6-X.級長連中と俺・脱出劇
ついに最後の新学期がやってきた。
進学に関してはもうほぼ片付いたから、学園生活も消化試合感が強いな。
きっとすぐに卒業式になるんだろうな……さらば、桃色になれなかった学園生活。
新学期恒例の見せしめ級長を終わらせると、刃が難しい顔をしてる。なんだ?
「稔、お前年始の挨拶回ってたよな?」
「あ? あー、一応。白空サンの婚約もちゃんと聞いてきたぜ」
赤山の従兄弟の兄ちゃん、赤山の次期当主とだって。すげーなぁ……。
やっぱ今年は何かが違うな!
「その時、黒峰さんの話はあったか?」
「は? いや、ねーけど……」
いつも通り各本家の人間が集められて、かるーく挨拶した程度だ。
そんな話をする時間は無かったが、報告するなら白空サンが言った時に一緒にすればいいんだしな。
だから黒峰がどうこうってのは無かったはずだ。
「そうか……なら、気のせいか。黒峰さんも婚約したとか言ってる生徒が居たからな」
「黒峰は補助役のあの子にぞっこんだろ? そんなんするわけねーだろ」
「あれだけの立場になると、そんなんさせられることもあるだろうよ」
政略結婚、てことか?
いやいや、今時あってたまるか……いや、あるんだろうな。
白空サンだって考えてみりゃ政略を感じるし。
次期当主の黒峰なら、選ぶ余地はないのか?
「まぁ、気のせいだろ。すぐに授業始まるから、行くぞ」
「おー、俺の渾身の宿題提出をとくと見やがれ」
「それ解かせたのオレってのを忘れるなよ」
冬休みも刃は俺ん家で宿題をやってた。
そんなん見せられたら、俺もやらざるを得ないのを分かってたんだろうな。
家族の無言の威圧が苦しかった、ほんと。
久しぶりの授業に頭から煙が出たと思う。結構本気で。
さっさと帰ろうと思ってたら、なぜか顧問から、級長のみで食堂別室に集まれってメールが来た。
刃にはまた別で、補助役のみ生徒指導室に集まれって。
何だ? これ。
「なぁ刃、これなんだと思う?」
「さぁ……ただ、変なことでも起こらなきゃいいとは思うな」
だよなぁ……。この一年級長をしてきて、こんなメールは初めてだ。
その上補助役と別ってのが一番気になる。
先生だって知ってるよな、俺と赤山が補助役に頼りきりってこと。
つまり、なんだ……うん、めんどくせえ!
「とりあえずオレは行くから、お前も他の級長と同じようにしてろ。いいな」
「おー、話は聞き逃さないよう努力はする」
「逃すなよ。じゃあな」
渋々食堂の別室のドアを開けると、すげー声が聞こえてきた。
「――――黒峰っ、貴方の仕業なのっ!?」
「そんなわけがあるかっ! 我輩とて分かっておらぬのだぞ!?」
「どうして分からないのよっ! 貴方が一緒に居たんでしょうっ!」
「だから、部屋を離れた隙の出来事だったと何度言えば分かるのだ!」
「どうして部屋を離れたのかと聞いているのよ!」
「それは……っ」
おいおい、何だこの状況?
俺以外の級長は揃ってて、その中の黒峰と白空サンが怒鳴りあってる。
てか白空サンがこんなに声張ってるの、初めて見るな!
「よう、緑原」
「おお、茶壁。コレ、なんだ?」
喧嘩の邪魔をしないようにか、静かーに座ってる茶壁の隣に座る。
今日は席順とかどうでもいいだろ、補助役居ないんだし。
「自分もよく分かんねーけど、メインは黒峰なんだろーな」
黒峰のオーラが怖い。超怒ってる、超怖ぇ!
なのに白空サンも負けず劣らずだし! 二人共怖ぇ!
喧嘩は仕方ないが、状況説明してくれる人は居ないのか?
俺らはここで何すんだ? ジャッジメント?
