ep.3 《やってきました。仮想世界。》
おはこんばんにちは。
リアルが忙しかったせいでなかなか手が付けられず、遅れてしまいました。
久しぶりの投稿です。
これからはできるだけ安定した投稿を目指したいと思います。
べ、べべべ別に、ささささサボっていたわけじゃ、なななないんですっ!
白くなった目の前が段々とはっきりしてくる。ちょうど白い霧が晴れていく感じだ。
そして、視界がはっきりした時、オレはそこにいた。
そして、それと同時に耳をつんざくような騒ぎが聞こえてくる。
「サービス開始キターー!!」
「誰か森のフィールドいきましょう!?」
「どなたか盾職の方いませんか!?」
「PTよろしくお願いします!!!」
……うん、煩い。
なんだこれは。全員がこうなのか?
そうだったらやばいな。
このテンションにはとてもついていけない。
サービスが開始して浮かれる気持ちは分からなくもないが、人とは集まると、ここまで熱狂できる生物だったのか。
「……とりあえず逃げよう」
そう言いつつ歩き出す。
途中、何人にも声をかけられたが、無視した。
一緒に行けばいいじゃないかって? 約半年間引きこもって、特別な数名以外の人間と関わりを持って来なかったオレが、熱狂している人間のテンションについて行けるとでも?
……答えはもちろん、ノーだ。
……移動中に、この【TA】の世界について少し説明しておこう。
この世界には【エリア】と呼ばれる、現実世界で言う『国』のようなものがあり、プレイヤーはそれを解放しながら旅をしていく。
因みに、今のオレがいるエリアは、【ビギン】というらしい。いわゆる始まりの町のポジションだ。
エリア同士の間には【フィールド】と呼ばれる区間が存在し、そこには敵である総称が出現する。
プレイヤーはエネミーを倒すことで経験を積み、スキルのレベルを上げながら次のエリアを目指すのだ。
そして出現するエネミーは、フィールドによって違う。例えば、草原フィールドだったらゴブリン、海フィールドだったら魚、という感じだ。
また、各フィールドには【フィールド・ボス】という特殊なエネミーが存在し、そのエネミーを倒すことで次のフィールドへ行くことができる。
フィールドボスは経験値やドロップアイテムが豊富なため、大抵のMMOゲームではこれらが狩場となり、いわゆる『レア堀り』や『パワーレベリング』などの行為の対象になるのだが、このゲーム、【TA】の場合はそれができない。
いくつかの理由はあるが、その中でも一番プレイヤーを悩ませるのが、『エネミーのレベルがプレイヤーの強さに比例する』というものだろう。
このシステムによって、パーティー内のレベル差が激しいほどにエネミーの討伐は難しくなるうえ、その仕様が、『パーティー内の一番高いレベル』を参照するために、レベルが高すぎても低すぎても安定したパーティーは組めなくなっている。
簡単に言えば、パーティー内に一人だけ強すぎる人がいると、その人の強さに比例してエネミーが強くなり、他のメンバーの負担が増えてしまうのだ。
なので、安定したパーティーを組むには、『レベルが比較的近くて』『役割を分担』できるメンツがそろわないといけない。
そして、もちろんパーティーを組んでいるときにはエネミーの強さも上昇するので、その分討伐の難易度が上がっていく仕様だ。
……制作者は、プレイヤーを苦しめたいとしか思えない。
また、このTAにおける面白いシステムが『フィールドボスを倒したプレイヤーのみが次のエリアへ進むことができる』というもの。
つまり、誰かがフィールドボスを倒して次のエリアを解放したとしても、自分がそのボスを倒していないとそのエリアには行けないというもの。
つまり、どんなプレイヤーも楽しむためには、ある程度はスキルレベリングをしなければならない、ということだ。
そして、エネミーには一定確率でランダムに出現する《レアエネミー》というものが存在し、そのエネミーはボス以上の実績ボーナスとレア度を有したドロップアイテムを落とすという。ただ、ベータテストでの一ヶ月間で出現が確認されたレアエネミーの数は一体。しかも恐ろしく強かったため、発見したパーティが全滅し、レアエネミーは姿を消したということらしい。
……この世界の説明はこんなもんか?
