表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我輩さまと私  作者: 雪之
その後
37/50

9-X.級長連中と俺

 無事レポートを受け取ってもらえたおかげで、魔導学園卒業式へ向かうことが出来た。

 黒峰のチェックが効いたよな、バッチリだった!

 卒業祝いで親父が買ってくれた車に刃を乗せて、海から山へのドライブだ。

 あ、もちろん前に乗っちまったお高いやつの足元にも及ばない大衆車だ。んな金どこにあるってんだ、あとそんなの必要ない。

 ただ、山道走るんだろってそこそこ馬力のあるやつを買ってくれたのはすげーありがたい。

 おかげで学園までの山道も問題なく走れてる。

 もちろん俺の運転技術も向上してるから、助手席の乗る刃は特になにも言ってこない。

 最初があれだったからな……真面目に練習したわ。いつどこでなにが起こるか分からないってのを学んだよな。


「あー、やっと着いたか。遠いなこれ……」


「学園も学院も僻地だからな、仕方ないだろ。お疲れ」


 問題なく道を進んでようやく辿りついた学園は、二年ぶりってのもあってすげー懐かしい気分がする。

 特別に設けられてる駐車場に車を停めて、事前に申請しておいた許可証を見せて中に入る。

 卒業してから気付いたが、すげー厳重に管理されてたんだな。

 まぁ、それぞれの本家は無条件に招待状が届くらしいけどな。俺は一応、今は家から離れてるから申請した、刃が。

 式はちょうど終わった頃だったのか、中庭に居るのは親族っぽい部外者だけだ。

 なんかざわついてるからすぐ集まるだろうな。座って待つか。

 二年前に車で踏み荒らしちまった芝生を即行で治して以来、中庭は緑の組で管理することになった。

 夏場なんてすげー勢いで伸びるから大変なことになるが、これも練習のうちって言いくるめられた。

 ごめんな、後輩よ。ただ練習になるのは本当だぞ、将来職種によっては結構役立つし。

 在校生も俺の時と同じくしっかりと手入れをしているようだな。

 卒業式ってのもあって気合が入ったのかもしれないか。


 しばらくするとまず在校生がぞろぞろ出てきて、それが落ち着いた頃に卒業生が出てきた。

 両方ローブを羽織ってるが、卒業生の胸元には俺らの時と同じ、卒業おめでとうのピンクの花が付いてる。

 それぞれの色で集まって、多分あれは級長なんだろうな。中心で囲まれてる奴がちらほら居る。

 そういややったっけなぁ……俺はカリスマの欠片も無かったが、他の奴らはすごかった。

 赤山は猫かぶりで頑張って、青川は話しかける奴ら全部に対応して、茶壁は旅に出るのを嘆かれて、白空サンは握手攻めだったっけか。

 黒峰はほら……うん、アレだよな。伝説作っちゃったんだよな。そんでそれが伝統になっちゃったんだよな。

 もちろんすげー崇め奉られてたぞ? でもそれ以上にインパクトあったよな。

 嫁さんが帰ってからどの組も大はしゃぎだったし。

 って、今日は黒峰も来てるんだよな? なんたって愛妻の卒業式だし。


「なぁ刃、黒峰見たか?」


「いや……でも、絶対に来るだろ」


「あー……まぁ、だよな」


 学院のカフェテラス(食堂)での気まずい一件を思えば、今日は黒峰にとって待ちに待った記念日に……ならなきゃいいのにっ!

 我輩サマうざいですとか言われればいいのにっ!

 あー、なんか辛い。緑の組はちょっと落ち着いたみたいだから顔出しに行くか。


 輪の中に入ったらすぐ中心に引っ張られて、なんかやたら感激された。

 あ、ちゃんとスーツで来てるぞ? 着られてる感半端無いけどな!