状況が分からず見てると、やっと顧問の先生が入ってきた。
もちろんあの二人の剣幕に冷や汗をかいてる。大変だな、先生。
「教員よ、これは一体どういうことなのだ」
「早く説明してください、事態は一刻を争うのよ」
針のムシロってこのことか。あー、可哀相。
でも俺も説明して欲しいからさっさと脅し倒して欲しい。
ひとまず座るように言って、出来るだけ距離を開けた壁際に立ってから、ようやく話し始めた。
「今日からしばらく、学園の生徒は外出禁止になります。
これは絶対です、特例は認められません」
「そのようなもの、知るか」
「そうね、どうでもいいわ」
「これは正式に通達された命令なので、破れば罰が与えられます。
卒業を控えた三年生の皆さんには、正直破って欲しくないものです」
破ったら……留年? 合格取り消し?
外出禁止を破るくらいで、なんでそんな重大な事態になってんだ?
どっかから圧力でもかかってんのか?
「だから何だ。我輩は我輩のしたいように動く」
「これは……黒峰本家からの通達です。
黒峰君は学園の誰よりも、この命令を聞かなきゃいけない」
「では何ゆえそのような命令が出た? 理由もなしの命令に、貴様ら学園は従うとでも?」
「事情は生徒に知らせる必要は無い、とのお達しだよ」
そもそもなんで、今更外出禁止なんだ?
だってここは特別なにかが無い限り、誰も出て行くことは無い。
てことは、外に出なきゃいけないようなことが起こってるのか?
「なぁ黒峰……さっきから白空サンと揉めてるの、なんだ?」
これが一番知っとかなきゃいけない気がする。
てか、これが原因でそんな事態になってんだろ?
級長も補助役も呼び出してよ、説明しとくべきなんじゃね?
「……まさか、緑原が言うとはねぇ」
おい赤山やめろ、その物珍しい視線。
て、他の奴らもじゃねーか! そんなに俺が口出すのが珍しいって言いたいのか?
普段は刃が全部やってるからな、そう思って当たり前だな!!
「ま、知っておかなきゃ自分ら、なにもできんからね。黒峰、教えてくれる?」
「…………我輩の補助役が、居なくなった」
居なくなった? どういう意味で言ってんだ?
「放課後、級長室に居た時……我輩の家の者から呼び出しがかかった。
故に、一人残して部屋を出た」
それ以降、見当たらないってことか。
そんなら先に帰ったとか、用事を思い出したとか、そういうのはないのか?
「……この学園の敷地内にはおらぬ」
「なんで分かるのぉ?」
「……陣を施してあるからだ。例えどんなに遠くとも方角程度なら分かるのだが、今はそれすら無い」
おぉ……黒峰、それは軽くストーカー入ってるぞ?
いやまぁ、色々あったから過保護になるのも分かるけどな。
黒峰でさえ追えない場所……そんなんあるのか?
俺なんかじゃせいぜい敷地内くらいしか届かないだろうが、やれる奴は果てしなく遠くまでいける。
もちろん黒峰はやれる奴だろうから、何かに妨害でもされてるのか?
それとも陣を消されたとかか?
「我輩の陣を消すのは容易ではない筈だ。そして隠せるとしたら……黒峰の家の者であろうな」
「級長室にも痕跡があったんでしょう? なら決まりじゃない」
木の葉を隠すなら森の中、黒の魔力を隠すなら黒の魔力の中、か。
そんでもって学園側へ圧力をかけてるなら、犯人は決まりか。
「なんで黒峰家が音無さんを攫うん? 理由が無きゃここまで派手に動かないっしょ」
「……ねぇ、黒峰が婚約したって聞いたけど、それって本当?」
あぁ、青川も知ってたのか。刃が聞いてきたやつだよな。
俺は知らないが、実は偉い人たちの間では知られてるとかいうやつか?
「先程も聞かれたがそんな馬鹿なこと、ある訳が無い」
「だよなぁ。黒峰、音無さん大好きだもんなぁ」
「なっ……!?」
おー、赤山ってばぶっこんだな。
黒峰がすげーうろたえてるけど、全員知ってるからな? 今更だぞ?
そこかしこであんだけイチャイチャして、ばれないとでも思ってんのか?
思春期男子を舐めるな! 妬ましい!
「わ、我輩は……今はそのような話をしている場合ではない!
