プロローグ
あらすじに書いたとおり、研究用の作品です。自分の持てる妄想を目一杯だしたつもりですが、見返すと頭を抱えて悶絶したくなります。
しかし、消去する気も起きなかったので、ここに載せることにしました。
それでは、お楽しみください!
「……はぁっ! えいっ! やぁ!」
「ギャウ!?」
オレは、青色の光を宿した両手で二発の基本打撃技【パンチ】、その後連続で同じく青く光る右足で基本打撃技【キック】を対峙している【おおかみ Lv18】めがけて繰り出す。
これら2つの《技》はスキル《素手使い》のオリジナル技で、武器を持たず、威力やリーチがない代わりに、技後硬直や再使用可能リキャストのタイムが極端に短いので、肉薄した戦闘の時にはラッシュをかけるための足がかりとして優秀なために、多用している。
何より、不運な偶然が重なって、取得してしまったスキル《素手使い》は、持っているだけで武器を装備することができなくなり、リーチや威力が他の《~使い》系スキルより明らかに劣っている。
しかし、装備品の総重量が減るためにかなり早く動けるし、リキャストタイムの短い技を多用できるところはメリットだと思う。
このゲームがはじまった時には、一緒にログインしていた友人に『武器が装備できないとマジで辛いから、スキル取り直せ』とまで言われたこの《素手使い(ゴミスキル)》だ。
まあ一度取得してしまったスキルの消去はできないので、取り直しは不可能なこともあるが、長い時間戦っている中で慣れてきて、そこまで使いにくいものでもないのではないかと思い始めた。
閑話休題
最後、オレの繰り出した《キック》を顔面に食らった《おおかみ》は左に吹っ飛ぶが、うまく体勢を立て直し、そのままオレの方めがけて飛びかかってくる。
「よし、これでとどめ!」
右脚をすこし後ろに下げ、腰を落とす。
すると、その初動モーションがシステムによって感知され、右脚が黄色の光を放つ。
そして、オレの体は自分の意思と関係なく運動し、一回転分の遠心力をつけた後、脚をしなる鞭のように、飛びかかってきた《おおかみ》の顔面に当てる。
「ギャン!」
【ラウンドハウス】、通称回し蹴り。
黄色の軌跡を残しながら振り抜かれたオレの蹴りを食らったおおかみは再び吹っ飛び、今度は起き上がることなく、力尽きた。
これでいわゆる『討伐』が完了したわけだ。
こうしてHPがゼロになったエネミーは、まるで本当に死んでいるかのように動かなくなり、ただ、オレらプレイヤーがその死体に剥ぎ取り作業を行うを待っているのだ。
最後に放った【ラウンドハウス】のモーションでめくれ上がってしまった、コスチュームである黒いローブの端を抑え、周りに人がいないかを確認する。
よかった、周りには誰もいないようだ。
辺りに広がるのはだだっぴろい草原、暗闇の中で空には満天の星がきらめき、日本というか地球では見ることのできない大きさの『月』が夜の帳が下りた草原を照らしている。
……といっても、普通この時間帯ではプレイヤーの視界は暗く、3メートル先も見えないだろう。
そんな中でオレが戦えているのは、先日取得したスキル【視覚強化】の常時発動技【暗視】のおかげだろう。
まあそんな暗闇でなくとも、今オレがいるのはこの《草原》フィールドでも、マッピングがまだ済んでいない最前線にあたり、出現するエネミーのレベルは《エリア》周辺のエネミーと比べると、ポップ率が高くしかも強い。
それでなくても、夜の時間帯は通常よりステータスの上がったエネミーがポップするため、この時間はあまり人はフィールドに出てこないのだが。
オレは倒れたおおかみに近づき、背中の腰あたりに横に刺してある《剥ぎ取りナイフ》を引き抜き、その胴体に突き立てる。
すると、《おおかみ》は『シャリィン……』という鈴のようなSEとともにポリゴン状になって四散し、代わりにシステムアナウンスが届いた。
【《おおかみの牙》を入手しました】
これこそがこの世界におけるエネミーの『死』であり、プレイヤーの『剥ぎ取り作業』だ。
こうして自分の倒したエネミーから素材と、倒したエネミー相応のイェン(この世界の通貨)が自動でステータスに加算される。
もちろん、通常であれば、オレという人間が体長1メートルより少し大きいくらいの《おおかみ》を、素手で倒すことは不可能だろう。
