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世界の狭間で神と邂逅す

目が覚めると、そこは自分が知っている空間だった。

いや、言い方を変えよう。

ここって日本の夏と冬にあれをするところではないのだろうか。

実際おれも付き添いで何度か行ったことがある。

上をみると室内なのに天井は遥か遠く。

天井付近にあるガラス張りの向こうの景色がよく見えるだろう。

太陽も見えないし、暑さも寒さも感じない。



しかし、俺はいつここに来て、何時からこんな場所でパイプイスに座っていたのだろうか。

それに、周りは同じように学生がずらっとイスに座り、何かの式典みたいだが……


「まさか、賞を取ったのか!?」


いや、きっとそうさ、きっとうんチャラ賞とか取ったんだろう?

さすが俺だな。


「いや、どうやらそうではないな」


聞きなれた声に隣に向くと、そこには、


「あれ、会長なにしての?」


「お、やっと気づいたか、話しかけてもどこか呆然としていたが、君が無事で何よりだ、まぁ、ここにいる時点でお互い無事では無いんだがね」


そういって肩をすくめている。

無事ではないって言われ、怪我でもしているのかと頭から足までじーっと……じっくりと見つめたが異常は見当たらない……


サラサラの腰元まである長い髪は艶やかな黒色で、小さな顔にパッチリとした眼。

イスに座っているだけなのに姿勢も何処か気品があって、あれ、俺同じ目線の場所に座っていいのだろうか、と疑問を持つほどオーラが違う。

モデルとかやってても可笑しくないほど整っている顔に、気品溢れるオーラでどこぞのお嬢様に見えるわが校の会長は、顔を少し赤くしていた。

……なんか可愛いぞ!! もうちょっと―――。


「いや、言ってはなんだが、君は何を舐め廻すように見ているんだ?」

「見てませんけど!? 」


冤罪も甚だしい。彼女いるのにそんなミルワケナイジャナイデスカ。


「いや、君の眼が、『ぐへへっいい獲物だぜ』と言っていた気がする」

「くっ、こいつが! 俺の眼が……憎いっ」


片眼を押さえる俺に、安堵した表情の会長が笑う。


「よかった、やはり君は君なんだな。 安心したよ」

「俺の定義が酷い件について! 」

「いやすまない、だって―――」


晴れやかな笑顔のまま彼女は言う。


「だって私たちはもう死んでいるんだよ」


………………なに?


「そこんとこ詳しく」

「ふぇ!?」


動きを止めた俺は、ばっと会長の肩を掴み顔を近づける。

会長、怒ってるんですか? 顔赤くなってますけど、いきなり掴みかかったからですよね、でもそれは置いといてください。今はこっち優先でお願いします!


「こ、こういう観衆の前では照れるではないか……君は大胆だな」

「いえ、そういうのいいんで、詳しく」

「酷いっ! 」


ちょっと眼がうるうるしている可愛らしい会長だが、お持ち帰りしてもいいだろうか?

彼女がいるが、いや待て、バレなければ嘘じゃないのでは?

いやいや、この考えはヤバイ、最低だ!

そう、彼女に操を立てた俺だぞ!

そんな学校一、いや、県下一の美少女の会長だからって、なぁ……

いやいや、俺会長の話だと死んでる設定だよね?

あれ、これいけるんじゃね?

いやしかし……


「まぁ、落ち着け、ちゃんと説明するから」

「そうですか、やはり浮気はダメですよね?」

「何の話!? 君は本当に大丈夫か?」


会長から手を放し、謝った後。

会長は深呼吸を二回、三回、四か……

おおくね?


「か、会長? 」

「あ、ああ、で何の話だったか」

「いや、だから……」


いや、この会長大丈夫だろうか?

俺と彼女と会長の三人は学年は違えど中学から仲が良かったが、高校では会長が生徒会に入ってから

滅多に会わなくなったし。

いや、まて会長って本名なんだ?