 俺にとっちゃ一年坊主の印象だったのが、今や立派に卒業生で級長でと思うと、なんか色々思うものがあるよな。

 在校生との語らいを邪魔するのも悪いし、程ほどで抜け出しておいた。

 あと会うといったら……咲を見つけられればいいんだが、この人ごみじゃ難しいか。


「おい稔、黒峰さん居たぞ」


 端っこのベンチに戻ると、校門のほうを指差された。

 学院で見るのとは違う、すげーきっちりしっかりしたスーツの黒峰が歩いてくる。

 普段は適当に流してる髪もセットしてて、すれ違う奴らが目で追ってる。

 遠目からでもイケメン様とか! 脚なっげーとか! 妬ましい! 思春期男子の癖に!!

 とか思ってたら、人ごみもあって俺らには気付かなかったらしい。

 一直線に真っ直ぐにまっしぐらに進んでる。

 うん、あれな……声かけちゃ駄目なやつだ……。

 だって黒峰が向かってる方向、灰色の塊が居るし……。

 後輩ども、さっさと逃げろ! 色んな意味で危ないから!!

 にしてもほんと嫁さん、魔力増えまくったよな。

 確か隔世遺伝だっけ? そんなんで、急に魔力が増えたとか言ってた。

 魔力量としては上の中くらいだろうが、元が下の下だったからその伸び率は半端無い。

 ちなみに俺は中の上だ。つまりあっけなく抜かれた!

 そんな学園でもなかなか居ない存在なら、すぐ居場所ばれるだろ。


 ローブ姿がわらわらしてたのに、黒峰が近付くとさーっと道が開けた。

 それに気付いたのか灰色の塊も少しばらけて、その真ん中に……うん、見つかったな。

 こう見てみると身長差すげーなぁ。嫁さん、見上げてるし。

 伝説の夫婦が揃ったとなって、周りがどんどん静かになっていく。

 これぞ衆人環視か……どんまい、嫁さん。

 って、あー、うわー、おい黒峰お前何やって……わー!


「おぉ、相変わらずだなぁ」


「お? 赤山も来てたのか」


 後ろからの声に振り返ったらまぁいつものメンバーが居た。

 赤山と青川と清水。それに俺と刃と黒峰ってなると学院と全然変わらなすぎる。

 せっかくここまで来たのにいつもと一緒かよ!


「僕らが知る最後の後輩だからね。あと、黒峰の暴走を観察しに」


 やっぱ青川、性格ひでーな……いや、分かるけどよ。

 嫁さんの防御はあっさり流されてギューギュー拘束されてる。何あれ超可哀相。

 あー、でも夫婦だからいいのか? いや、こんな所でってどうなんだ?


「にしてもぉ、本当に愛妻家なんだなぁ」


「あれを愛妻家で済ませていいか悩みますよ」


「草薙君、パートナーには色々な形があるんだよ」


 そうこう話してる内にようやく離れたが……うわ、大人げねー。

 嫁さんのクラスメイトの男子威嚇してどうすんだ……。

 あ、そこはちゃんと嗜めるのな。偉いな嫁さん。

 ……まぁ、それで諦める黒峰なら伝説なんて作んねーよな。


「お、ちょうどいいトコに来たなー」


「うぉ、茶壁!? お前も来たのか!」


「ちょっちこっちに用あったからさー。そんで偶然。みんな集まってるならここに居るか」


 またしても背後からの声は久々の茶壁だった。

 俺らは揃ってスーツだが、一人私服ってか旅の服装ってか……でもなんでか似合う、羨ましい。

 これで佐々木と白空サンが居ればこの学年の級長勢揃いか。

 二人はどうしてんだかなぁ。


「あ、茜さん……じゃなくて白空さんは焔兄ほむらにいのお供で来れないって。

 すんごい悔しがっててちょっと怖かったなぁ」


 そうだ、白空サンは赤山の次期当主に嫁いだんだったな。

 あんだけ音無サンを気に入ってたんだから、そりゃ残念がるよな。怖いほどってのが怖いが。


「佐々木にも声、かけたんだけどね。今日は教授の講演会に連行されるから行けそうにないって、残念がってたよ。

 元から出来はよかったけどホント、あいつも変わったよね」


 佐々木……嫁さん救出作戦のあん時以来、結構喋るようになったんだよな。

 進学先が違ったのは残念だったが、目指すものが違うんだから仕方ない。

 にしても、同じ教授に呼ばれるでも俺とは正反対の理由だな。相変わらずだ。

 なんて話してる間に黒峰は、嫁さんに指輪はめるわ怖い魔力漂わせるわで忙しそうだ。

 それにいちいち対応してやってる嫁さんは偉いわ、ほんと。

 こっち見てなんか言ってるが、俺にはどうにもできん。頑張れ!

