閑話-僧侶と勇者
俺が起きたとき、それはちょうど日の出だった。
故郷の力というものだろうか、俺は久しぶりの熟眠で頭はスッキリと冴えて、気分もまぁいい
しかしいい目覚めとのバランスをとるためなのか
村に戻った時、女共も丁度帰ってきたようで鉢合わせてしまう
その恰好は明らかなに激戦の後といった風で傷付いていない奴はだれ一人いなかった。
関わりたくないが無視すれば面倒になるのが目に見えているので一応話しかけようと近づく
「あぁ……、おはよう、その傷は魔物の襲撃か?」
「違います! 私の外套をこいつらが無理やり取ろうとしたんです! おかげで外套はバラバラです!!」
「アンタの物になるんだったら燃やした方がまだましよ」
「『うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる』だよ、独り占めは良くないな騎士?」
交代で着るならともかく物理的に服をどう分け合うというのだろうか……
「責任ある私が勇者様の装備を任されたのです!!」
「ボクはそうは思わないけどね」
そうこうするうちにまた言い合いが始まってしまう。
勇者の外套と思われるボロ切れをそれぞれ握りしめ、互いに罵り合っている姿は見苦しい
あまりにも下等な争いを見たからか、それともここが俺の故郷だからか、傷付いているこいつらを見て俺はついつい仏心を出して声をかけた。
「ケガをしてるなら俺が治癒魔法でもかけてやろうか?」
「いらないです」
「余計な気づかいだわ」
「……他人に私の体を触らせるわけがないだろ」
「ボクもかな」
「僧侶にやらせたら何を請求されるか分かったもんじゃないからね」
この糞ジャリ共……、こんな奴らに回復してやる義理も無い、大人の余裕で流せばいいだろう、俺の寛大さに感謝するんだな
「そもそもアンタが回復魔法を使える所為で私たち迷惑してんのよ!」
「あ゛ぁ゛!? こちとらテメェ等のせいで毎日大迷惑を被ってんだよ!」
魔術師の的外れな暴言に俺はカッとなる。
「……いや確かにそうだな、……回復の魔法を忘却しろ僧侶!」
「なんでだよ!? 俺から回復を取ったら、いよいよただの一般人じゃねーか!」
「落ちついて考えてもご覧よ、私たちがケガをしたとき今までどうしてたと思う?」
「……気合で何とかしてたんじゃないのか?」
「馬鹿ですか? 気合でどうにかなるわけ無いじゃないですか」
この女騎士め……、ケツ穴が弱そうな顔をしてふざけたことぬかしやがる。
「今まではボクたちがケガしたら勇者が回復してくれていたんだよ」
……言われてみれば勇者は何でもできると言ってた、おそらくだが回復も俺以上に使えるのだろう、こいつらとしては勇者と触れ合う貴重な機会というわけだ。
「俺なんて無視して勇者にいくらでも見てもらえばいいだろ」
「……馬鹿め! お前を使わず勇者に頼んだら不自然だろ! 気があるんじゃないかと疑われたら恥ずかしいだろうが!! 謝れ!!!」
「そうだよ!」
全員が力強く頷き、俺もその勢いに飲まれかける。
「えっ……、あぁ……、わりぃ…………、ん? ……なんも問題なんてねぇじゃねーか!? むしろそれがテメェ等の本懐だろ!!」
「……うるさいわよ」
「そーだそーだ! ボク達の乙女心は複雑なんだ!!」
「お前らの歪に曲がりくねったその性根を乙女心というならさぞ複雑だろうよ!」
俺は女を無視して村まで戻ろうと歩き出すがそれを止められる。
「お願い! ちょっとだけ時間を潰してからこっちに来て! その間に僕たちが勇者に回復してもらうから」
「うふふふ、久々に勇者の回復よ……」
「……ハァ、……ハァ、……もう辛抱たまらんな……」
「早く……、回復をしに行くのです……」
「あれを味わったら病みつきだよ……」
なんかキメぇな……
俺としてはこいつらと離れられる事に何の不満も無いので了承した。
時間潰しに俺は愛馬ソウリョブライアンの世話ついでで遠回りをしていく、孤独な旅で心許せるのはもはやこいつだけという悲しい現実だ。
しばらく、馬とのふれあいで心を癒した俺は目的地に向かう。
勇者は回復魔法も俺以上に使いこなすらしいので、運が良ければ見られるかもしれない、ぜひ参考にしたいものだ。
そうして俺は勇者たちと合流した。
そこに居るのは倒れている四人の真ん中で無表情を貫く勇者と回復魔法をかけられて気持ち悪く白目ををさらしている魔術師だった。
「ん……、あっ……、あっあっあっ……」
「遅かったな……、僧侶……」(興奮するな……興奮するな……これは仲間の治療だ……仲間の治療)
「……あぁ、おはよう勇者」
勇者は死んだような目でこちらを見てくる
「聞いたよ……、昨日はみんなが僧侶にせっかくの故郷だから夜警から外したと、だから今日は俺が仲間の回復することになったんだ」(仲間に俺が劣情を催すなど、……言語道断ッ!! もってのほかッ!!)