昔から会長やってたから、俺、会長としか言ってない。

思い出せ、思い出すんだ。


「会長はなんて名前だったけ?っていう……へばうぇぅ!?」

「ああ、すまいない、余りに君が失礼だから手が出てしまったよ」


クリーンヒットだったな。良いの持ってるぜ……


「いえ、いい……突っ込みでした」

「そうかい? ありがとう」


ものすごい笑顔で言われたが、その笑顔が怖い。

あれ、なんか思い出しそうだ。


「……く、九莉(くり)会長?」

「正解だな」

「おぉししぃぃ!!」

「ふむ、その喜び様は複雑だが、ガッツポーズをしているところを見ると……もう一度ぶってもいい気がしてきた」

「やめたげで!!美少女に打たれるとか、それもう……」

「うむ、で、名前の方は?」


うん、名前?


「うん、わかった、君が覚えていないのはよく分かったよ」


まったく、と言った会長は仕方なさそうに名乗った。


「私は九莉(くり) 十華(とうか)君と同じ中学を卒業し、君と同じ高校に通う生徒会長でし、親友だぞ?」


今度は忘れるなよ?と顔を赤くして釘を刺される。

……ああ、絶対に今の恥じらいと上目使いを忘れるものか。

いや正直、忘れていたのは名前だけで、あとの思い出は全部あるんだけど、まぁ、名前は大事と言うことだな。何で俺忘れてたんだろう。しかし、逆に特をしたと考えるべきか?

そもそも会長は会長だろ。

しかし、あの表情はくるな、こう魂にダイレクトにさ。

それに親友なんて美人に言われたら名前で呼ぶのもやぶさかではない。


「わかりました。それで十華会長、死んでいるとは?」

「とうかかいちょう……」


ほわっとした表情をした十華会長は、はっと気づいて、ぶつぶつなんか言っている。

『(これが、ぎゃっぷ……)』


とりあえずトリップしている十華会長に言葉少なめに問い詰めると、咳払いをした十華会長はきりっとした表情を向けた。ちょっとドキッとしてしまった。


「まず始めに、『昨日の事を覚えているか?』」


昨日の事?

昨日は……そういえば、派手なスポーツカーが爆音を響かせ、うるせえなぁと思っていたら、段々と音が大きくなって、結構近いな……と見ていたスマホから顔を挙げたら、視界が何十にも反転して……その間に30分ドラマ並み走馬灯を見て、『あ、これ死んだわ』と受け入れたら…地面でぐべっと。


……………うん。


「死んだね、あれは即死だった」


遠い眼をして答える俺に、眼を見開く十華会長。

うん?可笑しかったかな、いや、でもそれいこう記憶ないよ?


「そうか、君はまだあのあと二、三日生きていたんだが、ずっと眠ったままだったな」

「へ? 生きてたの? でも、間違いなくあの後の記憶ないし」

「いや、厳密には脳死かな」


ふーんとしか思わない俺とは別に、苦々しく頷く十華会長。

まぁ、おれは正直轢かれた後に見た、俺の人生のダイジェスト『走馬灯ー二人の思いでー』で納得してるから、どうも思わないけど、ていうか『走馬灯』編集したの誰だよ!彼女ばかりだったじゃねーか! もっとあるだろ! 家族とか、最後轢かれる前の「今日の夕飯シャケコロッケだから」「なにそれ詳しく」だけだったじゃねーか!! やめろよ、なんか俺が家族大切にしてないみたいだったぞ。そんなんじゃねーから!


「シャケコロッケェ……」

「なんだそのコロッケ、形が鮭なのか?中身はどうなっているんだ?」

「まぁ、気にすることもないか、それで死を受け入れた俺がここにいると言うことは……」


そういって十華会長を見ると十華会長はあっさりと言った。


「ああ、私も君が逝った三日後に病院でね」


いや、まぁ、ここにいることである程度予想はしていたけど、まさか三日後とか何があったのだろうか? 聞いていいのか? いや、人の生き死にだ、あまり聞くもんじゃないだろう。


「そうですか……」

「ん? 聞かないのか?」


不思議そうにいう十華会長。


「ええ、聞きませんよ、それとも話したいですか?」

「いや、やめておくよ、わたしも思うところがあるからね」


そういう十華会長はふっと暗い笑みを浮かべていた。

後悔、だろうか?