教員よ、我輩は貴様ら学園の物言いなど聞かぬ。罰すると言うなれば罰するがよい。
その結果、この先どうなろうとどうでもよい」
「…………先生は止めた。その事実だけ覚えておいてくれ。
今回の黒峰家からの話は……正直、異議がある。
ただ君たちなら分かるだろうけど、この学園は始祖の家系によって存在してる。
だからこそ、表立って否定することは出来ない」
「ならば止めるがよい。貴様如き、倒せぬとでも思うか?」
「……いいや、思わない。学園内で黒峰君に勝てる人間なんて、居ないよ。
顧問として、言うべきことは言った。学園として、生徒の外出の手助けは出来ない。
車もなしにどうやって黒峰本家まで行くのか、考えてから行動するように」
これ以上の説得は諦めたのか、そのまま出て行った。
確かに、学園から駅まででも車が必要で、駅からだってそろそろ終電近いだろうな。
田舎駅だから仕方ないけどよ。
そう考えると、確かに行けるはずないな。
「……一晩走れば着くだろうか?」
いやいやいやそれはちょっと違うぞ!? やめとけ、無謀だ!
こいつ変なところで変なこと言いだすよな!
まず! まず状況を整理しよう、話はそれからだ!
「ちっとさ、話まとめてから考えたほうがいいと思うわ。
まず音無さんが攫われたのは確定?」
ナイス茶壁! さすが出来る男は違うな!
「……うむ」
「黒峰以外の手の可能性は?」
「……状況と痕跡から見て、薄いであろうな」
「んじゃ、音無さんは黒峰本家に居る?」
「……このような手段を取れるのは、本家に近しい人間だけであろう。
故に、本家の敷地に近い場所の筈だ」
「なるほどね……」
黒峰の補助役は、黒峰本家の誰かに、黒峰本家の敷地内へ攫われた、か。
おいおい、完全に巻き込まれてるじゃねーか。
あの子は普通の家の子なんだろ? 本家の都合に振り回されてるだけじゃねーか。
それはさすがに、無いだろ。
それぞれ解決策が無いものかって悩んでるが、もう行くしか無いんじゃね?
問題はどうやって行くか、だよな。
「……だから、わたしの印を消さなければよかったのよ」
「今それを言ったところで、状況は変わらぬだろう」
「でもそうでしょう? 黒峰の敷地の中でも、わたしの魔力なら察知できた。
貴方の下らない嫉妬のせいで、弥代ちゃんの行方が分からなくなった」
「下らないだと……?」
やべぇ。また白空サンがヒートアップしだした。ついでに黒峰も。
て、みよちゃんってなんだ? あの子の名前にしては親しげだな。
「貴様が勝手に我輩の所有物に印を付けたのだろうが。消すのは当然だ」
「弥代ちゃんは所有物じゃないって、何度も言われてるでしょう?
弥代ちゃんは一人の人間よ。貴方の物なんかじゃない!」
「弥代ちゃん弥代ちゃんと連呼するでないっ!
貴様、誰の許可を得てそう呼んでいるのだ!」
「弥代ちゃんがいいって言ったのよ! 女の子一人も守れないくせに、独占欲なんか出さないで!」
「な……っ!」
「そ、そんな言い争いをしてる場合じゃないと思います!!!」
うぉ、いきなりなんだ!? て、佐々木?
ずっと黙ってたから存在感無かった……。
でももっともだよな、お前が正しい。
「白空、言いすぎ。黒峰も落ち着けって」
茶壁の言葉にそれぞれ離れて座った。こういう時、お目付け役にもなる補助役が居ないのはきつい。
大体なんで二つに分けたんだ? あっちは何の話されてるんだか。
どうせ俺らが何かするのを止めろとでも言われてるんだろうな。
刃も……俺を、止めるのかなぁ……。
どれだけ考えても、外出禁止を破る為の手立てが浮かばない。
そもそも車なんてどこに……うん? 車? 職員室にキーボックスあったよな?
ずっと山の上で生活するんだから個人の車以外にもあるよな?
生徒が外に出る時送迎してんだから。
てことは、だ。手立て、あるんじゃね?
俺一人の頭じゃ自信が持てないから、他の級長に聞いてみっか。
つーてもこの中じゃ……うん、一人しか居ないな。
「よう、茶壁サンよ」
「なんよ、緑原サン?」
この中じゃ一番落ち着いてるし、その上頭も回る。
普段なら刃に言うが今日は仕方ないよな。
「お前変わらず、当主候補から外れたいんだっけ?」
「うん? あー、そうだなー。さっさと兄貴に任したい」
「じゃあちょっと問題起こしても、むしろ好都合だったりするか?」
今思いついたことを手短に説明すると、何度か頷いてニヤっと笑った。
好感触?