それにしても、仮想世界が、ここまでのリアリティを出せるとは思わなかった。
ネット上でも騒がれていた通り、いや、想像以上の完成度だ。
左右に展開されている町は露店や住宅があふれ、頭上に黄緑色の逆四角錐のアイコンがあるプレイヤーと、白の逆四角錐のアイコンのNPCがその通りを歩いている。
道路の石畳などの装飾や建物の煉瓦の質感など、見ているだけならなんら現実と変わらない。
少し道をそれて裏路地に入り、住宅の壁に手をかける。
すると、そこにあるのは冷たい石の感触ではなく、石の壁の数ミリ前でシステムによる半透明の水色の障壁によってさえぎられた。おそらく、触れることによって破壊されることを阻止しているのだろう。
さて、そこまでしたところで元々の目的を思い出す。
ログアウトして、スキルの振り直しだ。そうだった。
「……どうやればいいんだ?」
そういえば、ログアウトのやり方を聞いてない。
マニュアルを見るの忘れてたな。……困ったら呟こう。
「……ログアウト、ゲーム終了、離脱、アクセス終了、リアルに戻る、送還、メインメニュー……」
だめだ。なにも起きない。
ドラ○エよろしく『MPが足りない!!』なんてことはさすがに無いだろう。
ということは、何かしらのコマンドがあるはず。
どうすればいいんだ?
「あ、こんな時のためのヘルプがあるじゃないか! ……ん? ヘルプってどうやって開くんだ?」
……詰んだ? いや、待てよく考えろ。まだ打開策はあるはずだ!
そうだ! あいつらがいるじゃないか! この世界に俺を誘った性悪の友人・ケイと、我が妹・穂花が!
「あいつらの名前、なんだっけ?」
……詰んだ。どうしよう。
あいつらの本名は知っているが、キャラクターネームは聞いていなかった。
まさかゲーム内で本名を叫ぶわけにもいかないし、これでは探しようがない。
……どうする? どうする?
最悪の場合は他の人に聞くか?
いや、そんなのはありえない。
その前にNPCがいるじゃないか。
話せるか不安だが、他のプレイヤーよりはマシだろう。
おそらく死に戻りする神殿にいるはずだ。
「よし、行ってみよう……うわ!!」
振り返って走り出そうとしたら人にぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい。ちょっと急いでて……ん?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。こちらこそすみませんでした……え?」
謝ったはいいが、あれ? なんだろう。
心の底からこいつを殴らなきゃいけない気がする。
何故だ? そういえばこいつの顔、よく見たら何処かで見たような……あ、そうか。
この世界のアバターは、リアルを基にしている、つまり……。
「……いや、本当にすみませんでしたね。『ケイ』」
「あ、いや、だから気にしないでください……って、何故俺の名前を?」
ビンゴだ。
ならやることはただ一つ。
「それはね? オレがお前を知っているからだ!」
「ゲフゥ!?」
体重を乗せた拳を目の前のヤツの腹に叩き込む。
そう、オレの唯一の友人である『ケイ』は、腹を抱えてうずくまる。
ケイの外見は、リアルのあいつをそのままに髪の色を赤くして少し逆立てた感じの髪型にしている。
それだけでも相当印象が変わるのだが、逆に言えばそこしか変えてないのに、じっくりと時間をかけてアバターのメイキングをしたかのようなイケメンのこいつである。
本当にぶっ飛ばしてやりたい。
……というかパンチ力は落ちてないんだな。
「いきなりなにすんだ!」
「あのさぁ……一緒にやろう、とか言っておいて集合場所決めないとか、名前教えないとか。どうよ?」
何処かで見た事ある光景だな、と既視感を感じながら逆エビ固めをかける。
「イタイイタイイタイ!!Nooooooo!!ギブギブギブ!!!」
ケイは石詰めの通路をバンバン叩いてギブアップ宣言をする。
だが、そんなことは無意味だ。
「ここにはレフェリーもいないしロープもないから抜け出すことは出来ない」
「なあぁぁぁ!! って、この逆エビ固めは……お前か?」
「ああそうだよ。この性悪変態。」
ようやく気づいたようなので、離してやる。
するとやはりなにもなかったかのように立ち上がる。不死身か?
