女ということだ……


「……っそ……そうよ! だからアンタが抜け駆けしないか分からないからチームに入ってほしくないんじゃない!」

「お前ら五人は互いを互いに告白なんぞできない玉無しだと相互理解してるわけなのか……」

「言い方が美しくないけどそうだね……その通りだ」 

「てかよー勇者が欲しいなら、俺なんか虐めてる暇あったら、ひさしぶりの町に戻ってるんだから、どっか誘いにでも行けよ」

「そんなの誘う理由もないし……」


 呆れてものも言えない、こいつら拗らせすぎだろ


「あのなぁ……男なんて下半身で生きてるような奴はな……お前らみたいな見た目が良い女にちょっと優しくされたら下半身が反応してすぐ落ちんだろ……」

「勇者様はそんな下品な方ではない!!」

「幻想を持つな、いいか? 男ってのはな……チンコとかウンコとかそんなしょうもないことで何歳になっても笑ってしまう下等な生き物なんだよ」

「でもボク達は旅の時もずっと一緒にいるけど勇者はそんな風には見えないよ……」

「馬鹿お前、そんなん隠してるにきまってるだろ、てかずっと一緒?」

「寝ているときは魔物から守るために必ず近くにいる、起きてるときも役に立たたなかろうと張り付いている……」


 え……勇者様いつ抜いてるん? マジで化けもんかよ勇者……


「いいか? 勇者がまともな男なら絶対にお前らを意識してる」

「……人が何を考えているなんて分からないものさ、それに彼には使命がある……」

「確かに、いかにもあいつは堅物そうだな……、告白しても俺には魔王を倒す使命が~とか言いそうだよな」

「それ分かるわ!!!」

「ボクもそれ思ってた!!」

「一回想像するよな! それでその後気まずくなっちゃって……」

「目とか逸らされて、いつもどおりにいかなくなって……」

「前の関係にも戻れない……」

「うぅ勇者様……」


 すごい内輪だけで盛り上がってんな……、こいつ等の顔のレベルでここまで好かれたら普通素直に付き合うだろ


「俺に言わせてみればそんなこと気にせずアタックすれば男なんぞは簡単に落ちるね、むしろ男なんて一回振ってもその後、女が自分を好きなことが分かると、あれこいつかわいくね? って意識し始めるにきまってるだろ」

「そんなうまくいくだろうか……」

「お前らみんな顔はいいからな、男なんて身勝手なもんで相手が断られることがない手の届く人間だとわかるちょいと掴みたくなるもんなんだよ」


 俺が男について語っていると吟遊詩人がこちらを訝しそうな目で見てる


「君はまるで恋愛上級者みたいに語るがちゃんと恋愛経験は伴っているんだろうね」

「あ? 俺は自分以外の人間を愛したときなんざ一度もねぇよ、溜まった時に金か無理やりでコくだけだ、ほかの男も一緒だろ」

「カネ!? 無理やり!? はは破廉恥な!!」


 いや今世では強制的に清く正しく生活させられてたんだがな……


「いっ、いいわ……今日の所は引き下がってあげるわ!」

「ボクたちが認めたと思わないでね!!」

「貴様……これで勝ったと思うなよ」

「カネ……無理やり……無理やりでヤる……」

「今日はもう帰ろう……でも自分が経験が豊かな人間だと驕ってると足元が救われるよ……」


 なんだこいつら……、何と戦っているんだ……


 立ち尽くしているうちに周りに誰もいなくなる。


 明日の命は分からない、ただ今日という日は生きることを許された。


 俺の受難はまだまだ続く

 




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