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ゾンビランド(2009)――レンタルビデオショップあいうえお順の呪いまたは祝福

 ちょっと言い訳させてください。


 先日のこと。またまた片付けしていたら、昔買った映画パンフが大量に出てきまして。

 そこで、気になる映画を見つけた。

 タイトルは『スリーメン&ベビー』。

 御存知の方もいらっしゃるでしょう、フランス映画『赤ちゃんに乾杯!』の米国版リメイク作で、監督はレナード・ニモイ。

 急にそのどちらかを見たくなって、いつものビデオショップに探しに行ったわけですが。

 棚は、だいたいジャンル別になっているわけでして、この映画だとたぶん、ヒューマンかな? と思って探したがありません。

 そこでコメディーを探してみたら、ありましたよ。サ行のまん中あたり。

 残念ながら『赤ちゃんに乾杯!』は無かったのだけれどもね。

 スリーメン&リトルレディという続編もあって、よしこれを借りて行こう、と思ったとたんなぜかよろめいた私、目が滑り、もう少し右の方に視線が動いてしまったのでした。


 そして、みつけたのがこれ『ゾンビランド』。


 ゾンビものって、観ているようであんまり見たことなかったな。つい最近、映画館で「アイアムアヒーロー」を観ようとしたら、仲の良い友人から「あれは気持ち悪くなるから止めたほうがいいよ、私は前半はずっと目をつぶってた」と真顔で忠告されたし。

 以前はロメロ監督作品なんかもえり好みなく観たけど、これはどうなんだろう? コメディー枠だしな、と軽い気持ちで借りてきて観ました。


 ん? ヒューマンコメディを観ようとしたつもりがいつの間にかゾンビにすり替わっていませんか? と?


 ところが、この作品が一筋縄ではいかなかったのですわ。


 ゾンビものだけに、もちろんゾンビは山ほど登場。襲われる人もケタ違い。アメリカ合衆国はいつの間にやら「ゾンビ合衆国(ランド)」となり果てている。

 そこを、なぜか淡々とした一人語りで物語は進んでいく。


 主人公はめっちゃオタクで引きこもり同然の小心者な青年。その小心なところが幸いして、国民の大部分がゾンビと化した中、あんがい淡々と故郷目指して旅を続けている。

 そして出合ったのは、ゾンビハンターと化したイカレかけのタフガイ。そして詐欺を生業としている姉妹。

 最初は疑い疑われ、騙しだまされ、疑心暗鬼の中で共に行動していたのだが、LAにゾンビどもが全く存在しないという『ゾンビランド』があるという噂をききつけたことから、彼らの新たなる旅は始まる……


 つまりこれは、ゾンビという題材を使った、何か全然別のドラマなのでは、というのが私の出した結論でありました。


 面白い点がいくつか。

 友人も恋人もいない、ゾンビより怖いものは実はピエロ、というかなり小心者の主人公の青年『コロンバス』(配給元に気を使ったのか??)は、細かいルール設定を自らに課してゾンビから身を守っている。ルールの数なんと32に及ぶ。作品内にも何度か登場する中で、特に印象的なのはそうだな……「シートベルトはしっかり締めよう」かな(笑)。

 ルールに縛られる彼は、最後の最後で人間としての選択を迫られる。ふつうゾンビものというのは、人間の勝利にはならない気がしていたのだが、結果はご覧の通り。

 主人公が自らに課した規律をぶっ壊し、ひとつ大きくなる、というのがこの映画のひとつの見せ場なのか、と。


 次に面白かったのが、名前を明かさないという点。お互い極限状態、明日も味方でいられるかどうか、食うか食われるかという世界の中で名乗りあうのは危険ですらある、という価値観から彼らはすべて偽名を使っている。

 本名を明かした時に、何かひとつ達成された感がある、というのがとても良かったな。

 

 そしてやっぱり映画好きとしては、ハリウッドで訪れたB.M.さんちお宅のシーンがものすごく良いかも。

 そうか、こういう出方って何か好きだなあ。

 彼が告白する場面で、「ジョークが下手だ」というのに一番笑ってしまった。

 彼の死のシーンで、姉の方がつい吹き出してしまい、ごめんなさい、と謝るシーンが好き。私個人的にはB.M.さんそんなにツボに入るタイプではないが、彼の演技やスタンスが好きだというアメリカの喜劇好き連の心中が見事に表現された部分だった気がする。

 葬式をしてやるところも、細かくいちいち面白い。特に遺体を投げ捨てた後「消毒薬要る人?」とか、あのグダグダ感が最高だった。


 つまり、これはロードムービーの一種だったのかも知れない、と観終わって気づいた。

 姉妹は詐欺と言う手段で食いつないでいる。しかし妹はまだ12歳。ゾンビ出現以前に、この姉妹にどんな事情があったのか。

 そしてタフガイのタラハシー。彼の語る『最愛のバック』についても、後からじわじわとこみ上げるものが。

 コロンバスだって、世が世なら単なるボッチなおたくでしかない。両親と再会しても、会話はないのかもしれない。そんな彼がとんでもない状況で、自らを、そして家族としての仲間を見出していく、その過程がゾンビとの闘い以上にドキドキハラハラしてしまった。


 グロとかスプラッタとしてではなく、家族再生の物語として、私は非常に感銘を受けましたわ。

 そしてこれも後から気づいたが、田舎っぺタフガイのタラハシーはつい最近、ナチュラルボーンキラーズで見ていたあの人だった! とか、主役がその後、けっこういい作品に次つぎと出ているんだ、とか、細かく拾いものも多くて。


 これはレンタル店のあいうえお順に感謝、という一作でした。

 うん、別にスプラッタ期待していた、とかないから。ぜんぜん言い訳ではないからね。

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