俺と十華会長が話していたように周りの至るところで、学生服やブレザー、セーラー服に私服の中学生から高校生位の外見の少年少女の話し声が聞こえる。

しかし、錯乱した叫び声は上がらず、どちらかと言うとコンサート会場のコンサートが始まる前くらいの会場の騒がしさと同じだろう。

しかし、右を見ても左を見ても同じパイプ椅子に座る学生の姿しか見当たらないし、席を立つものも皆無だ。 というか、なぜか立てなかった。

隣の人に話しかける者もいれば、嬉しそうに手を結ぶ男女もいる。

彼らは何を思って死んだんだろう。

時計も携帯もないこの空間では時間が分からない。

いったいどれ程、このままでいるのか。

そして、死んだ俺たちはどうなるのだろう。

しかも周りには大人は皆無。

それが謎だ。


「しかし、死後の世界とはこうした同年代しかいない所なのか?」

「まぁ、死なないと分からない世界だし、ここで次の転生まで待機もあり得る」

「君は怖いことを言うね、椅子からも立てない私達は次の出荷を待つということか」

「出荷されるとしたら俺いくらかな」

「ふむ、わたしの値段の三分の一くらいが妥当だろう」

「ひでぇよ!しかも『そうか』と納得しそうになるから困る」


朗らかに笑い合う俺たちに、十華会長の隣に座っていた他校の女子が声をかけてきた。


「九莉さん、なにか始まったよ!」

「有り難う、夏木(なつき)さん……ふむ」


十華会長はそういって視線を夏木女史が指を指す方向を覗く。


いつのまに仲良くなったんですか!?

いや、俺がボーとしている間か。

お、おれも隣のマケエルと仲いいし!

マケエルなにいってんのか分かんないけど、心は通じてる気がするし、ほらサムズアップすると返してくれるからな。


会場のざわめきが不意に止まる。


俺もマケエルと肉体言語の応酬をやめて振り向く。

場所は俺たちの椅子の向きの方向。

つまり正面だ。

前の人の後頭部があって同じ高さならどうやっても見えないが、そこは配慮しているらしい。


いつ現れたのか、一人の白衣の男が空中に浮いていた。

それは現実ではあり得ない光景。

ワイヤーアクションでもしているのかと疑いたくなるが、揺れることもなく静止している。

いったい何者だろうか。

周りから息をのむ音が聞こえてきそうだ。

みんなして相手のアクションを待った。


白衣の男は金髪の天パの髪をさっと払った。

いや、かっこいいと思ってんのか………………………………くそ、よく見たらイケメンじゃねーか!

かっこよく見えてきた!

長身で、髪は金髪、身ぶり手振りに切れがある……。

歳は20歳くらいに見えるがチャラくはなく、逆にしっかりとした印象を受けた。

男が口を開いた。

その声はマイクを持ってないのに遠くの位置まで届けられるようだ。


『やぁ、学生諸君、君たちは選ばれた』


「選ばれた? 死んだのに」

「しっ」


声を出したら、十華会長が口の前に指を立てて俺を注意してきた。

今は話を最後まで聞けと、言うことだろう

しかもこの男の声は脳に直接響いている気がする。


『ここにいるのは死を受け入れ納得した若い魂たち、つまり君たちの事だ』


腕を広げ大きくアピールする。


『魂の選定に引っ掛かるには、先程言った納得していること、それからまだその魂が若いことが条件だ。故に、君たちが選ばれたというわけだ』


なるほどだから学生ばかりなのか……


『正確には14歳~17歳を対象にしている、なぜそこを対象にしているのかと言うと、君たちに行って貰う世界は過酷で残虐、甘くない苦い世界だ。だが、思春期で中二病真っ盛りの君達にとっては、第二の人生は今まで以上に楽しいものとなるだろうと確信している。ほら、剣と魔法の世界といえば行ってみたくなるお年頃だろ』


肩をすくめた仕草をする白衣の男。


バカにしてんのかアイツ。

くそっでも否定できない。

なんか俺ワクワクしてきたぞ!

俺と同じなのかキョロキョロとしているのが沢山いるな。

我らが同士よ!


そのうちの一人と眼が合い、サムズアップしてきたので返しておく。



『しかし、注意しなくてはならないことがある』


なんだ、何を注意すれば行っていいんだ!

というかまだか? いつ行くんだよ! 今でしょ!?

溜めを作った男は全体を見渡した。


『ここにいる1000人を同じ場所に召喚できるでかい国は存在しない。というわけで、君たちには少数で召喚されて貰う事になる。どのような召喚の形を取ってるのか、私には分からないが、君たちを召喚する世界の人々に一斉に召喚するように頼んでおいた。故に君たちはそれのどれかに入ればいい』


にこりという男はやはり神なのだろうか?