「…………緑原、お主も悪よのう、ってか?」
「お代官様こそ、だな」
よし。茶壁がいいと思うならいいだろ!
てことはさっさとやるか!
「おい黒峰! 出かける準備しとけ、送ってやる」
「む……? しかし移動は」
「ちょっくら暴れてくっからよー、なんなら他にも来るか?」
人は多いほどいい。が、強制は出来ないよな。今後の進路に関わるし。
二人でもやりようもあるし、どうにかしよう。
「……俺、行きます! 連れて行ってください!」
「さ、佐々木ぃ? いいのか、お前……」
「音無さんとは……縁もありますし。無属性の級長として、後輩を救いたいです」
いつの間にやら、逞しくなったな……。
最初なんておどおどしっぱなしで、すげー頼りなかったのに。
そういやあのキャンプ以来か。なら……縁、あるよな。
「うっし、んじゃ自分と緑原と佐々木で行ってくっからよ。
黒峰は門のところで待っててよ」
「……うむ」
さぁて……いっちょやってやっか!
三人で職員室に行くと、若干ざわついてる。
そりゃそうだよな。あんな変な命令、疑問に思う先生が居ないほうが怖い。
その隙にそーっとキーボックスに近付き、蔦の種をちょろっと生やして鍵穴に突っ込んだ。
そうすりゃ鍵穴の形にそって育つから、そのままぐるっと回せば……ほら、成功!
よい子は使っちゃ駄目なヤツだな!
車のエンブレムが付いてる鍵をいくつかポケットに突っ込んで、またそーっと出て行った。
いくら山の上の学園だからって、もう少し防犯意識あってもいいと思うぞ。
「ピッキングまで出来るんか。すげーな」
「見なかったことにしときます……」
緊急事態ってことで見逃せ!
そのまま学園の裏まで走ると、そこにはやっぱり何台か車が停まってた。
あんまでっかいのはいらないから……これでいいか。
鼻っ面の上に飾りが突っ立ってるけど、何なんだろうな、これ?
「てか、運転は誰がするん?」
「俺。免許は夏に取った!」
「経験は……?」
「……農耕機なら子供の頃から運転してる」
つまり公道はペーパー!
半年振りで教官居ないで人を乗せる……うん、やべぇ、ちょっと怖ぇ。
「安全運転、心がけろ?」
「……おう」
ただもう他に手段が無いからな、やるっきゃねぇよ。
二人に周りを監視してもらってエンジンをかける。
うーん、静かは静かでも、山の上じゃ響くよな……。
あー、やっぱり先生出てきたっ!! やっべーさすがにこれはどうやっかな……
「はいはい、先生ちょっちどいてねー!」
「すみません! 離れてください!」
茶壁と佐々木が作った一瞬で、先生と車の間に土壁が出来上がった。
すげーな茶壁、さすがだわ。
といっても先生の中には無効化できる人もいるだろうから、ここはさっさと逃げる!
「悪い、ここは任せた!」
「おー、行ってこい!」
「気をつけて!」
こっからえーと、どうすんだ? あーもういい! 中庭突っ切る!
芝生ごめん! 帰ってきたらお前らまとめて治すからよ!
ほんっとこの学園夜は暗いんだよな見えないんだよな怖いんだよなっ!
っと、門の前はまだセーフか。黒峰、黒峰……って、ローブ黒いから見辛いんだよっ!
「緑原! ここだ!」
「先生すぐに来るから! 乗れっ!」
がっちり閉じられてた門は赤山と青川が開いてくれてる。
白空サンも周囲を警戒してくれてるし、これでどうにか行きたいもんだ。
「弥代ちゃんに何かあったら、わたしは貴方を許さないから」
「……貴様の前に、我輩が許すことが出来ぬわ」
殺伐とした挨拶は発破かけてるつもりか? お前ら物騒だよ……。
助手席に乗り込んだのを確認して、ようやく開いたクソ重い門から外へ飛び出した。
お願いだから動物、寝てろよ?
真っ暗だから何も見えねぇよ?
あ、これじゃない車の鍵、持ったままだ。ま、いっか!
「稔っ!!!」
刃の声……か?
