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彼方へ(1991)――なぜ山に登るのか、の答えは作品ラストで発表です

 なぜ山に登るのか。


 かつて登山家ジョージ・マロリーが、当時世界未登頂のエベレストになぜ登りたいのか、

と訊かれ

「Because it's there.」

 と答えたという話はあまりにも有名だが。

 これは一般的に

「そこに山があるから(本能的に何だか登りたくなっちゃうんだよ)」

 という意味ではなく

「一番乗りに対する欲求はいかんともしがたい」

 という意味である、とどこかで聞いたことがあった。


 私も山は大好きだが、実は『登山』らしい登山は経験したことがない。もちろん雪山なんて分け入ったことなし。

 何かのきっかけがあればハマっていたかも……だけどとにかく運動嫌いなのよー。


 ここを読んで下さる方々の中にも、「登山しますよー」という方もいらっしゃるのでは。

 そんなあなた。なぜ、山に登るのか。

 理由はさまざまだろうな。山の景色が好きだから、頂上を極めた時の気分を味わいたいから、連れに勧められてなんとなく、運動のため……

 どことなくなんとなく

「そこに山があるから」

 という意見が多いのではないだろうか。

 前述の英語のことばが日本では誤解されて伝えられているのも、気持ちの上ではあながち間違いでもない気がする。


 しかーし、今回ご紹介するのは、そこに山があるから云々ではなく

「一番乗りにこそ価値あり!!」

 みたいな、野心ギラギラの男たちの闘いとその結末に焦点を当てた作品でんがな。


 舞台は南米パタゴニアの名峰・セロトーレ山。

 つい最近『クライマー パタゴニアの彼方へ 』というのが封切られていたようだが、これも同じ南米の名峰・セロトーレが舞台らしい。

 しかも、出てくるうち一人は、フリークライマー。

 『クライマー…』のほうはドキュメンタリーだが、こちらの映画は原案こそ事実を元にしているらしいがほぼ、創作である。

 ヴェルナー・ヘルツォーク作品。ドキュメンタリーやオペラ演出の舞台でも活躍している多才な監督でご存知の方も多いかと。

 

 若いフリークライマーのマーチンは、ベテラン(だけど数度初登頂に失敗している)登山家ロッチャと組んで前人未踏のセロトーレ山に登ろうとする。

 なかなか登頂を承認しないロッチャにイラつく彼はついに隙をみつけ、ロッチャのパートナーと抜け駆けで山に登る。しかし途中事故に遭い、パートナーは帰らぬ人に……

 そこからの流れが驚愕。

 マーチンが「初登頂には成功した」と主張し、一躍、時の人となっちまうんですよ、しかもロッチャの彼女までなびかせて。

 ロッチャ、かなりダメージきついっす、相棒は殺され、女は奪われ、名誉は持ち去られ、踏んだり蹴ったり。うんにゃ、踏まれたり蹴られたりだよね。

 ひとり、パタゴニアの山中に引きこもってしまうんですわ。

 しかし専門家らがマーチンの初登頂を疑い出して……ついには彼はテレビ放送の入る中で『再登頂』に挑戦することに。

 そこにライバルとして登場するのが、今までずっと溜めに溜めていたロッチャだった!

 若者とベテラン、フリークライマーと専門の登山家、意地っ張り男と夢を捨てきれない男……多面的な対立構造を見せつつ、インタビュアーにたきつけられたり、『指なし』のアヤシイおっさんに絡まれたり、周囲のさまざまな思惑の中、ものものしいカメラ中継を背後にして、ついに宿命の対決が!


 愛や夢、名誉など守るための闘いはやがて、大自然との、そして自身との闘いに変容していく……

 美し過ぎる、そして厳しすぎる大自然に立ち向かう人間のなんと、ちっぽけなことか。

 あまりにも尖り過ぎて観ているだけで目が回りそうなセロトーレ山と、吹雪や雪崩の場面だけでももう圧倒されまくりだった。

 そしてラストの衝撃!! ワーグナーの曲の中、気づくと完全に呆然とあんぐりと棒立ちになっている自分が残されていたのでありました。


 大昔、『シャンテ シネ』(現在のTOHOシネマズシャンテ)のどちらかの館で観賞。


 人は何のために山に登るのか。改めて考えてしまう快作だったなあ。

 かと言って、それから自分も山に登ってみた、なんてことは全然ありませんでしたが。

 うん、見ているだけで十分かなーと思った。

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