3-X.級長連中と俺・キャンプ
夏の前にはキャンプ! それが魔導学園の掟だ。
いや、ただ一年生は学園に慣れたらすぐにキャンプ合宿やるんだよな。
あれか、皆仲良くなーぁれってやつか。
テント張るの面倒だからって、そこらに生えてる蔦をいじくって家作ったらめっちゃ怒られたのはいい思い出だな。
あれからクラスの奴ら、俺に遠慮しなくなったし。
……うん? よかったのか? まぁ、いいか。
そんで、夜のキャンプファイヤーの最後に級長からのオコトバをしなきゃなんねーんだよなぁ。
一人でも補助役付きでもいいって言われたから、もちろん刃を連れてきてる。
むしろいっそお前が喋れ、そのほうがちゃんとしてるから。
「文章は作ってやったから暗記しろ」
ほらな、お前のが速いって。
示しがつかないって言われてもなぁ、黒峰みたいにフード被れば分かんないんじゃね?
って言ったらなんかの種を出してばっしばっしぶつけられた。
これさぁ……生やしたら俺、締め上げられるんじゃね? 蔦系の気配じゃね?
刃の目に薄緑色が被りだしたから、大人しく暗記することにした。
なにこの上下関係。超辛い。
渋々一年坊主の前に立って、渋々暗記した文章を言った。
なのにやたら感動されるのは罪悪感あるよな……悪いな、駄目級長で。
なーんて思ってたら、遠くから水の跳ねる音がした。
でかい魚か? いやいやんな大きさって、鮫かよ、ここ山だぞ。
他の級長も川に目をやってるものの、真っ暗すぎて何も見えない。
それなのに、黒峰がすごい勢いで走っていった。
「稔、行くぞ!」
え? なんだよ刃、お前見えたの? 見えてないけど行くの?
俺らが走り出したら他の級長も続いて、よく分かんねーけど水の音がしたっぽいとこに向かう。
ごろっごろした石のせいで走りづらいし、結局何が起こってるかも分かんねーし。
でもなんかしら起こったんだろうから行くべきだよな!
「おい刃っ、もっと速く走れよ! 野猿の本能思い出せ!」
「うるさい! お前こそオレと同じことしてたんだから思い出せよ!」
山の中を駆け回るのと川べりを走るのは違うだろ!
だから俺が刃に言ったことも違ってるなちくしょう!
肉体強化、もっと練習しとくんだった……。
転びそうになりながら進むと、黒峰がやたら魔力を垂れ流してた。
おいおい、なんだその量! そんなん使って何すんだよ!?
ようやく見える位置まで来た時には、川の流れを止めてその中に飛び込んでた。
トレードマークのローブまで脱いで、すげー勢いで水をかき分けてる。
「おいおい……なんだありゃあ」
俺の後ろを走る茶壁も、強引過ぎる方法に苦笑いを浮かべてる。
青川は顔を青くしてるし、赤山は……あぁ、あいつはいいや。
「――――小娘っ!」
水の中から腕を掴んで、それを強引に陸へ引っ張り上げた。
そんなしたら腕抜けるぞ? いやいやそれより、あの子息してんのか!?
「小娘、起きろっ! 水を出せ!」
ばっしばっしビンタしてる!
ちげーよそれやることちげーよ!
おいほんと白空サン早く来てっ!!
一番遠いし女子に無理させんのはよくないが、もしももしもで死因が二つになったらやべーから!
「くそっ……白空を呼べ! 佐々木っ、そやつらを捕らえろ!!」
無の級長は一番近かったからか俺らより先に着いてたらしい。
んで、そやつらって……なんだこいつら?
男子と女子が何人か縮こまってる。
様子から考えると……こいつらがあの子を川に落としたのか?
おいおい、さすがにそりゃだめだろ。人殺しだぞ? ふざけんな。
「おい刃、やるぞ」
黒峰の剣幕にびびってる内に、俺と刃で蹴り倒して押さえつけた。
佐々木もそれで我に返ったように続いて、無事に全員捕獲完了!
野生の猿と喧嘩するよりよっぽど温いな!
他の補助役に重しを頼んで、俺は一応立っておく。
一応周りを見ておこうってのと、居るなら使おうってやつで。
「起きろ、起きぬか!」
ビンタ続行!?
あああああ、白空サンはやーくっ!?
ようやく着いた白空サンは、黒峰を見るなり突き飛ばした。
「何をしているの! どきなさい!!」
もうそっからは……な?
女子同士の生キス! とか思ってる余裕無かったよな。
べっこべっこぼっこぼっこがんっがんに心臓マッサージすんの。
あれ折れるよね? あ、折る勢いでやるんだっけ?
清楚で可憐な女子のイメージが吹っ飛んだわ。
その代わり、ヒーローに見えたね!