きっとそうなのだろう。

しかし、剣と魔法の世界か、いったいどんなハーレ……いったいどんな世界なんだろうか。

おっと俺のリビドーが溢れだしたようだ。


俺の思考を読み取ったように神が答えるが、きっと俺だけじゃなくて全員が思ったことだ。


『君たちが召喚される世界は、先程言ったように剣と魔法のファンタジー世界だよ、迷宮しかり、ドラゴンしかり、魔族、エルフ、獣耳、エトセトラエトセトラ、さまざまな未知に溢れる世界その名も【ネクセント・グラム】星の大きさは地球の6倍、月と呼ばれるものは2つある。国家は800を越える大きな世界だ、そこに行って貰う』


「【ネクセント・グラム】……地球の6倍」


隣で十華会長が考え込んでいた。

すると、神がこちらを向きにこりと微笑む。

ぞくりとする。


『気づいている者もいるかもしれないが、君たちをあちらに送って何がしたいのか? ということだけど、特になにも? と答えておこう、言うならば変化をもたらす為だとか、色々言い訳はあるけど、特に気にする必要はないな、ただ……そうだね、違う国に呼ばれるんだから、当然戦うことになるよね』


神は何処と戦うのかは言わなかったが、そういうことか。

だが、800ある国家に土地の広さは膨大。

そこにたった1000人の異世界人が増えたからって、俺たち同士で争いが起こるとは限らないぞ。

仲良くなるかもしれない。

同盟するかもしれない。

どうなるのかは分からない。

そういうもんだろう。

それに俺たちには何の能力もないただの異なる世界から人間だ。


『そうだね、戦うかどうか分からないね、でも未来は分からないからこそ面白いと思わないかい。 さて、君たちを異世界に送り込んでも向こう人々は様々なスキルを持っているからね、今のままだと何も出来ないだろう。 それに君たちには向こうの世界では当たり前のマナを取り込む器官がない、ということは物凄いハンデになってしまう。 それではつまらない。 故に一人に一つの力を僕から与えよう。 同じものなどない、only one な特殊能力……そう【王の(クラウン)】を』


その名を呟くと神の手に金色の王冠が現れた。

遠くからでは分からないが、眼が引き寄せられるほど魅力的だった。


そして、手元にドサッとした音と重み。

視線を下に向けるとそこあるのは一冊の分厚い本。

表紙には王冠が反対に側はティアラがあった。


『全員手に取ったようだね、扱いを説明しよう。まず、その本はここにる全員の名前と能力とそれから居場所が書いてある随時更新される神の書物だ。他人のページは名前と能力名と大陸名しか載らないが、本人の欄には見ると分かるが、自身の能力の詳細、顔写真、何をしてきたのか等が書かれていく、あ、履歴欄は指でスクロール出きるから最初に何があったか消されることはないよ、見てみれば分かるけど、今はこう書いてあるんじゃないかな「神の間で説明を受けた」って』


本を取りだしパラパラめくり、話を聞きながら色々と調べ、言われた通りにするとバイトの履歴書みたいなページの下の欄に同じことが書いてあり、さらには現在地など詳しく乗っていた。

見開きの左側に顔写真と名前とか個人情報、右側は、上に【王の冠】とだけ書いてあった。

いまはまだ何もない。下に能力が書かれるのだろう。

しかし、分厚いなコイツ。

コイツ持って歩くのか?


『その本は神の書物、盗まれないようにね。 それを取られると行動の監視が出来ちゃうからね』


確かにそうなったら堪らないな、


『あと、その本は燃えないし傷つかないから、肌身離さずもっているのがお勧めかな』


マジかよ!呪いの書物に早変わりか!

神は浮いたまま柏手を打つ。


『さて説明はこれまで、転移する場所は隣のB棟だ。 移動できたら好きな魔方陣に入ってくれ、人数の上下に制限があるからって喧嘩しないようにね』


と笑う神の笑顔は何故だろうか、争いを歓迎している雰囲気が感じられる。

柏手のお陰か椅子の拘束が取れた。

移動を開始する学生達。

ダッシュで駆けていくもの、仲良くなったもの同士で行くものと様々だ。

その様子を見る俺は未だに椅子に座って本を開く。


マケエル? 奴は走っていったよ。


十華会長は俺の隣で、周りからよってきた同じ県の他校に誘われていた。

となると俺は一人か。

ふむ、とそこで視線を感じ斜め前を振り向くと、小さな少女の紫の眼と俺の黒い眼が交わった。

一瞬の事だった。眼があった少女は本で顔を隠した。


どうやら同じ制服の集団のようだ。

白い学生服の男子に白いブレザーに白と黒のコントラストのプリーツスカートの学校、たしか白上戸高校だったっけ?