バックミラー越しに見えたのは予想通り刃だった……が。
その後ろから先生が追っかけてきてるー……悪い、逃げる!
「行ってくる! あと頼んだぞ!」
門の前で級長連中総出で先生を押し留めてくれてるから、その間に行けるだけ行かないとな!
山道暗いし怖いけどな!
いくら舗装されてても、道筋は山に従ってるからぐねぐねしてるし!
鹿とか猪とか出ても撥ねる自信があるぞ!
だから出てくるなよ!
「み、緑原……」
「あ、シートベルト付けてくれ。自信ないから」
「う、うむ……」
「にしても、なんで助手席乗ってんだ? 上座は運転席の後ろだぞ?」
珍しくフードを脱いでるから、引きつった顔がよく見える。
悪かったな、未熟すぎる運転手で。
「何故、上座などに座らねばならぬ。今の我輩は、級長たちに送り出してもらったにすぎん。
そして緑原、お前の運転に頼るしか手段は無いのだ」
「んー、まぁ、そうなのかもしれないけどよ」
そういう問題なのか?
正直、何かあったとき助手席が一番危ないって習ったからやべぇとは思ったが、本人がいいって言うならいいよな。
何ともすれ違わずに駅まで辿り着いて、あとはナビに住所を入れて案内開始だ。
さすがに道なんて知らないからな、頼んだぞ、高そうなナビ!
もう、舗装された平地の道の走りやすいこと! 少し余裕が出てきたな。
なんて思ってたら、黒峰が話しかけてきた。
「……お前は何故、我輩を助けたのだ?」
「ん? んー……」
何でだろうな?
先生の一方的な指示に納得がいかなかった……のもある。
茶壁の非行の為……はおまけだな。
というと、何が一番だったんかなぁ。
「黒峰、あの子のこと、助けたいんだろ?」
「無論、そうだ」
「だからじゃね?」
「だから、とは?」
あー、なんか難しい話になりそうだな。
よく考えずに動いてるから、説明なんて出来ないんだよな。
これだからいつも刃に、考えてから行動しろ馬鹿って言われるんだろうな。
「本家の都合に振り回されて、可哀相だなってのもあるけどよ。
だからって人の家に口出しすんのも違うとは思うが……」
あー、わかんね!
理由がなきゃいけねーの? なくてよくね!?
「黒峰こそ、なんで助けたいんだ? やっぱ好きだから?」
「…………」
「あ、言いたくないなら聞かねぇよ? 雑談なんだからよ」
「…………好き、とは……なんなのだろうな」
「はぁ?」
おいおい、何だそのガキみたいな台詞。
思春期以前の問題だぞ?
「愛しいと、思うのだ。それはお前の言う、好きと同義なのだろうか……?」
「同じだろうけどよ……むしろよくそんな言葉言えるな。好きのがよっぽど言いやすいだろ」
「そうか? ……思えば、弥代子も驚いておったな」
あの子の名前か? 名前呼び捨てとか仲睦まじいなこの野郎!
茶壁は黒峰のこと、純朴少年とか言ってたがそんなことないだろ。
てか、本人に言ったの? その台詞? すげー度胸だなおい!
「えーっと、音無サンだっけ? 補助役の子。
それって白空サンが言ってたみよちゃんてのと同じでオーケー?」
「……うむ。いつの間にやら、な」
「黒峰と白空サンのお気に入りの子を助けるのは、別に変なことじゃないだろ。
誘拐ってんなら尚更さ」
「しかしそれにより、立場が危うくなることもあろう」
「んな大層な立場持ってねぇよ。親父もそんな気にするタイプじゃないしな。
なんなら黒峰よ、お前の立場が危うくなったら俺ん家来いよ。
近くに家余ってるし、駆け落ちすんなら手伝うぞ」
農村ってのは若者不足になりがちだからな。
あ、茶壁連れてったらすげー便利そうだな。治水工事とか。
「……そのような未来も、愉快かも知れぬな」
おぉ、黒峰も笑うことがあるのか。
どうせあの子の前ではすんげー笑ってるんだろうな。
いいよなー、俺も彼女、欲しかったなぁ。
「んで、黒峰はあの子と付き合ってるのか?」
「付き合う……交際という意味か?」
「あー、まぁ、そうだな」
「……思えば、弥代子の考えは聞いておらぬな」
「は? なに、片思い? んな訳ねぇよな?」
「知らぬ。ただ、我輩の言葉を受け入れはするが、自分から言うというのは……無かった気がする」
おいおい、今更気付いて凹むとかなんだよ。
てっきり相思相愛かと思ってたわ。
つーか、そんな言葉を受け入れるってことはもう、分かってるんじゃね?
