Part 10
「ところでお前、何処で習ったんだい?」
ペンネは蒸したての皮を剥いた小芋を指の先で摘みながら、
げっ歯類のように少しずつ齧りついて湯気を吹き出している。
「なんだって?」
「ほら、身のこなし方っていうか、つまりは戦い方さ」
「ああ」アランは照れ臭そうに頷いた。
「父親から少しと、あとは、ほとんどが我流なんだ」
「へぇ」
リガートは食べ尽くした骨を、食卓の中央の大皿へと放り投げた。
そこにはすでに、六人が食べ終わった残骸が山となっていた。
「お父さんは、軍卒の人だったとか」
「そうだったとは聞いてるよ」
「聞いてる?」キリアは濃い細眉を吊り上げた。
「その頃には、もういなかったの」
リリィが言うと彼女は肩をすくめて金縁のティーカップを手に取った。
「まぁ、よくある話よね」
アランは老人から差し出されたカップを両手に包んだ。
乾燥させた葉や茎から抽出したという浅黒く芳しい飲み物が入っている。
「山道でもない場所を登ってくるなんて」
「許可証が貰えなかったので」
アランは恥ずかし気に俯いて、それを口に含んだ。
湯気に混じって甘い香りが漂ってくるが、そのものの味は恐ろしく苦い。
苦いほど良い物なのだと山賊達は豪語するが、アランには理解出来ない。
「許可証が買えなかった」アランは少し恥ずかしそうに言った。
「許可証?」リガートは首を捻った。「通行手形だろ?」
「少し前に変わったのよ。知らないの?」
「町に降りないで良かったな、兄貴」ペンネが歯を見せて笑った。
「町には観光に?」
「人を探してるんだ」
アランは彼らになら話しても良いと思った。
食べ物を分け与えてもらった程度で心を許すほどお人好しではないものの、
同じ社会の除け者としてシンパシーめいたモノを感じていたのも事実であった。
彼らなら無条件に受け入れてくれると直感していた。
「揉め事かね?」老人は穏やかな口調で言った。
「まぁ、そんなところ」アランは鼻頭を掻いた。「よく分かるな」
「そう顔に書いてあるからね」
食事の後はリガートとペンネが後片付けを、
キリアとリリィは新しい2人分のベッドを作ると部屋を出て行った。
アランは迷惑がかかるので出て行こうとしたのだが、
山賊達に鼻で笑われあっさりと否定された。
彼らによれば夜のユタニ山は血も凍りつくほどの寒さで、
外に出れば数分で身動きがとれなくなり確実に死に至るそうだ。
アラン達はやむなく山賊達の隠れ家に泊まることにした。