って、あの小ささで高校生とか、マジか!

そして、たぶん集団てことは一年前の(俺が死ぬ前の事)飛行機事故か。

生きていたら年上だな。

修学旅行で大惨事というニュースやってたし、同じ事故のグループいるかもしれん。

人の事は言えないが、ちょっとした同情の視線を送りそうになり、それはなんというか失礼だとこらえ、無難にキリッとした視線を送ってみると、


「っ!? ………っ!?」

「いや、本で覗いてチラっビクッ! ってしすぎじゃね?」


結構距離が開いているから声は聞こえないが、本から覗く紫の瞳と揺れる銀髪がフリフリと動いている。なんかウサギに見える。


しばらく謎のキリッ顔を続けていると、その少女が同じ制服の女子に迎えに来た

少女は何度か振り返り女子に言い募ってるが、連れが首を振ったことで無理だとさとりしょんぼりと連れていかれた。

なんだったんだろうか?


さて、どうせまだあっちで召喚陣の取り合いをしてるんだろう。

ここにいた神も向こう側に行ったようだ。


再び本に目を落とす。

こう見えても俺はゲームでは説明書を熟読するタイプなんだ。

その方がいちいちペラペラしなくてすむし、書かれているちょっとした説明がスパイスになって俺を楽しませてくれるのが快感だ。

しかし、ゲーム中での説明はダメだ。

なぜその世界のキャラが●ボタンとか知っているだ!?

その世界のどこにそれがついてるんだ!!

と言いたくなる。


目次を見直す。

男子側の名前に知っている名前はなかった。

知ってはいるがそれはニュースでと言うくらいならあったが、

しかし、そのニュースも4年前とかだった気がするし、ということはここにいるのは『死んだときの』年齢の魂とつくわけか。

簡単に言うと、結構前の先輩の魂とかいるってことだよな。


十華会長は未だに話しているようだ。

そして人数が増えている。

なんだそのカリスマ。


いやまて、というか俺が待つ必要ないんじゃないか?

ここでお先に、といって先にいった場合どうなるんだ。

一応、その昔からの会長だし、彼女いなければたぶん好きになっていた可能性もあるかもしれないから、せっかく会えたのにドライに対応するのは、まぁ、あれだよ、俺があれだ!

なに言ってんだろう……

とりあえず、女子の方を見よう。


本を今度はティアラ側から開く。


息を呑み、呼吸が止まる。


そうして、目次欄に目を通すとそこには……十華会長以外に知っている名前が2つあった。

二度見してしまった。


No.331:禍月(まがつき) (ゆう)

No.499:初風(はつかぜ) (みさき)


手が震えた。

まさかまさかそんな、でもなんで!?

記憶を巡るが、何も分からない。

なんで死んでるんだ?

いや、俺も死んでるけどさ。

何があったんだろうか?

もう一度名前に注目するが見間違いでも何でもなく、神の書は事実を告げてた。

しかし、ならばなぜ、十華会長のように近くに居なかったんだ!

何でだ?

どうしてこいつらは………


手に力が入り、開いた本を握りしめるが、その本はけして折れず曲がらなかった。

それがいっそう現実を突きつけてくる。


「おい、だいじょうぶか?」


十華会長が俺の背中をさすってくれる。

ちょっと落ち着くことができ、冷静になれる。



「十華会長は……」


そこまでいって周りを見て声をだした


「なんで皆と行かなかったんですか?」


そう、今は十華会長の側には俺しかいなかった。

さっきまでいた女子集団はここにはいない。

十華会長は困ったような顔をした。


「ふむ、それは秘密にしておくよ」

「……そうですか」

「逆に君はなんで残っているんだい? 条件が良い召喚先は取られちゃってるかもしれないよ?」


そうか、そうだな、良い場所は取られちゃってるか、でもでもさ、

俺は十華会長を見る


「知り合いと一緒の方が楽しいじゃないですか」


ピクっと眉を跳ねさせる十華会長。


「……今はそれでも良いけどね、君はまったく」


呆れた声をだし、座っている俺に手を差し出してくる十華会長。

その手はとても暖かい気がした。

お互い死んでいるのにな。


立ち上がった俺は、十華会長に妹と彼女がここにいたことを話した。

故に探すことはできないか?