そういう不謹慎な考えが分ったのか、刃に思いっきし脚踏んづけられた。
「っぐ……げほっ、うっ、うぇ……っ」
あーあー、だよなぁ、吐くよなぁ。でも生きててよかったなぁ。
あの子の状態が落ち着いたのを確認してから、青川の公開尋問タイムが始まった。
あいつぜってー腹黒だろ! 反論なんてできねーよな、吐いたほうが楽だろ。
その結果はまぁ……聞かなきゃよかったなぁ。
なんつーか、我が儘ってか自己チューってか、馬鹿ってか。
どこまでやったら危ないかが分かってないガキなんだろうな。
殴り合いの喧嘩とかしたことないだろ。
俺は勿論やりまくったしやられまくったぜ!
だからこそ越えちゃいけないラインが分かってる。
そんで、越えたらもう帰って来れないのも分かってる。
呆れながら聞いてると、黒峰が佐々木に処分をするよう言い始めた。
いや、んな無茶な……。俺だって嫌だよそんな役。
なのに佐々木は吹っ切れたような顔で頷くし、黒峰も満足気だし。
あー、なんか男気感じるわ。かっけぇ。
「……では、小娘に関しては我輩が受け持とう。
いくら息を吹き返したとはいえ、先程まで心の臓が止まっていたのだ。
一晩監視下に置かせてもらう」
お? え? おいちょっと?
周りが何か言う暇も無くあの子をおぶって行っちまった。
おいおいおい、ずぶ濡れコンビでいいの?
てかそこはお姫さま抱っこが定石じゃねーの?
いや、それは駄目か。黒峰非力だし。
コテージに向かって歩いてくのを見てたが、通る道の一年生がすげー騒ぎ始めた。
そりゃ、何が起きたんだって思うだろうが、そうじゃないのも結構居るな……。
「それぞれの組宥めに行くぞ。済んだら速攻黒の組に集合な、荒れるぞー」
茶壁がさっさと戻るのに俺らも続くことになった。
緑の一年は大して気にしてないみたいで、ちょっとアクシデントって言ったらそれで終わった。
素直というか単純というか、先輩として心配だぞ?
そんですぐに黒の一年の所に行ったらまぁ、大変なことになってる。
口々に、級長様! 黒峰様! 若様! だとよ。
黒ってば超狂信的。超怖い。次期当主だもんなぁ、別格か。
なーんて思ってる暇なんてなく、コテージに走りそうになる生徒をブロックするのに必死になった。
幸いにも非力ばっかだったから俺と刃で十分事足りるが、根本の解決にはなってねーよなぁ……。
「一年黒の生徒たちよー」
間延びした茶壁の声がやけに響いて、一瞬意識がそっちにむかった。
一年も同じだったようで、とりあえず動くのはやめてくれた。
このまま戻れよ、もう。
「あー、諸君らの敬愛する黒の級長は、川で溺れた一年生を慈悲深くも救って下さった。
そして今も救助を続行しておられる。
黒の級長の手を煩わせることなく、その勇気ある行動を見守るのが、諸君に出来る唯一にして最大の行動ではないか?」
役者じみた台詞をつらつらと言うと、呆気に取られた一年はすぐに歓声を上げた。
黒峰わっしょい! な騒ぎにはなってるが、とりあえずその場に留まってくれてるからいいのか。
「茶壁、おつかれ。すげーな、演説」
「おぉ、緑原か。
黒の連中はとりあえず黒峰を崇めておけば失敗は無いからなー。
明日以降の事は知らね」
「俺はあれを説得するとかできねえわ。さすがだな」
「そんなことないっしょ。コツだけ知ってりゃどーにかなっから」
そのコツが難しいんだけどな。
飄々とやってのけるから目立っては無いが、実は茶壁はすんげぇ有能な人間だったりする。
次期当主である兄ちゃんよりも。
「じゃー自分、組に帰るわ。さっさと済ませて寮に帰ろーぜ」
「黒峰はどうすんだ?」
「補助役の子の看病するんしょ? あの様子じゃ、引っ張っても無駄だろ」
おいおい、思春期の男女が一晩過ごしたら……アレやコレがソウなっちゃうんじゃねえか?
さすがに早いだろ! 駄目だろ!
「あー、緑原? 思春期真っ只中な妄想中悪いけど、黒峰はああ見えて純朴少年だから何もないぞ?」
「わっかんねーだろ!? あー、うあー、黒峰ぇ……!」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。すみません、茶壁さん」
いつの間にか来てた刃に頭をひっぱたかれた。ひでぇ。
それぞれの組で話を終わらせて帰るってなったが、結局黒峰は部屋から出てこなかった。
白空サンがやけにすっきりした顔をしてたのは……なんだったんだろうな。