しかし、この世界には、それぞれプレイヤーが取得したスキルに付随する《技》がある。
プレイヤーは、それぞれの《技》に割り振られた初動のモーションを取るだけで、それをシステムが感知し、プレイヤーのアバターを半自動的に動かして、普通の人間には不可能な動きを演出するのだ。
(これで3本目。あと5本でクエストクリアだ)
現在、エリア《ビギン》で受けられるNPCクエスト《獰猛な狩人の牙》を進行中だ。
このクエストは、《おおかみ》系のエネミーがドロップするアイテム《おおかみの牙》8本を、指定のNPCに手渡すというもの。
しかし、このクエストには難点がある。
それは、このクエストにおける納品アイテム《おおかみの牙》は、夜間に出現するおおかみからしかドロップしないこと。
しかも、もう15匹のおおかみを倒しているのだがドロップしたのはたったの3本。
驚くべきドロップ率である。
そして、おおかみは夜行性のエネミーに分類され、夜の間はステータスパラメータが上がる。
つまり、普段より強いおおかみを相手に、ドロップ率の悪いアイテムを集めるのだ。
効率が悪いにも程度がある。
しかし、このクエストの報酬は、かなり面白いものだ。
このクエストを《エリア》の中にいる、依頼主である旅の宝石商NPCに報告すると、多少のイェンと《宝石の原石》が受け取れる。
《宝石の原石》は、《鉱物鑑定》というスキルによって宝石になり、その用途は様々だ。
売るもよし、加工するもよし、装備品の強化に使うもよしだ。
宝石は個々に力を持っていて、それを装備品につけることで効果を付与できる。
まあ鑑定するまでなんの宝石が出るか分からないし、《ただの岩石》というハズレアイテムを引き当ててしまう場合もあるので、あまり効率的とは言えない。
また、毎日受けることができるというメリットも存在するので、オレはこのクエストを発見してからは毎日《宝石の原石》獲得のために狩りに勤しんでいる。
「……さて、次行くか」
誰もいない夜の草原を見渡し、つぶやく。
ここらにポップしていたエネミーはあらかた倒してしまったので、リポップまでの時間が無駄になってしまう。
今日……今夜中に《おおかみの牙(目的物)》を8本納品して、明日に備えて眠りたいのだ。
自分の視界の左上端に映る青色の長方形のようなもの。
《HPゲージ》を確認する。
(こんなものがオレの命か……いつみても笑えるな)
そう、いたって普通のゲームと同じ仕様だったはずのこの世界は、HPがゼロになった瞬間に本当に死んでしまうという、どこかで聞いたような設定のデスゲームに変貌してしまったのだ。
つまり、いまオレが見ているたった一本のゲージの色が黒になり、その値がゼロを示した瞬間、この世界の、そして現実世界あっちの『オレ』は、世界からログアウトしてしまう。
正直、冗談でも笑えない話だが、それが今の現実。
おそらく現実世界でも、マスメディアを通してこの事件は報道され、各所でこの件についての検討会が行われているだろう。
右手を目線の高さに掲げて右側に振りぬき、プレイヤーメニューを開き、そこに表示される日時を確認する。
そこに表示されるデジタル基調のその数字が示すのは10月21日。
つまり、このゲーム《To‐Arms》のサービス開始から3週間。
踏破エリアなし。
死亡プレイヤー数……千人弱。
3週間前まで『普通』だった初期ゲーム参加者五千人の運命は、あの日、たった一人の手によって変えられてしまったのだ
……今でも思う。
何であの時オレは友人の誘いに乗ってこのゲームへの参加を決めてしまったのだろう。
そう、自分の周りの世界がまだ、システムやプログラムによって制御されていない、あの日に。
1/4改定
1/7改定
最後まで読んでくださってありがとうございました!
初投稿だったのですが、いかがでしたでしょうか?
……読みにくいですよね、はい。
縦書きで書籍の原稿を元にして作ると、どうしても一文が長くなってしまい、そのまま横書きにするとこうなります。
本当にごめんなさい。
ただ、出来るだけがんばって次話の投稿を目指します!
……次は読みやすい文章、作らないと。
読んでくださってありがとうございました!