フル・モンティ(1997)――最後の一枚を脱ぐ人びとに神の祝福を
ちょっとした時に、ちょっとした映画を観たくなるということがあるかと思うのだが。
ちょうど今日のように、何となく体調不良を覚えつつも、寝込むこともできずにとりあえず体に負担のないことをしようか、そうだ寝ながらでもDVDなら観られるじゃあないか、やや長くても面白くてあんまりドギツクなくて最後にはちょっぴりハッピーになれれば……
そんな時にはこれ。フル・モンティで素敵な6人の殿方を観賞するに限る。
大作というわけでもないのだが、わが愛すべき作品のひとつ、と言っても過言ではなかろう。
かつて鉄鋼の町としておおいに栄えたイングランドのシェフィールド。今では衰退し切った町にくすぶる失業者たちの物語である。
そう言っちまうと、どんなにしょぼく寂しい物語なのかと思いがちだが、彼らが紆余曲折の末、とんでもないパフォーマンスを見せてくれる……ぶっちゃけ、ストリップショーを開催するまでの一大物語である!
……うーん、そこまでびっくりするほどのサクセスストーリー、ってのでもないけどね。でもそこがまた、いいんだよなあ。
まず、やってること自体アホらしく無茶苦茶なんだが、そこに至るまでの道のりから目が離せないんですよ。
まるっきり方向違いに進んでいるようでもあるし、途中でくじける事も多く見えるのだが、よろめきながら(しかもはみ出し者どうし支え合い、補い合いながら)成功への階段を上っていこう、とする、あぶなっかしさが最大の魅力なのだろう。
父親として息子にロクな暮らしを見せてやれないガズは前科者でいつも世間に対して文句タラタラ、真面目にコツコツ働くことよりも、何か一発当ててやりたいという気持ちが大きい。盗みをくり返し、職安でも咥えタバコで仲間とカードゲーム、なのに職安などには辛辣なことばを吐く。
このままでは親権を完全に取られてしまう、そん時にふと見かけた男だけのダンサーショー。最初は嫌悪の目で見ていた物が「金になる」と気づき、にわか仕込みのショーを思いつく。
次々と仲間となる連中も、それぞれ哀しい事情を抱える。自らは親権はく奪寸前だが、一番の親友は体型や状況から自信喪失中だし、他も自殺未遂者、高年齢、特に技なし(唯一の自慢が……)とか。
特に哀しいのが、ぜいたくに慣れていた妻に、半年も失業を言い出せなかった元管理職のジェラルドかな。
妻にばれないうちに早く再就職せねば、という焦りもあってか、職安でもどこかエラそうなのがまた憎らしい。
この彼が、とんだジャマのせいで就職試験で動揺しまくり、落ち込んでひとり高台に座すシーンが特にいい。
何も知らない奥さんが作ってくれたランチを悄然とした表情でつついているところに、ガズと仲間たちがお詫びにやってくる。差し出した品に観ている方は「おいおい」とつい突っ込んでしまうのだが、意外なことに……という流れがもう微笑ましくて好き過ぎる。
その後、せっかく直したノームがあれま、という展開なのだが、そんな辛口加減がどことなく英国ぽくて好みなんだなあ。
細かくも好きなシーンが多い。廃工場の中でのオーディションシーンは特にいい。まず、一人目のオッサンの脱ぎっぷり(?)が哀しくも素晴らしい。単に着替えじゃん! その後、ガズが気まずさのあまり「お茶でも」と声をかけるところが上手過ぎる。
その後練習が見つかって捕まった時に警察署でつい、防犯ビデオを巻き戻して確認するシーンとか、失業認定の行列でつい体が動いているシーンとか。
しんみり好きなのが、太っているのを気にしているディヴが、物陰でこっそり、仲間から教えてもらったラップ腹巻きを試しながらチョコバーをかじってるところかな。
どこでも彼らの真剣な表情が逆に笑いを誘うのですね。
この物語で核になるのは、人はどんな時に「フル・モンティ」を目指すのか、というところなのかな。
金のため? 家族のため? 仲間のため? ただ女性にキャーキャー言われたいだけ?
観れば観るほど、その辺はあいまいな感じもしてくる。というのも、この映画の中ではせっかく職についた後やつけそうなヤツも、最終的には舞台に登ろうと決心するしね。
つまり、最終形態の『フル・モンティ』に至るまでの道のり、いつもは何かとシガラミを身にまとって窮屈にしている男たちがぱーっと『一肌どころかぜんぶ』脱いだぜ、ここから生まれ直すぜベイベ、とゆー再生と復興の寓話であるのだろうか、と、後あとうっすら感じたのですよ。
映画の後で彼らがどうなったのかは、どこにも語られていない。
あ、たぶん直後に現行犯逮捕だね。そしてまた反省会で防犯カメラの映像を巻き戻しつつ見直すのか? がんばれ。
ラストのショー、不思議とカッコヨク見えるのはやっぱりお遊戯会とか学芸会とか、今までを見守ってきた観客ゆえ、なのかな。
おお、涙で君たちの姿がよく見えないんだ……もっと袖に寄っておくれ……
そして全然関係ないことかも知れないけど、制服ショー、ってやっぱり世界各国どこでも人気なのかしらん?