「あッきくッ! きいちゃうのぉぉぉぉ~~~~」(あぁ! 気持ちい!!)
めっちゃそいつは劣情の塊ですよ勇者さん……
魔術師はだらしない顔をして倒れ込んで動かなくなってしまう。
「俺の回復魔法は強すぎるみたいでな、……いつもこうなってしまうんだ」
名誉の為に言っておくと、俺の回復魔法にあのようなシャブキメなオプションは無い、勇者の魔法が特別製かビッチどもの頭が花畑かのどちらかだろう
俺は見なかったことにして旅の準備を始めた。
「……さては信じていないな僧侶」
「いやゆっくり楽しんどけよ勇者、役得だろ」
代わりたくはないが
「……俺は仲間をそんな目で見たりはしない」
「硬いな~、別にいいじゃねーかよ、一人二人食っても問題ないだろ、世界を救う勇者様だぜ?」
「馬鹿を言え」
こいつが軽薄な男だったら案外全部うまく回っていたのではないだろうか……
「俺たちは魔王を倒すために集った一つの共同体だ、その輪を俺が崩すわけにはいけない……」
「……ってことは一応の興味はあるのか?」
「………………」(俺も男だぞ……この年で枯れるには早いにきまってる……)
ですよねー
勇者にも普通の性欲はあるようだ、ここでもう少し切り込んで聞いてみるか……
「じゃあ、チームの中だったら誰とヤれる?」
「……なんだ急に、……そんなことのを考える前に俺は成さなければならないことがある」
「おいおい何気ない会話だろうが、戦士はどうだ? 幼馴染だろ、胸がでかいし」
「……君に女としての慎ましさは無いのか、まるで雇兵崩れのゴロツキのような奴だな」
「っけ……、男の癖に何が君だ、自分を女となんて思われるぐらいならゴロツキで結構だ」
口悪く答えると勇者はその態度を少し不愉快に思ったようで、少し強めにこちらに問う
「俺に対する質問ばかりじゃないか、……ならお前に聞くが僧侶はいわゆる女性が好きな女性なのか?」
「あぁそうだぜ、俺は抱くなら体から見て戦士か吟遊詩人だな」
あいつらの中身を知れば股間に血液が集まるようなことは一切ないが
「答えたぞ次はお前の番だ」
「まて……、君が勝手に言っただけだろ」
「まさか俺にだけ性癖と好きな女を喋らせるのか?」
「うっ……、確かに……、そうか……」
俺が勝手に言っただけなんだが
まぁ勇者が特に誰かを贔屓している訳ではないと知れればそれでいい、しかし律儀な勇者は必死に答えようとしているみたいだ。呆れるほど真面目なので俺はついつい笑ってしまう。
「ヘっ……、別にいないならいないでいいんだよ」
「…………助かる」
「そんな様子でよくこんな女所帯でやってけるな」
「……一杯一杯だ、俺が一方的に助けられてるだけで」
「この俺様が勇者を助けってやってるわけだ」
勇者が呆れたような顔をした後、苦笑いをしながら
「……君、……いや、……お前には気なんて使わなくてもいい気がしてくるな、……女って感じがしない」
「馬鹿にしてんのか?」
「感心してるんだ、お前の村の人も言ってたろ僧侶とは気心が知れるって」
まぁ中身が男だから俺だって女よりは男のほうが話しやすい、女共が動けるようになるまで他愛の無い話をしながら待つことにするか……
男同士の会話はそれなりに弾み、それは少なくとも女共が起きるまでは途切れなかった。




