4-X.級長連中と俺・夏休み
夏休み!
三年生にとっては最後のバカンス!
海か? 山か? テーマパークか!?
「おい稔、手ぇ動かせよ」
「ハイ……」
そんな俺は今、実家の畑に居る。
俺の親父、緑原の当主は魔力持ちによる農業の管理と確立に励んでる。
ただ植物や土に頼るべき箇所も多いから、こうして畑を耕すのは変わらない。
田舎の村だからどこもかしこも畑を持ってるし、あまり他所に出たがらない気質なのか近所に親族がうじゃうじゃいる。
道ですれ違う半数以上は身内だ。あと牛。たまに馬。
「なぁ、そろそろ休憩しようぜ?」
「あと一区画やったらな」
一区画って……おいおい、お前の言う一区画ってどこまでだよ?
まさか十メートル先の用水路までとか言わないよな?
雑草の詰まった藁かごを抱えてげんなりしてると、近くから気配がしてきた。
「お兄ちゃん、稔ちゃん、スイカ」
「おぉ、咲!」
用水路の脇に立つセーラー服に麦藁帽子を被った女の子は、刃の妹の草薙咲だ。
髪をおさげにしてるのに可愛い。むしろその野暮ったさが可愛い。
「なんだよ、言えば取りに行くのに……」
「部活行く途中だから。ついで」
んで、愛想があんまよくないところも可愛い。つまり刃の妹なのにやたら可愛いってことだ!
さすがの刃も妹がわざわざ持ってきてくれたとなれば、休憩せざるを得ない。
ナイスだ、咲!
用水路の上流で手を洗い家の縁側に座ると、タッパー一杯につまったスイカが置かれた。
保冷材でしっかり冷やされたスイカは甘くて瑞々しくてうまいっ!
「咲は魔導学園、入るんだっけ?」
「うん。来年」
「三歳違いだと全然かぶらないからなぁ。すれ違うばっかかぁ」
「留年すればかぶるだろ」
いや、刃……さすがにそれはどうかと思うぞ?
知らん顔で種を飛ばしてるが、そうなったらお目付け役のお前としてもあれだろ?
冗談なのは分かるけどよ。
「オレが面倒見なかったら、留年もありうるだろ」
う……痛いところを突くなよ!
級長の仕事だけじゃなく、日頃の俺の勉強やテスト前の集中講義、進学対策まで全部頼りきりだから何も言えない。
「お兄ちゃんは、稔ちゃんと一緒?」
「ああ、進学する」
「じゃあ、安心だね」
咲まで言う!? 俺ちょっと悲しくなってきたんだが……。
「……お前は変なこと言うなよ、ったく」
「稔ちゃん、お兄ちゃんのこと、よろしくね」
「ん? おー?」
どうみても逆だがな! 咲にとっちゃ、遠くにいる兄ちゃんが心配なんだろうなぁ。
「部活、行ってきます」
「おいスイカ、食ってかねえの?」
「家で食べてきたから、いい。お邪魔になっちゃうし」
お邪魔って、どこの咲を邪魔に思う奴が居るんだよ?
まぁ部活ってなら仕方ないよな。ラケット担いでるから、バドかテニスか。
カンカン照りの中、でっかい木の影を選びながら学校へ歩いていった。
「最近あいつ、勘が…………いや、何でもない」
「なんだよ? 言えよ」
「……思春期って、難しいんだよ」
「あー? 俺、妹は居ないから難しいことわかんねえよ」
深い深いため息をついて黙ったから、俺もスイカの種を飛ばす作業を始めた。
お? 案外飛ばないもんだな?
「お前とずっと居ると、一人での人付き合いの仕方を忘れる……」
「一人になることなんてそうそう無いだろ……お、やった! おい刃、畑に届いたぞ!
あれ、芽ぇ出るかな」
「出たら困るだろ、馬鹿」
「んだとー? 選定はめんどいけどスイカ食い放題だぞ」
「オレん家で散々出来るから我慢しとけ。
お前、そろそろ教習所だろ。さっさと着替えろ、泥だらけだ」
おぉ、さすがに朝からずっと畑に居ればそうなるよな。
俺は誕生日が早いから、夏休みのうちに免許をとっておくことにした。
冬になると混むって聞くし、もしも進学の推薦落ちたら勉強漬けになるからな。
あ、想像したら怖くなってきた。俺、勉強キライ。
さーて、長い長い夏休みで色々出来ること、やっちまうかぁ。




