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Part 9

「私はキリア」そう自己紹介した女は二人の男を指さした。

「熊みたいな奴はリガート。ヒョロっこい奴がペンネ」

呼ばれた彼ら、リガートとペンネは、ニッと歯を見せて微笑んだ。

「俺はアラン。妹は……」

「聞いてるよ、リリィ嬢からね」

リリィとキリアは顔を見合わせた。

「随分と(ねんご)ろな関係でらっしゃる」

「悪いか?」肩を揺らすペンネをキリアは鼻で笑った。

「むさ苦しい連中と居ると、話相手が恋しくなるんだ」

 アランは彼らの外見に驚いた。

山賊という言葉から髭にまみれた醜い中年を想像していたが、

目の前の彼らは自分とそう大差ない年齢の男女であった。

「アンタら山賊だよな?」

「まぁ、()に住む連中からしてみたら、ね」

「俺たちは(ここ)で生まれ育った」

「だから此処に住んでる。それだけのことさ」

「どうして人を襲うんだ?行商人たちが迷惑だと言ってた」

「襲う?」リガートは鼻で笑って「向こうが射つからさ」

「ま、大体は外れるけどな」

「数年前、デッカいキャラバンに遭遇してね…」

キリアは懐かしむように言って、天井を仰ぎ見た。

「奇人変人を見世物にするサーカス団だった」

「最悪の連中さ」ペンネも唾棄するように呟く。

「山越えの途中に、凍え死んだ人たちを捨てようとした」

「ハナから使い捨てとしか考えてねェんだ」

「俺たちは許せなくて、そこも頭目(リーダー)らしき奴らを殺った」

「らしき?」アランは聞き返したが何故か無視された。

「その場の人間からは感謝こそされたけど、麓に伝わったのは人殺しの噂だけ」

「寒さで死んだ奴らも、俺たちに殺されたことになってた」

「いつしか懸賞金がかけられて、すっかりお尋ね者よ」

「ま、捕まらんがな」

「逆に身ぐるみを剥いでやった」

ペンネが得意顔で言うのでアランは呆れ返った。

「そんなことしてるから山賊だと言われるんだ」

「死人に服は用無しだろう?」

「どうしてそう、陽気でいられる?」

「山賊が根暗である必要があって?」

キリアは肩をすくめるのをリリィはクスクスと笑った。


 山道を進む馬車は突然、御者が手綱を引っ張って急停止した。

飛び降りた男は道を外れて雪をかき分け、木々を抜けて広場に出た。

 雪の中に、横一列で仰向けになった男達の姿があった。

半裸の状態の彼らは鼻からの血を凍らせ全身を真っ青にしていた。

「どうした!」馬車からもう一人が声を掛ける。「何があった!」

「早く、早く連絡を!」男は死体を見下ろしながら叫んだ。

「トードリッジに、治安部隊に連絡を!」

 

 アランは顔を手のひらで摩った。

叩かれた箇所を中心に、ヒリヒリと内側まで熱がこもっている。

顎の具合を確認がてら欠伸(あくび)をするように大口を開けると、

洞窟内の冷気が口内に入り込んで、幾分か楽になる。

「痛むか?」横にいるリガートがアランに言った。

「千切れるかと思った」アランはため息を吐いた。「首筋まで痺れてる」

「そりゃそうだ」熊みたいな男は歯の隙間からグフフと笑った。

「素手で猪を絞める女だからな」

「ハッ…」アランは、なんとかして口の端を吊り上げた。

俺をからかっているのか知らないが、山賊たちの思考は一向に読めない。

リリィはすっかり打ち解けてしまっているが、

和気藹々とした雰囲気がアランにはかえって不気味だった。

 鉄枠のついた木製の扉を開けると食堂のような空間があった。

正面奥に巨大な暖炉があり炎がパチパチと音を立てて燃えていた。

「寒くないか?」

「大丈夫、ありがとう」

暖かい空気に全身が包まれ、リリィは自然と安堵の吐息を漏らした。

「二人とも気分は?」

「というと?」

「どこか痛いとか、吐き気がするとか…」

リガートは身振り手振りを交えて、

「つまり、ここは空気が薄いからよ」

「そんなに高い場所に居るのか、俺たちは?」

「まぁ、それなりに」リガートは頷いた。

「ゆっくり体を慣らせば、死にはしないがな」

 中央には大きな縦長の木のテーブルが置かれており、

その上に六人分のパンと湯気立ったスープがあった。

「オヤジ」ペンネが何度か呼ぶと、

暖簾(のれん)で区切られた奥の方から、腰の曲がった老人が顔を出した。

老人は雑巾のように使い古された灰色の前掛けをして、料理中らしく、

彼が右手に持つ鍋には、拳大の肉たちが真っ赤な調味料に彩られ、

ジュウジュウと音を出しながら油の中を泳いでいる。

「さっ、座れ座れ」リガートは二人を席に座らせた。

老人は卓の中央にある大皿へと肉を移した。

「今日はデカいのが捕れたからな」

「コレ、俺の。俺が射ったヤツね」ペンネが自身と料理とを交互に指差した。

いつしかアランとリリィの口内は唾液にまみれて、反射的に喉を鳴らした。

久しく栄養を摂っていないことを頭が体に思い起こさせているのだ。

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