「ふぅ。少しは手加減してくれよ……。ってか、そういえば一回見せてもらってたな、そのキャラデータ。でも実際に道で会ったらわかんねぇよ」
「まあ、普段が『アレ』だしな。で?ログイン前にキャラネームを教えなかったのはどういう要件だ?」
『アレ』というのは、もちろん現実の外見のことである。
「それは完全に忘れてたわ、すまん。しかも集合場所も決めてなかったか」
「おかげでこっちは人生の一大選択をするかもしれなかったんだぞ?」
「……その『人生の一大選択』ってのは『人に話しかける』と捉えていいか?」
「まあ、許そう」
「お前は……はぁ」
ケイは後ろ頭をかきながら、大きくため息をつく。
ま、会えたから結果的には良かったが。会えなかったら絶望的だったな。
「……で?お前の名前は?」
ケイが俺に質問してくる。
「……笑うなよ?」
「他人の名前を笑う趣味はない」
本当かどうか疑わしいが、まあいいだろう。
「……『ルナ』だ」
「……ブフッ」
「ブッ殺す」
ルナは激怒した。
ケイの吹き出した声を聞き逃さなかった。
デカイ身体を利用してケイの身体を掴もうとする……が、あと少しのところで避けられてしまった。
おしい。
「笑ったのは冗談だよ。だけど、色々考えてあっただろ?なんでわざわざリアルのあだ名にしたんだ?」
「しょうがねーだろ、考えた名前が全部使われてたんだ。……そういうお前はどうなんだよ?」
やり返しと言わんばかりにケイに聞き返す。
これで変な名前だったら大笑いしてやる。
「ん?俺の名前は『K』だよ? アルファベット一文字でかっこいいだろ?」
「お前もリアルの名前もじっただけじゃねーか」
「しょうがねーだろ。元々これで登録してたんだから。……それにしても、その図体で名前がリアルと同じだと……ギャップすげえな」
「ほっとけ!」
どうでもいいやりとりが続くが、そろそろ本題に入ろう。
「で、お前に聞きたいことがあるんだが……ログアウトって」
「おーい、お兄ちゃんだよね?」
「「ん?」」
こっちに向けて発せられた声に思わず振り向く。
するとそこには見た目小学校の高学年くらいだろうか、女の子がいた。
体の発達は乏しいが顔はとても可愛らしく、将来有望と言って過言ではないだろう。
髪と眼は青く、髪を後ろでツインテールにしている。いわゆるアニメに出てきそうな女の子だ。
……まあ、このアバターは事前に見せられていたから問題ないのだが。
「ああ、お前もインしてたのか。……『穂花』」
「あはは、お兄ちゃんのアバター見つけるの大変だったんだよ? しかもこんな路地裏にいるとは……」
そう。この少女アバターの中身は、リアルの妹『穂花』だ。
オレのアバターを見た後、「ずるいずるい」とうるさかったので、『自由変更』をさせてやったのだ。すると、なぜかこのようなアバターを作り上げた。
理由を聞くと、『背が高いのが嫌なこと、お兄ちゃん知ってるよね?』と黒い笑顔で言われたので、なにもツッコミを入れられずに今に至る。
「なんもかんも、集合場所を決めてなかったこいつが悪い」
そういいながら、ケイを指さす。
そのケイといえば、穂花の姿を見て口を開け、まさに『ポカーン(゜Д゜)』という表情を浮かべている。
「ケイ兄? どうしたの?」
「え? 穂花ちゃん……なの?」
「そうだけど?」
「……ネットって怖いねー」
なんかケイが壊れた。って、こっちを見ながらそんなこと言うな!
ネカマ? オレの場合はネナベ?とかしてないから!
~~~~~
「さて、なんだったか」
「なにが『なんだったか』だよ。質問してたのはこっちだろうが」
それから少しの間、穂花のアバターのことなどを説明した。
そしてやっと本題に戻れそうなのだ。
「で、ログアウトはどうすればいいんだ?」
「お前……説明書読んだのか?」
「? 説明書って破り捨てるものだろう? 一応新しい公開スキルがないかは確認したけど」
「だめだこいつ。……次からはしっかり目を通しておけ。同じことを繰り返さないために」
「ワカッター……はいはい、次から気を付けるから」
生返事したらジト目で睨まれたので、一応ちゃんと返しておく。
「……本当だろうな? っていうか、なんでログアウト? まだゲーム開始二十分くらいだぞ?」
「あー、それが……」
それからオレはアバター作成の時のことを二人に語った。
話が進むにつれてケイと穂花の目がだんだんと暗くなっていくのだがなぜだろう。
話し終わって改めて二人を見ると、先ほどよりも濃いジト目でこちらを見ていた。
いったいどうしたというんだ。
「お兄ちゃん……」
「お前は本当に……まあ、俺もあの【ランダム】の項目を見つけた時に、『ルナなら取りそうだな』とは思ったけどさ。で? その【ランダム】で出てきた《素手使い》だっけ? どんな性能なんだ?」
あきれた声で悪態をつかれてから、ケイはそう訪ねてきた。
そういえば、ログアウトのことばっか考えていて、まだスキルの確認をしてなかったような……。
っていうか、その『スキルの確認』とかはどうやるんだ?