いっしょの方が心強いと思う。

十華会長は二人がここにいることに『……そうか』とだけ苦々しい顔をして言った。

最後に三人に何があったのかは俺には分からないが、それでも条件付きで探してくれると行ってくれた。しかし、条件が『二人から絶対に守ってくれよ』っていったい何したんだろ。


B棟についてさっそく探すが、制服なんて似たり寄ったりだから分からない。

それにもう半数が魔方陣に消えていっている。

全体をぐるっと見回すがやはり見つからない。


いったん別れて探していた会長と合流するとー禍月 遊ー俺の妹の方を見つけたらしい。

妹は中学二年生だったから小柄な身長とちょっと違う制服で見分けが付いたのだろうか?


しかし、行った先には、


グランエル大陸

レドックス城

召喚魔方陣=方式『勇者召喚』

定員=4名

召喚待機中………


と空中に表示された文字列と淡く光る魔方陣のみ。

そして、定員メンバーの名前欄に、くっきりと


No.3ー禍月 遊ー


と入っていた。

どうやら遅かったようだ。


十華会長は思案している。


しかし、これだけの魔方陣があれば、もう既に彼女も召喚待機中になっていることだろう。

しかも地球の6倍の大きさに、国は800以上だ。

大陸も沢山あるだろし、海だって広い、この世界を探すっていうのか!?


「ならば、先に君の妹と合流しよう」


言われたことにポカンとしてしまう。


「十華会長はなにを言ってるんだ? この広さだぞ! それに大陸の場所も分からない、たとえ召喚されたとしても、その召喚国に対しての制約があるはずだ、きっと身動き何て出来やしない!!」


俺の叫びに十華会長はチラッと神に視線を向けた。

それに気づいた白衣の神は、にこりと微笑む。

一通りここであった召喚陣の取り合いで満足しているのかホクホク顔だ。

意外に争い好きなやつだな。


「神よ、グランエル大陸の新しく出来た小国をピックアップしてくれないか」

『へー、面白いことを考えるね、う~ん……いいよ、どうせ君たちが最後だし』


目を見開き、そして若干のためを作った後の返答だった。


え、最後? 後ろを向くともう既に誰もいなかった。

はやいな! なに『乗り遅れちゃう!』っていう脅迫概念にでもさらされたのか!?

もうちょっと考えないの!?


しかし、小国がどうしたっていうだ。


『うん、話は聞いていたし、君の事情も理解している。 だから僕はその選択が驚きで儘ならないよ』

「予想できない未来はワクワクだろう?」


「へ?」


俺の間抜けな声。

会長の台詞に神は目を細める。

何の話だ? 事情? わからん。


『ー禍月 (しゅう)ー あとは君たちの問題だから口出ししないけど、まぁ、きっと波瀾万丈のセカンドライフになることだろう』

「特別に応援してくれるのか……」


この神は特別に俺たちを労ってくれるのか?

いい奴なのか……


『いやいや、そんなわけないでしょ、勘違いしすぎだよ』


フッと鼻で笑われたんだが、殴って良いだろうかこの神。


「小国の魔方陣の中でレドックス王国から離れている国にして欲しい」

『うん、あるね』


十華会長の言葉に、俺はなぜ遠くを……と言いおうとしたが、会長の眼が任せろと強く言っている気がして口を出せなかった。


『これでいいかい、しかし、これはまた………予定調和とでもいうのか、いや』

「ふむ、じゃあそこにしてくれ、まさか神が断るまい?」


ちょっとビックリしている神に挑発するような十華会長。

そしてそんな会長を面白いとばかりに愉快に、イケメンがしてはいけない笑い方をしだす神。


『あははっ、そうか、君は、――すらも』


ぶつぶつ言う神は最後に、にっこりと微笑む。


『それではみんな、よき【王】になれる第二の人生を願っている』


そうしておれと十華会長は光に飲まれた。


これが俺たちの始まり








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