 てか二人揃って真っ赤になって何を話してるんだよ、このバカップル!

 あーもー見ててムズムズする! いちゃつくならどっか他所でやれ!

 って…………うわああああ! 二年前の再来だああああ!


「わー、大胆」


「大胆どころじゃねーよ! 卒業生空気だぞ!」


「お嫁さんっていう卒業生代表が目立ってるからいいんじゃない?」


「よくねぇ!!」


 お前らなんでそんな平然としてんだよ!

 二年前は正直さ、仕方なかっただろ。感動の再会だったんだもんな。

 でも今はちげーだろ!? 休みのたんびに会ってるんだろ!? 家でやれ家でっ!!

 ようやく離れたと思ったら今度はこっちに歩いてくる……こっち? マジで?


「お嫁さんの卒業式の思い出、手伝ってみっかね」


「それって黒峰を見とくってことぉ?」


「仕方ないね。学友としてこれ以上させるのもマズイだろうし」


 マジかー……お前らいい奴だな。俺正直、今の黒峰相手に何話していいか分かんねーよ……。

 刃を盾にしておこうかな、本気で。あ、すげー渋い顔してる。やっぱそうなるよな。

 背が高くて脚が長いと歩くのも速い。運動不足の癖に。


「お前たちも来ていたのか」


「そりゃあね、僕らも後輩は気になってたし」


「自分はたまたまだけどねー、いい日に戻ったわ」

 

 生徒の群れに背を向けるように歩かせてベンチに座らせるあたり、さっきの言葉通りの行動なんだろうな。

 なら仕方ない、俺も手伝うか。せっかくの卒業式に、旦那の世話ばっかじゃ寂しいもんな。

 いつものメンバーだけなら話題に困るとこだが、今日はレアキャラの茶壁が居る!

 旅のあれこれの話は尽きないし、茶壁の喋りも上手いからあっという間に時間が経った。

 背後の卒業生はちらほらとしか見かけなくなったし、そろそろ御役御免か。


「さて……我輩はそろそろ移動する。また学院でな」


「黒峰……お前、ちゃんと待ってやれよ?」


「無論、待つ。弥代子の用事が終わったら知らせるよう、ぷーにも言ってあるからな」


 ぷーって、あれか。嫁さんの魔獣か。

 ……監視体制バッチリだな。


「僕らはもう帰ろうかな。清水、車は?」


「駐車場にて待機しています。……黒峰様」


「何だ」


 ずっと黙ってた清水が一歩出て、黒峰に向かう。こいつらが話すとろくなこと話さないから怖い。


「御武運を」


「うむ」


 ほらな! 失敗しろ!


