故郷(ふるさと)への長い道/スター・トレック4(1986)――顔を上げてファンと名乗ろう。
はい、トレッキーです。
しかし、以前の『宇宙大作戦』時代に限りますが。
そこから先が認められなかったわけではなく、ただ単に、忙しすぎてその後を追えなかったというだけで。
もし時間的に余裕があったのならば、私は『新スタートレック』以後もディープなファンとして存在できたであろう。
以前、初期のスペースシャトルに、トレッキーの署名によって「エンタープライズ」の名が付けられたことがある。
お披露目にはカーク艦長役のウィリアム・シャトナーはじめクル―の面々が招待されたと聞いた時に、限りない感動を覚えた。
単なるファンが時代の一シーンを創り上げている、という喜びをひしひしと感じたものでしたよ。
宇宙大作戦の中で特に人気があるのがMr.スポックなのだが、私が一番推していたのは、実はチェコフだった。
その頃からロシア大好きだったのでねー。
しかし、ウォルター・ケーニッヒ(ケーニッグ)という俳優さんは結局これが当たり役となってしまい、その後あまり名前を聞かなかったな(まあそれでも、一つでも刻まれる役があるのは幸せなのだろうが)。
劇中でもどことなく新米感がぷんぷんと匂い、ここぞというところで大きなポカをする、すぐにエイリアンの罠に嵌る、などなど、うっかり君としての地位を不動のものとしていた気がする。
そしてセリフまわしもロシア訛りという設定。それがまた可愛かったなあ。
宇宙大作戦としてのスタートレック劇場版は、必ず観に行った。
たとえつまらない出来でも、ファンならば見なければ、という意識高い系のファンだったんだろうね。
第一作めから第三作めまでは、正直あまり記憶にない。
ストーリーがあまりにもSFとして破綻しないように練り過ぎていたのか、従来のシリーズを意識しすぎなのか、どことなくキャラクターを活かしきれず、堅苦しいイメージが残ってしまった。
三作までの印象が薄かったせいなのか、全く期待せずに観に行った第四作め。
これが、予想のはるか上を行く出来で。
監督がレナード・ニモイ。なんと、スポックみずからメガホンを持ったという。
つまり、宇宙大作戦とそのコアなファンが求めているもの全てを隅々まで知りつくした者の作品と言えるかなあ、と。
物語のコアにあるのは捕鯨問題。日本人としてはかなり痛い内容ではあるが、それをさっ引いてもお釣りがくるくらい、ストーリーも良く出来ていたし、何よりもキャラクターの特性が最大限に活かされる内容だったように感じた。
私が特に推していたチェコフも大活躍(?)だったし。
敵に捕まった時に、夢うつつの中階級を訊かれロシア訛りで「アドミラル」と答えた夢見心地のその表情が忘れなれないよー。
カーク艦長はもちろん、スポックも相変わらずスポックだったし、ボーンズ、スコッティ、ウフーラ、もうみんなキラキラしていたなあ。
映画のつくりとしても、かなり凝っていたという覚えがある。
印象的だったのは冒頭のシャンペンボトルが宇宙空間を舞うシーン。
過去からの慣習と未来への夢がひとつにつながった、映画史上でも名シーンのひとつに数えられるのでは、という場面だった。
そしてファンとして一番うれしかったのは、映像事故か? とも思ったラストに近い湾内でのシーン。
鯨が泳ぎまわる中、かろうじて水面に出ている船の上で彼らがはしゃぎまくっているのがあまりにも強烈で。え? 水かけ合ってる? そして、あの、あのスポックが……笑っている??
つまりは、お祭りなのだなあ、としみじみ感じたシーンでした。
ストーリー上はまるっきり意味をなさない一場面に、今までのTVシリーズをすべて総括したメンバーとスタッフの団結心を見せてもらい、限りない満足感を覚え、映画館から高揚した気分で出てきた私でした。
その時たまたま知らない人と「よかったですよねー」と声を掛け合い、更に仲間意識を高めながら、これだからトレッキー止められねえや、ってね。
確かにあの時に、私は私らしくいられたという、ひとつの記録でもありますね。
だから映画は、やめられませんわ。