「……そういえば、まだ確認してなかった。スキルってどうやって確認するんだ?」
「お前、本当に説明書読んでないんだな……ったく」
さっきからそう言ってるじゃないか。
「じゃ、じゃあ、私が教えてあげるね! まず右手を……」
さっきから聞き手に回っていた穂花が、プレイヤーが操作することのできる【プレイヤーメニュー】の開き方、そしてそこから開くことのできる項目の説明をしてくれた。
リアルとは逆に、穂花のアバターの身長は俺のアバターよりも40センチ近く低いので、説明の時にはオレがしゃがむ形になってしまった。
普段はこれが全く逆になっているので何となくいつもと違う感覚が得られ、やはりここはゲームの中の世界なのだと再認識させられた。
「……で、青が【アバターメニュー】。ここで現在のアバターの状態を確認できるよ。このゲームは一人称視点だから、普段見れない自分のアバターの格好とかを真ん中のアバターを模した人形で360度から見ることができるし、経験値の溜まり具合や取得スキルの確認、新規スキルの取得、装備品の着脱もここかな」
穂花の説明はとても分かりやすく、一回聞いただけですぐに理解できた。
このゲームの【プレイヤーメニュー】は右手の人差指を前にだし、時計廻りに円を描くようにすると出現した。
青い半透明のソレは、開いたプレイヤーのみが干渉することができ、他のプレイヤーはその内容を見ることも、メニューに触ることもできない。他のプレイヤーあ見られるような設定にもできるらしいのだが、わざわざ自分の情報をあけっぴらにする必要もないだろう。
そしてメニューは展開と同時に、中心に出現した赤・青・黄・緑・黒の五色の小さな球に分かれ、目の前の半透明の画面上に正五角形の頂点になぞらえるように配置された。
この球達にはそれぞれのメニュー機能が備わっており、それぞれ【アイテム】【アバター】【フレンド・メール】【マップ】【設定・オプション】という感じで割り振られていた。
その操作方法は単純で、現代に広まっているタブレット端末による操作と何も変わらない。配置された球体に指が触れればそれが拡張し、それぞれの役割を持つメニューが開かれる。
空間に触れているような感覚には少し違和感があるが、慣れれば相当使いやすいものになるだろう。
「……なるほど。大体分かったよ、ありがとう穂花」
「分かったならよかった!」
「で、肝心のスキルは?」
そうだった。メニューの新感覚操作に夢中になって当初の目的を忘れかけていた。
スキルの確認のために教わったんじゃないか。……あと、ログアウト。
「そうだったな。えーと……【アバター】から【ステータス】に入って【スキル】で……お、これか?」
慣れない操作で空間を弄り、アバター人形の横に配置されている【ステータス】という項目をタップする。
すると、今まで表示されていたものが一旦消え、直後にステータス関係の項目がズラッと表示される。そしてその中に出現した【スキル】の欄から【取得スキルの確認】という項目を発見してタップすると、先ほどのキャラ作成の時に見たスキルが表示されていた。
その中にあった【素手使い】というスキルをタップして説明文と現在たまっているスキルレベルが表示される。
「待たせたな。えーっと……なになに……」
オレは、そのスキルの説明を読み上げた。
【素手使い】Lv.1
攻撃種:打撃
武器・腕防具・足防具の装備不可。
技を二つ同時に展開可能。(発動は同時不可)
【習得技】
パンチ、キック
「「「…………」」」
刹那静寂。
思ったよりもひどい仕様のスキルかもしれない。いや、実際にそうなのだ。
この世界でのプレイヤーの攻撃力強化方法は主に2つ。
1.プレイヤー自身のレベルを上げることによるパラメータの強化。
2.武器、もしくは攻撃系エンチャント効果が付随する装備品の装備。
しかしこの【素手使い】は、そのうちの一つを大きく阻害している。最大主力たる武器は種類を問わず装備不可。しかも、攻撃手段であろう手足の防具が装備できないために、エンチャント効果も二ヵ所で期待できない。
もちろん、このままで新たなスキルを後々取得することは可能だろう。しかし、このスキルの効果によって武器が装備できないため、【~使い】スキルは意味をなさないだろう。
つまりこのスキルは、取得しているだけで攻撃力の大半を捨てる計算になってしまう。
なんという鬼畜ゲー。
「……じゃあ、もっかいスキル取り直してくるわ。これじゃさすがに冒険できないだろう。急いで取り直すから、少し待っててくれ」
オレはさすがにこのスキルではやる気が起きない。……というか、このスキルでゲーム攻略するには何回デスポーンすればいいんだ?
ゆえに当初の予定通り、オレはスキルを取り直そうと思ったのだ。
しかし、沈黙していたケイは何か考える素振りを見せると、急にこんな提案をしてきた。
「……いや、その前に一狩り行こうぜ?」
はい。ありがとうございました。
かなりストックのほうもできましたので、投稿を安定させられるように頑張ります。
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