表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/47

Part 17

 あっ、と声を上げて、リリィが空を指差した。

鳥たちが一羽も漏れることなく止まり木に整列した。

「すごい、ちゃんと戻ってきた」

「そう訓練してるのでな」

老人がピュウと口笛を吹くと、鳥たちは自ら四角い鳥籠に入り、

留守の合間に彼の用意しておいた餌を突っつき始める。

「触っても?」

「そっと、な」

 リリィはエサに夢中な一羽を両手で持ち抱えた。

羽毛に沈み込んだ指先に熱いくらいの体温を感じる。

 彼女は脳裏にて、雪山を空から見下ろしていた。

「ちょっと、高過ぎるかも」

彼女はその隣の鳥を手に取り、記憶を覗いては「これも違う」と、

またその隣の鳥へ、触れては手離すを繰り返した。

「いけそうか?」

「ちょっと黙ってて」

 リリィに咎められて、アランは、すまんと小さく謝った。


 空に昇る複数の煙柱を見逃す者はいなかった。

「見ろ、合図の煙だ!」

煙を目にした男たちは、手筈通りにピィと笛を吹いた。

すると笛の音を聞いた周囲の者が、すぐさま駆けつけて来る。

今まで散り散りにいた彼らがあっという間に集結した。

「西だ、西へ急げ!」

 男達は煙の昇る方角へと急いだ。

疲労しているのか、足取りは雪にとられて覚束ない者もいる。

しかし、血走らせた眼には執念と、恍惚の表情がうかがえる。

それ故か、すぐ頭上にキリアにも気付くこともなかった。

「まったく。コレじゃあ、どっちが山賊かわかりゃしないね」


 辿り着いた場所には、煙を吐き尽くした発煙筒が数本転がっていた。

立ち昇っていた煙は風に流され、周囲は濃霧のように場を覆っている。

「焚いたのは誰だ!何処にいる!」

「どこの班だ。名乗り出ろ!」

数十人の怒声が、煙ひしめく森にこだまするも、名乗り出る者はいない。

「どうした!」

年長者らしき男が、混乱する面々を前に声を張り上げた。

みな動揺を隠し切れない様子で、近くの者と顔を見合わせる。

額を冷や汗が流れる。防寒着の下は汗に濡れて身体が小刻みに震える。

「発煙筒はたしかに焚かれていたぞ」

「ならどうして誰もいないんだ」

「もう殺られちまったんだ!」

「まだ近くに居るかも知れん、探せ!」

「どちらをだ、山賊か、仲間か?」

「両方に決まってる!」


 そのとき、その場にいた全員が、雪山の異変を察知していた。

風の音に混ざって雷鳴が轟く。しかし空からではない。

「雪崩だ!」

 彼らは急いで左右に散った。しかし、すでに手遅れだった。

雪崩は加速度的に威力を増し、一瞬にして放射状に広がった。

男たちは阿鼻叫喚ごと純白の瀑布に飲み込まれた。後には何も残らなかった。

舞い上げられた雪煙は天高く昇り、空を覆った。

 町の男たちは山のことを、雪崩も勿論、よく知っていた。

たとえ山賊追跡の執念に駆られていたとしても、山を軽視していた訳ではない。

にも関わらず回避出来なかったのは、それが自然発生したものではなかったからだ。

 巨大な雪崩を、山賊たちが人為的に引き起こしたと誰が信じようか。

 二人の男がいま、イタチのように新雪から顔を出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