episode 02 「弟子と姫と七英雄、そして女神様」
相変わらずの人たちw
私はローザ。
エイドウ剣王国にある魔法使い養成学校「法王院」の1年生。
もともとは北方大陸のサイディリア魔法国出身です。
え、どうして私がここにいるのかって?
それは、その、色々あってとしか言えないんですよね……。
ごめんなさい。
サイディリア魔法国についてどのくらいご存じですか?
そうですよね。
あの国は魔法至上主義で、これまで他国ともあまり交流していませんでしたからご存じないのも無理はないと思います。
とにかく、色々あってこの東方大陸に移住してきたと思って下さいね。
今ではあの国も、カグヤ様……じゃなかった、静夜様のお陰を持ちましてこの世界の四大王国の仲間入りを果たしています。
現国王であらせられますエレナ女王の下、異世界である【日本皇国】と正常な異世界交流を行うために一致団結して頑張らなくちゃいけませんからね。
「私の当初の目的を果たす意味が無くなっているような気がします……」
思わず呟きが漏れてしまいました。
「ローザさん。ローザさん。一体どなたとお話ししていますの?」
「は、はいっ!?」
突然呼びかけられたので驚きのあまり声が裏返ってしまいました。
「もう。食事中にそんなにぼーっとして。大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫です、エヴァンジェリン様!」
「もうっ。そんな他人行儀名呼び方は止めて下さいって言ってるのに」
「ですが、姫様は姫様です」
「ここではただの学生ですよ。それに、お姉様の弟子なのですから、私にとっては義理の姉も同然じゃないですか!」
「どこかがそこはかとなくおかしいです!?」
エヴァンジェリン様は、このエイドウ剣王国の第一王女様です。正真正銘のお姫様なのですが、とても気さくな方です。
ついでに何かをこじらせているみたいです……。
「静夜お姉様のお弟子さんなんて羨ましい……。私もぜひ弟子にしてもらいたいですわ」
何やら胸の前で手を組んでうっとりしてらっしゃいます。
私の師匠、静夜様はこの世界の女神様です。
いえ、比喩じゃなくて本当に。
リアル女神様です。
この世界そのものを賭けて【至高神】ハイエス様と勝負して、神である存在を倒して自らが神に成った御方。
それが静夜様なのです。
そんな方が、形だけとは言え私の師匠だなんて。
「えへへ……」
つい顔がにやけてしまいます。
「じー」
「ひゃあっ!」
姫様がジト目で私を見ていました。
そんな変な顔をしてしまっていたのでしょうか。
「羨ましい」
「え?」
「ローザは羨ましいのです。どちらかと言えば妬ましいのです!」
姫様が拳を振り上げます。姫様なのに。
「そ、そう言われましても……」
「よって、静夜様が来たら私も弟子にしてくれるように口添えして下さいね?」
「え!?」
「拒否権はありませんよ~」
にっこりと微笑む姫様。
謀られた!!
「ぜ、善処します」
ちょうどその時でした。
表が急に騒がしくなりました。
「これはもしかして……」
「来ましたね! お姉様!!」
姫様が、止める間もなくダッシュで食堂を飛び出していきます。
「姫様……ぱんつ見えてますよ……」
「全くだねえ。どうしてエヴァは、ああも落ち着きが無いのかなあ」
「本当ですよねえ……って静夜様!?」
相づちの声がした方を見てみれば、何とそこには女神様である静夜様の姿が!
