ポセイドン・アドベンチャー (1972)――目的への道はただ一つ……でもなく
映画館でだったかテレビでだったか、最初に観た場所の記憶がない。
その頃は、テレビでも主に夜九時からの映画番組の放送が多かったという覚えがあるし、何となく吹き替えのイメージが強いので、多分テレビ放映で観たのが最初だったように思う。
映画に触発されて、すぐにハヤカワ文庫で原作を買って読んだ。
映画のスチル写真、たぶん傾きつつあるポセイドン号の全景が表紙になっていたな。
ポール・ギャリコ作。それまで『ジェニィ』しか読んだことがなかったが、これも強烈でしたねえ。
映画も原作も大筋では同じ。
簡単に説明すると、豪華客船がひっくり返り、徐々に沈没せんとするところを乗客たちが懸命に脱出しようとあがく物語であーる。
タイタニックの例にもあるが、多くの乗客や乗員が極限状況の中、どういう行動で、意志で、運で、生きることができるのかそれとも死ぬのか、偶然の出会いがどうつながっていくのか、そしてどう転がるのか、最後まで手に汗握る作品だった。
原作を読んで映画を思い返し、まず一番に感じたのが、
「目的に至る道のりはただ一つ、と思ってはいけない」
ということだろうか。
映画版は、特にパニック超大作、純粋にエンタメということもあってなのか、正邪のコントラストがくっきりしており、ジーン・ハックマン演じるスコット牧師が「正しき」主導者として明確に描かれていた感じがあった。
原作では、彼の存在の絶対的な「正しさ」と「いかがわしさ」との混在加減が非常に興味深く描かれていて、原作を読んだ後に再度映画を見ると確かにそんな風にも見えてきて、うーんハックマン、メヂカラ強し、やっぱりタダものではないのかも、と改めて感心してしまった。
映画を見ただけでも、何だかこの人すごいなー(でも何だかコワイ)と感じてしまうのだが。
ハックマンの他にもよい役者さんが多かった。
特に印象深いキャラクターは、少したっぷりしたおばさんのベル(シェリー・ウィンタースはこれでゴールデングローブ賞を受賞)、牧師といがみあう刑事さん(アーネスト・ボーグナイン)、雑貨屋のおやじ(レッド・バトンズ)などなど、すぐに浮かんでくる顔ばかり。
それにとにかく、セットが凄かった。上下反転した豪華客船の内部の有り様と、そこを「上へ上へ」と辿るその道筋が地獄そのもので。
見た後、しばらくの間は(そして今でも時たまふいに起こるのだが)
「この世界が急に上下反転したらどうなってしまうのか」
という妄想にとりつかれ、天井ばかり眺めてしまったり。
映画は何度もリメイクされたらしく、今回記事を書くにあたって調べてびっくり。
あれれ、私やっぱりモグりだわ。
そして原作は原作でまた一筋縄ではいかない人生の皮肉とかも感じたりして、これも大好きではあった。
ひっくり帰った船は、人生の突然の危機的状況にも例えられる気がしてね。
特に昨今の社会的状況のせいか、年齢的なリスクの高まりというか、よけいに身に迫るものがあって……大小とりまぜ外的にも内的にも、なにかとね。
その機には、とにかく早く無事に出口に辿りつけますように、みなさまもね。
広くまわりに目をこらし耳をすませ、それでも自分の直感を信じて。
そう、正解はひとつとは限らないのですよ、スコット牧師。