「てか、移動ってどこ行くん?」


「一箇所、行っておきたい場所があってな。恐らく今後、立ち寄る機会は無いであろうから」


「なるほど、それもそーだな。自分もどっか周ってみっかな」


 赤山と青川と清水がここで帰って、茶壁は学園内をふらふらしてみるってさ。

 俺はどうすっかなぁ……。


「お兄ちゃん、稔ちゃん」


 ベンチに座ってぼーっと考えてたら、緑色のローブ姿の生徒が近付いてきた。

 久々に会ったのは刃の妹の咲だ。


「よ、久々だな! 元気してたか?」


「うん。稔ちゃんも、元気そう」


「まぁな。補助役お疲れさん。

 きっかけは俺が作っちまったようなもんだったし、ありがとな」


 実は咲が嫁さんの補助役になったのは、俺との話がきっかけだった。

 一年前の春休みに実家で話してる時に、草薙だからもしかしたら誰かの補助役になるかもなって話になった。

 んで、俺らが知ってるのは嫁さんだけで、もしもなるなら嫁さんがおススメって言っておいたんだよな。

 黒峰の惚気話で嫁さんの成績が学年トップって聞いてたし。

 無色なら多分成績順だし、その上名前が黒峰だ。学園側だって、級長にしない手は無かっただろ。

 そんな子の補助役ってなると、成績順で選ぶのも難しそうだったり。

 俺や赤山や青川みたいに昔からつるんでる奴の場合もあれば、茶壁や白空サンみたいに後輩から選ぶ場合もある。

 あ、もちろん黒峰は異例だ。そんでもって黒峰って名前の生徒が他の組の級長ってのも前代未聞。

 だから、むしろ別の色でもいんじゃね? とか思って言ってはみたんだが……

 

「自分で決めたことだから、いい」


 級長が発表された途端、すーぐ連絡来たんだよな、咲から。補助役になるにはどうすればいいって。

 面識は無かったようだし、俺はもう学園に居ないしで、とりあえず刃と黒峰に話をしたらそっからさくさく決まった。

 仕事の出来る奴が近くに居るっていいよな……はは。


「教えてくれて、ありがとう」


「お、そか。仲良くなれたならよかったな」


 まぁ元から補助役だった嫁さん相手なら、そこまで無茶な仕事にはならんだろうとは思っていたが、問題ないようでよかった。

 学園側も手間を減らしたいのか、補助役を級長にすることが多いらしいんだよな。


「来年は咲が緑の級長か?」


「まだ決まってないけど、言われても辞退する」


「いいのか? 成績悪くても評価すんげーくれるぞ?」


「それはお前だけだ。普通にしてれば必要ないだろ」


 なぁ刃、そこまで言うか? 俺、試験前は頑張ったぞ? 言われたことをひたすらやるだけだったが。


「弥代子先輩だから補助役になった。だから、弥代子先輩が居ないなら級長なんてやらない」


「まぁめんどいしなぁ……他に適任居たら押し付けていいだろ」


 居れば、だけどな。

 咲は真面目でマメで器用だし、緑原とのつながりもある。

 それに草薙兄妹は補助役として有能すぎたから、学園としても関わらせたいんじゃないかね。

 本人の意思が重要だから、無理強いはないだろうけど。


「咲、今日は稔の車で来てるけどどうする。春休みいつからだったか」


「在校生はまだ休みじゃないから、休みに入ったら連絡する」


「じゃあそん時は迎えに来てやるぞ!」


 卒業式の片付けやら何やらがあるってことで、咲とはここで別れた。

 んで、俺らも茶壁に倣って学園内をうろつくことにした。二年ぶりっても、大して変わるもんじゃないけどな。

 なんて思ってると、緑色の扉の前に通りがかった。


「級長室か……なんかすげー久々だよな。入るか?」


「馬鹿、鍵かかってるに決まってんだろ」


 鍵なんて意味、ねーけどな!

 別に悪さするわけじゃないし、そっと入ってそっと出ればよくね?

 刃は呆れつつも見逃してくれるらしい。昔やったように鍵穴に蔦の種を放り込んでちょいちょいっと……。

 うん、俺の鍵開けスキル、上がりすぎだな……自重しよう。

 二年振りの級長室は正直、何も変わってない。それに安心したような拍子抜けしたような……?

 後輩の代はあんま使ってなかったのかもしれない。いつも座ってた椅子に座ると、二年前と同じ感触だ。

 入ったもんは仕方ないと思ったのか刃も座ると、なんだかすげー懐かしい気分がする。


「もう二年かー……」


「なんだよいきなり」


「だってよー、三年生の密度が濃かったんだろうな。卒業してからがなーんか早くてよ」


「オレはお前の試験の世話で、今でも毎日が濃いぞ」


 う……痛いトコ突くなほんと。

 次の試験はいつだったかな……既に今から気が重い。


「一、二年の頃はクラスメイトと馬鹿やってよー、気楽に過ごしてただろ?