心臓が止まるところです。
「こら。私に会う時は『お師匠様』でしょう」
「そ、そうでした。お久しぶりです、お師匠様」
何やら満足げな様子の静夜様です。
「うむうむ。お師匠様呼びは格別ねえ」
「全く。静夜は変わらんのう」
「ご主人様ですからね」
いつの間にか美幼女が二人増加していました。
一人は学院の制服、もう一人はメイド服です。
「アディさん、レアさん」
「久しぶりじゃな。息災か、娘よ」
「修行に励んでいますか。ご主人様の名前を汚さぬよう精進なさい」
「は、はいっ!!」
この二人はなんと人ではありません。
アディさんは【宵闇の災厄】と呼ばれた伝説の黒竜。
レアさんは【異界の月】の向こう、魔界からやってきた上級魔族。
どちらも人の手に負えるような存在ではありませんが、今はお師匠様の【使い魔】をされています。
もちろん、お師匠様にぞっこんです。
「二人とも、ローザを脅さないでよ。可愛い弟子なんだから」
「脅してなどおらんぞ。レアじゃあるまいし」
「脅してなどおりませんよ。ちょっと心構えについて語っただけです」
苦笑するお師匠様。
女神様になられてからますますお美しくなられましたね!
「ところで、お師匠様。どうしてこちらへ来ることに?」
そうなのです。
先日、「明後日そっちに行くから」と連絡があって、今日です。
何か大事件でもあったのでしょうか。
「いや、ちょっとガラハド王と皇国との会議の打ち合わせを兼ねてね。この間、下級とは言え【異界の月】が開いて鎮圧されたからさ。様子も見ておこうかと」
「ああ、そうでしたね。【七英雄】の皆様が大活躍でしたから」
「そうだね。あ、ワースはちょっとシメといたから」
「は、はあ……」
前至高神であるハイエス様は、現在は邪神王ワースとしてご活動の様子。
「余計悪ノリするようになったから、ちょっとお仕置きしとかないとかしらね」
お師匠様がブラックです!
「もちろん、可愛い弟子がどれくらい強くなかったも確認する必要があるし。頑張ってるんでしょう、ローザ?」
「もちろんです! 頑張ってることだけは保証します!」
エヘンと胸を張る私。
頑張っているのは間違いないはずです。
「そう。じゃあ、さっさと修練場に行きましょう」
「え?」
「善は急げって言うでしょ」
そう言ってお師匠様は私の腕をつかむと、一瞬で転移魔法で修練場へ。
がらんとしたそこには私とお師匠様、そしてアディ様とレア様。
「ほれ、では修行の成果を見せてみよ。まずは妾にぶつけてみるが良い」
そう言いながらアディ様が修練場の中央へ。
一瞬迷いましたが、アディ様が私如きの魔法で傷つくはずがありません。
「胸をお借りします!」
「貸すほど大きくもありませんけどね」
「うるさい、レア!」
どっちもどっちの見た目なので言い争う意味は無い気がします。
「ローザ、今失礼なことを考えましたね?」
「ひいっ!?」
レア様がじろりとこちらを睨むので、思わず後退ってしまいました。
「脅かさないの」
お師匠様がレア様の頭をぺしっと叩きます。
さすがお師匠様です。
「で、では。気を取り直して!」
私は、今自分が使える最強の魔法である風系統魔法の第6階梯の攻撃魔法を唱えて、アディ様に全力でぶつけます。
轟っと衝撃波が周囲を振動させますが、もちろんアディ様はびくともしません。
流石は伝説の黒竜です。
「おお、上達したではないか。まだここに通い始めてから一年もたたぬのにのう」
「そうね。六階梯なら十分でしょう。他の系統は?」
「まだまだです。毎日頑張ってはいるのですが」
「そりゃあそうよ。そう簡単にレベルは上がらないわ。地道に修練なさい。いずれ必ず四属性とも第七階梯まで登るわ」
そう言って微笑むお師匠様。
お美しい……。
「そうしたらサイディリアはローザのものよ」
「は!?」
「エレナが心待ちにしてるから、早くレベル上げて戻っていらっしゃい。王様なんて早く辞めたいっていつも愚痴ってるから鬱陶しいったら……」
「何故に私に!?」
「見返してやるんでしょう。王様になって好きなように改革すればいいわ。あんまり待たせるとエレナに呪われるわよ?」
「いやあああああっ!?」
あのサイディリアの恐怖の代名詞、【過剰呪術】に呪われるとか!
命の危険です。
さらに修行に励まなくては……。
あれ、でも、そうすると、私はサイディリアの王様に?