「嫌なら突っぱねるだろ。照れてんだよ、きっとな」
「そのようなものだろうか……」
「そのようなもんだって! 心配してないでさっさと助けてチューでもしとけ!」
「む? 何をすると?」
「は?」
やべぇ、これ俺教えなきゃいけないの?
清水、教えておかなかったの?
ちょっと勘弁してくれよ……。
「……もう、勢いでいけ、な。どうにかなるから」
「ふむ……そうか」
きっと人間としての本能でどうにかなるだろ、な!
男としての本能は控えめにしておけよ!
そのまま案内に従ってひたすら走ってるが……遠いなぁ、黒峰本家。
あ、海見えてきた。夏はいいが冬の海はちょっと遠慮したいよな。
線路と駅を通り過ぎて、小さなログハウスのとこで止まれと。
よく見ると森の入口っぽくて、車一台が通れそうな幅がある。
といっても舗装も何も無い、がったがたな道だ。
「ここでよい。これ以上は車では行けぬし、迷惑はかけられん」
「そか……気をつけろよ?」
「うむ、恩にきる」
車を下りるとすぐさま肉体強化をかけて駆け上っていった。
黒峰、ほんと器用だよな。魔力操作は完璧だし、魔力量もすげえし。
なのに、あの子が関わるとなーんであんな不器用になるんだかな。
それだけ好きってことなのか……?
「あ、やべ」
制服の携帯端末にすんげぇ数の着信が入ってる! それも全部刃!
学園出てからどんくらい……あー、もう深夜か。そりゃそうだよな、遠かったし。
任務達成の報告をこめてかけるか。怒られそうだが。
「あ、刃? 俺俺ー」
「稔っ! お前、無事か!?」
「おう、今送り届けたところだ。そっちは?」
後ろが少し騒がしいから、まだ部屋に戻ってはいないんだな。
今日は先生も級長も補助役も、徹夜覚悟だな!
「先生が怒ってるくらいだ。お前、車の鍵全部持って行っただろ?」
「あー、そういえばそうだな。ついうっかり」
どれに乗るか分からなかったから、手当たり次第に持ち出したんだよな。
今もポケットでじゃらじゃらしてる。
「黒峰さんの外出を助けたのは、先生も思うところがあるようだから、説教だけ覚悟しとけとのことだ。
ただな……それがまずかったんだよ」
「え、それって……なんだ?」
「鍵。今学園で緊急事態が起こったら身動き取れないだろ!
だからお前はすぐに速攻全力で帰ってこい!」
「うえー……ようやく着いてほっとしたのに、すぐかよ」
「あとな……お前、なんでその車選んだ?」
「え? 程よいサイズで手前にあったから?」
そんな、わざわざ選んだりする暇なかっただろ。
普通の乗用車なんだから、手ごろだろ?
「それ、すっ…………げー高級車だから。
親父さんお気に入りの農耕機が何台も買える値段だから」
…………は? え、いや、これ……普通の車、だよな?
そりゃ、音は静かだしシートは革張りだしぴっかぴかだったけどよ。
思えば併走する車、やけに離れていったっけ……。
おい、マジか、やべぇぞ。
「絶対に、安全運転で、ぶつけるな。いいな!」
「プレッシャーかけんなよっ!? 分かったよすぐ帰るよ!
俺が着くまで寝るんじゃねぇぞっ!」
「お前の無事が確認できるまで寝れるわけ無いだろっ!
ふっざけんな! 無鉄砲! 猪! 馬鹿野郎!!」
「うっせー! 馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだよっ!
すぐ出るから切るぞ! じゃあなっ!」
くっそー! 刃のやつ、こんな時にまであんなこと言うか!?
帰ったらすぐにプロレス技かけてやるっ!!
覚えてやがれっ!
結果、深夜と早朝の合間くらいに、ぶつけることなく辿り着くことは出来た。
そこから級長全員説教とか、先生頑張りすぎるだろ。
俺らがここまで手伝ったんだから、絶対二人で帰って来いよな、黒峰!