 それが三年でいきなり級長だからな、びびったわ」


「緑原なんだから、当たり前だろ」


「でもよー、兄ちゃんらならまだしも俺だぞ? 成績悪いし立派なもんでもねーし」


 兄姉だって全員立派だったわけじゃねーけどな!

 そう考えると名前だけで選ぶ属性持ちより、成績順で決める無属性のがちゃんとしてる気がする。

 ほんと、俺は刃が居ないとダメダメだからな。


「刃さ、いつもありがとな」


「……いきなりなんだよ、気持ち悪い」


 心底嫌そうな顔してんじゃねーよっ!

 ちょっとしんみりした勢いでぽろっと出たが、言わなきゃよかった!

 つかもう一生言わねー! 絶対だ!!

 気を紛らわすためにカーテンを開けて外を眺めてみると、生徒も保護者もちらほらとしか見えない。


「そういや、学園祭ん時幽霊見たんだよ……」


「は……?」


「言っただろ? どこだったかな……どっかの部屋に人影が見えてよ」


 今はあの時と違ってちょっとは明るいから分かりそうなもんだが……あの辺か?


「おい稔、止めといたほうがいいぞ」


「なんでだよ? ここで謎を解いておかないと一生気になるだろ」


「分かってなかったほうが驚きだ……」


 うん? てことは刃は解けてるのか? て、幽霊に解くも解かないもあるのか?

 カーテンが閉まってる教室が多い中、たまーに開いてる場所をよくよく観察してみる。

 いまだに肉体操作はあんま得意じゃないから、視力は裸眼に頼るしかない。

 ただ山育ちだから視力には自信がある!


「あそこか……?」


 結構距離のある場所の窓際に人が居るが……あそこ、何の部屋だ?

 やけに暗い部屋は……暗いじゃなくて、黒い?

 人にしてはがたいが大きい……んじゃなくて、二人分?

 てかこれってほんとにあの時の幽霊……っ!?

 学園祭だけじゃなく卒業式にも出現すんのか!


『――――――』


「…………っ!?」


 や、っべ……なんかすげー寒気ってか威嚇ってか、そんなのを含んだ魔力が飛んできた。

 やたら濃くて渦巻いた、呪われそうなのが。

 …………ん? いや待て、この魔力知ってるぞ? あれ? まさか?

 もう一度よくよく見てみると、黒い部屋に二人でくっ付いた人間。

 こっちを向いてる顔は見知ったと言うかさっきまで見てたって言うか……


「黒峰かよっ!?」


 てことはあそこは黒の級長室か!

 そんでもってくっついてるのは嫁さんだろ! いちゃつくなら家でやれってんだろっ!!

 こっち見んなみたいな顔すんなよ! 見られるとこですんな!

 嫁さんを抱きかかえたままカーテンを閉められて、ようやく見えなくなった。


「だから止めといたほうがいいって言っただろ」


「もしかしなくてもよ……学園祭の幽霊って……」


「見たら呪われるって言っただろ」


「マジかー……」


 刃、気付いてたのかよ。てか、あの時からかよ。

 俺ずっと怖がってたの馬鹿じゃん、教えろよ、くっそーっ!


「言ったら言ったで僻んで終わりだろ」


「そりゃそうだけどよー……」


 校内地図を頭に入れてりゃすぐ分かることだって言うが、とっさに思い出すのは無理だろ。

 少なくとも俺は! 刃と俺は出来が違うんだよ!