それもあり得ない!?
「ふふ。心の葛藤が透けて見えるわー」
「なに、エレナで務まるんじゃ。大したことないわい」
「全くですね。あの変態め」
「レアが言うかな……」
お師匠様が若干遠い目をしてらっしゃいます。
苦労されているのでしょうね……。
「ああっ、こんなところにいましたよ!!」
「本当か!」
「やっと会えました!」
「……神々しい」
その時、修練場に九人の男女が乱入してきました。
剣王院長レオニード様と法王院長フランチェスコ様。
そして、七英雄と呼ばれている東方大陸の勇者たち。
騎士団長様のご子息、ジークフリード様。
辺境伯家のサイプレス様とメープル様のご兄妹。
騎士爵家のご長男、シモン様。
近衛魔法師団からすでにスカウトされているカスミ様。
フーシェ大森林の長の孫娘、エルフの姫君、アルテナ様。
そして剣王国第一王女のエヴァンジェリン様。
「あら、久しぶり。この間の【異界の月】の時は大活躍だったそうね?」
彼らを見て、お師匠様が艶やかに微笑まれます。
エヴァ様が鼻血を吹いていますが大丈夫でしょうか。
色んな意味で。
「いえ。静夜様の偉業に比べればまだまだです」
「そうです。さすがに【血色の深紅】を一人で閉門とか夢物語ですよ」
「謙遜しないで、ジークもカスミも。私を基準にしちゃダメよ」
「その通りじゃぞ。主殿を手本にしてはいかんぞ」
頷きながら言うアディ様。
確かに、お師匠様を比較対象にするのは愚の骨頂です。
「それにしても【七英雄】なんて格好いいわよね!」
「その話は……」
無邪気に笑うお師匠様にサイプレス様が微妙な顔をします。
何故でしょう。
「うふふ。二つ名とかもうね。嬉しいでしょう?」
「はうあ……」
あ、お師匠様の笑い方がいやらしい感じになりました。
「忘れかけた厨二魂が疼くのよ~。危険な病なのよ~」
「それくらいにしてやってくれい、静夜嬢」
「そうだぞ。前途ある若者をいじめるでないわい」
レオニード様とフランチェスコ様が苦笑しながらとりなしました。
厨二病とは一体・・・。
よく分かりませんが、不思議な響きです。
「仕方ないわねえ。そうだ、せっかくだから【七英雄】たちにもっと相応しい武器を作ってあげようと思っていたのよ。英雄に相応しいものをね!」
とてもいいことを思いついたというようにお師匠様が笑います。
「なんですって!?」
あ、エヴァ様が再起動しました。
目が爛々と光っていますね。ちょっと怖いです。
「ぜひ、ぜひお願いします、お姉様!」
「ちょ、ちょっと、エヴァ。その顔怖いわよ。姫としてどうなの!?」
「私の顔など置いておきましょう! さぁ、早速!」
「あ、ちょっと、エヴァー」
お師匠様が引きずられていきました。
珍しく困った顔ですね。
「工房じゃな」
「そうだろうな」
急いで追いかけていった七英雄の皆さんを見ながら、二人の院長が呟きます。
「今度こそ頼もう」
「そうじゃな。土下座の準備はできておる!」
ど、土下座の準備とは一体……。
足早に修練場を後にする院長様達。
「ど、どうしましょう……」
「何、くっついていけばよかろう」
「そうですね。仮にも貴女はご主人様の弟子なのですから」
途方に暮れかけた私にレア様とアディ様がそう言って下さいました。
「……はいっ!」
そうです。
私は女神様の一番弟子なのですから。
余談ですが、その日静夜様によって作られた装備は、正しく【神の武器】でありました。
それぞれの英雄の家に子々孫々受け継がれるようになったその武装には「sizuya」の銘が刻まれていたそうです。
あ、もちろん私の家にもです。
サイディリア王家に代々受け継がれるその杖は、【女神の麗杖】と呼ばれています。
お読みいただきありがとうございます。