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魔の手

今日から文化祭の準備が始まる。



皆はもう斎藤になど興味はなくし、ロボットのこともすっかり忘れたように準備を始めた。


渡辺はまだ教団に残っている。


そして白石も席に座ったままだ。



「皆机ちょっと前にずらしてー」


誰かが叫ぶと皆はすぐに机を移動させ始めた。

それを合図とするように白石が立ち上がった。



そして渡辺が教室から出て行った。



教室の扉が閉まってから白石も廊下に出た。



何故だか二人の行動が気になった。



別に打ち合わせているわけでもなく、ただ少し教室を出る時間が重なっただけのことだ。


しかし私にはただの偶然には思えず、気づけば鞄を置いたまま後をつけるように廊下に出ていた。


白石は慌てて渡辺を追いかけているわけではなく、ゆったりとした足取りで歩いていた。


階段を昇り、すぐ近くにある夜間の学生のために設けられた学習室に入って行った。



こっそりと中を覗けば先に出て行った渡辺の姿があった。



やはり二人が同時に出て行ったのは偶然ではなかったのだ。



いつの間にこんな約束をしていたかは知らないが、一体二人でなんの話をするのだろうか。



見えないように屈んで扉に耳を押し合えててみた。



しかし二人は廊下に声を漏れないようにするためか、窓際に立っていて何を話しているのかはっきりとは聞こえてこなかった。


それでも何か少しでも聞こえてこないかとしばらくじっとしていると、途切れ途切れに渡辺の声が聞こえてきた。



「明日がいい」


「異常なまでに・・・ロボット」



明日、ロボット?


確かに明日も総合の授業はある。

しかしそれをどうして白石と話す必要があるんだ。



もう一度神経を集中させてみた。


しかし何やらぼそぼそと白石の声が聞こえてくるだけで、何を言っているのかわからなかった。


少しして扉に足音が近づいてきた。



まずい、もう出てきてしまう。



足音を立てないように階段側までそっと向かってから、走って階段を降りた。



階段を降りて角を曲がろうとすると、人の気配がした。

しかし人は急には止まれず、そのままその者にぶつかってしまった。



「いたっ、ごめんなさい」


相手が受け止めてくれたので転ばずにすんだ。


しかし顔を上げてみて驚いた。


そこに立っていたのは後藤だった。



「ど、どうしたのそんなところで。皆の手伝いしないの?」


いつものように軽口を叩かない。

至極静かな後藤に今でも戸惑いを隠せない。


私はなんとか言葉を吐き出してから相手が口を開くのを待った。



「待ってるんだ」


後藤はただそれだけを口にした。


何を、誰を待っているのか。

問おうとしたが、後藤の目に私が映っていないことに気づくと何も言えなかった。


たぶん後藤は何も言わない。



とっさにそう思った。


今日の後藤の態度。

学校が好きな後藤が一日欠席し、総合の授業に間に合うように慌てて登校してきた。


その全ての理由を問いたかった。



私は自分の中の蠢く感情を抑えながら教室に入って行った。



「倉田さんどこ行ってたの? 今から今日言ってた建物作るから指示してくれない?」



教室に入るなり文化委員の女の子がとびつくように駆け寄って来た。


私はその子に引っ張られながらデザインした紙と材料とを見ながら皆に指示をした。


皆は私の言葉に真剣に耳を傾け、聞き終わるとすぐに作業に入った。


とても先程川崎に殺意を向けていた者たちの姿とは思えない。



どうして人間はそんなにもすぐに切り替えられるのだろうか。


私ならそこまで壊れてしまえばもう元の日常には戻れない。



「君は本当に面白いね」


ふいに後ろから声が聞こえてきた。


思わず振り返るとそこには怪しい笑みを浮かべた白石の姿があった。


「君は気づいていないんだろう。自分も異常者ということに」


白石はそう言うと笑みを深くしてから私の元を去ろうとした。


私が、異常者?



「ちょっと待って」



去りゆく腕を掴めば、私の行動がそんなにも意外だったのか、驚いたような目で見つめてくる。



「何?」


白石は煩わしそうに吐き捨てた。


皆は文化祭の準備に夢中で私たちの状況には誰も気づいていない。



「どういう意味なの?」


「どういうって、君が一番わかっているだろう。だって何より君が一番興味を向けているじゃないか。

楽しんでいるんだろう? 一番の異常者だよ」


白石は本当に可笑しそうに笑いながら教室を出て行った。


白石は元々クラスの集まりに関わるような性格ではない。

夏休みの集まりにだって一度無理に全員参加を求めた時に来たぐらいだ。


だから白石が帰っても誰も止めはしない。




それにしても、白石は私の何を理解しているというのだろうか。


確かに指輪を作っていた時のロボットには思わず見入ってしまっていた。


やはりその時私も皆のように狂気的な目でロボットを見ていたというのだろうか。



そんなはず、そんなはずはない。




心の中で呟けば呟くほど自信がなくなってきた。



私は皆の準備を眺めてから廊下に出た。



ただ風に当たりたかった。


都合のいいことに廊下には誰もいなかった。


私はなんの遠慮もせずに窓を開けた。

風が心地いいほどに入ってくる。



それにしても白石は渡辺と何の話をしていたのか。


それに白石はどうして私に近づいてくるのか。


一体何を企んでいるのだろうか。




きっと明日何かが起こるんだ。


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