 あー、もう夕方だし、あんま遅くなると夜の山道を下ることになるからそろそろ帰らなきゃな。

 もうさ、真っ暗なあの道は走りたくねーよ。よく行けたよな、二年前の俺。


「うし、帰るか」


「鍵はかけなおせよ」


 分かってるっての。

 椅子を戻して蔦で鍵をかけて、黒峰に遭遇しないよう祈りながら駐車場まで出た。

 思い出の超高級車は今日も鎮座してるが……うん、この先こんなん運転する機会は無いな。

 てか、学院卒業したら実家に帰って、農耕車ばっか運転することになるだろうしな。いい経験だったと思っておこう。

 校門付近で茶壁がふらふらしてたから拾って、駅まででいいって言うから送ってやることにした。

 その途中の話によると、国内のめぼしい場所は制覇したからって外国に行くらしい。


「出る前に学園、ちょっと見ておきたかったんよ。どんくらいで帰るか分からんからさ」


「どんくらいって……どんだけ長期間のつもりなんだよ」


「うーん、自分らでも行ける場所は一通り周りたいからなー。

 魔力持ちの今後の対応次第じゃ、行けない場所も出来そうだし」


「この先どのような規制になるか、分からないですね」


 二人はあーだこーだ話してるが、よく分からん。

 頭いい奴らと違って俺はんな難しいこと考えらんねーっての。


「とりあえず茶壁よ、面白そうな場所とかまた写真、送ってくれよ。

 んで、元気だーって教えろよな」


「ん? それって心配?」


「そりゃそーだろ。外国なんてそうそう行く場所じゃねーから。

 安全なとこもあるだろうが、そうじゃないとこも多いんだろ?」


「まーね。んじゃ、ちょいちょい連絡すっかね。送ってくれてありがとーな」


 ちょうど駅に着いて、軽い感じで下りていった。

 また来月くらいに会う予定があるような、そんくらいあっさりした別れだ。

 ホームに着くと珍しくすぐに電車が来て、こっちにヒラヒラ手を振ってから乗り込んだ。

 電車が見えなくなるまで見送って、車も人も居ないから少し休憩だ。これから家まで長いからな。

 ちょっと離れた場所にあった自販機でジュースを買って車に戻る。まだここらは寒いわ。


「羨ましいとか、思わないのか?」


「あー? 茶壁のことか?」


 うっかりホットを買ったが車内は暑いから失敗だったか……。でも刃も同じのだから道連れだ!


「お前、学院しんどいんだろ? 茶壁さんの旅行の写真、羨ましそうに見てただろうが」


「まぁ、羨ましいは羨ましいがなぁ……」


 あそこまでの覚悟、俺には無いわ。

 一人旅出来るほどしっかりしてねーし、名前的に進学しない理由も見つけられねーし、あとまず金無いしな!

 茶壁はなんか、副業とかバイトとか色々言ってたが、こっそりしっかり貯めこんでたらしい。偉いよな。


「学院卒業すんのも、意味はあんじゃねーかな」


「そりゃあな」


「試験前とかレポートやってる時はしんどいし羨ましーってなるけどよ。それ以外は別に不満ないしな。

 知り合いも多いし、馬鹿やんのも楽しいし、わざわざ一人になりたいとも思わねーし」


 なんつーかな。身内と一緒に居るのはやっぱ、楽だし楽しいよな。

 それだけじゃないが、落ち着くってか。


「家族とか友だちとか知り合いとかとよ、普通に平和に過ごしていけりゃ、それでいいだろ」


 上手く言えないが、多分こんな感じか。

 もっと広い視点でーとかどこそこで何々が起こってるーとか、そういうのは頭いいとか偉いとか、そういう奴にお任せだ。

 馬鹿な俺は自分の周りの人間にしか気を回す余裕なんてねーしな。

 ……我ながら情けないって自覚はしてる。


「……そうだな」


 お? もっと考えろとか言われるかと思ったが、やけにあっさりだ。

 まぁここで何か言われてもどうしようもできないがな!


「あー腹減った! 今日はどっちで飯だ?」


「おふくろさんは用事があるから、オレん家で食ってくれってよ」


 さすが、連絡済か。こういう感じだから親も、すぐに刃に連絡するんだろうな。

 そっちのが確実だからこのままでいいが。


「んじゃ、行くか!」


 そろそろ夕方より夜って感じだ。

 学院に戻るよりはましだが案外距離、あるんだよな。

 まぁ黒峰ん家に行った時よりよっぽどましか。


 休みが終わって学院に行けばいつもの奴らが居て、今日会えなかった奴らだって大抵どっかで繋がってる。

 会おうと思えば会えて、思わなくても会えることもありそうだ。


 級長連中と俺。腐れ縁はずっと、切れずに続くんだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