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王騎士  作者: 庵こく
1/5

息抜きと思いつきで書きます。

全5話予定の短編です。


 

 私の生まれは大きな国の普通の家庭だったと思う。

 ただ少し特殊な所は、名の知れた騎士の家に女として生まれて男のように育てられたことだ。


 私の家は代々この国の王家に仕える一族で、古くより結んだ制約はこの身に流れる血に刻まれている。

 たとえこの血族の末裔が私一人しか残ってなかったとしても、この宿命からは逃れられないのだ。

 

 そして15歳の誕生日。この日から私の〝騎士〟としての仕事が始まった。

 ――といっても、仕事と呼べるほどの業務は私に回って来なかった。何代も王の剣としてこの国に尽くしてきたといっても、私の家はそれほど名家じゃない。なにより男じゃない。

 この戦争の久しく無い平和な世の中じゃあ名誉も武勲も上げられない。

 だからただの小娘に任せられる仕事なんてないってことなんだろう。

 おまけに、年端もいかない子供だって遣える『魔法技術』も使えない私は〝騎士〟とは名ばかりの欠陥品だと思う。

 案の定、ただ剣を扱えるだけの私は出来損ないの烙印を押されたわけで……。


 いくら御先祖の名で騎士になろうとも私は家の名を貶めるお荷物。

 この結末はわかっていた。それでも私は自分の意思でこの道を進むと決めたんだ。もとより後悔はしていない。


 しかし、こんな私の人生が一変した。

 それは王宮に来て一年ほどが過ぎたある日のことだ。


 一年たっても新米騎士の後輩くん達と同等かそれ以下の扱いである城門の警備をしていると、


「セルマ。セルマ=ヘルムはいるか。王がお呼びだ」


「……私、でありますか?」


 間近でみたこともない王宮の近衛騎士が私を呼びに来たのだ。余計な装飾は削がれているが、機能性に優れた綺麗な鋼の鎧と兜。私の鉄の鎧とは大違いだ。

 それにしたったこんな下っ端に王直々の命とは何事か。何かしでかしてしまったのだろうか。

 流石にこの時ばかりは心臓が張り裂けそうなほど高鳴り、頭に流れる血は煮えたぎるほど熱かった。

 こんなに緊張したのは騎士学校の卒業試験である竜族討伐以来である。


「セ、セルマ=ヘルムです!只今参りました!」

「――入りなさい」


 これからも一度も足を踏み入れることのないであろう王宮の最深部。王が居る重々しい戸を開いた。


「セルマ、待っていたぞ」


 この国で育っていて恥ずかしい話だが、この時初めて私は〝王〟という存在をこの目で見た。

 けれども、そこに居たのはベッドで力なく横になる老人が一人だけ。数々の伝説を今も作り続けている英雄、生ける伝説と称されるお方のイメージからはほど遠かった。


「ゴホッ!」


 きっと以前は綺麗な金色をしていたと思う髪は真っ白で頬は痩せこけ、息は切れ切れだった。

 とても40代には見えない。


「セルマ、よくお聞き」


 掠れた声、喋る度に喉から息が抜けていく。


「この姿を見てどう……思った」

「あ、あの――」

「……よい……我に気にせず思うことを口にしなさい」


 そう言われても、私のバカな頭ではこの場で打ち首を回避できるような気の効いたセリフなんて出てこない。


「言いづらいのは解かっておる。お前達が知る王とこの姿があまりにもかけ離れておるだろう?」

「……はい。とても5年前の大戦争終結の時に最前線で戦い続けたとは……思えません」

「ふはは……素直な娘だ。然様、あの戦争で戦っておった王はわしの息子じゃよ。つまり、わしは前代の王になる。既に表舞台からは退いた老いぼれだ」


 前代の王、つまりこの国の基盤を作った立派な二代目の国王になる。


「今、この国に王はいない」

「――え?」


 私は突然の告白に自分の耳を疑った。

 一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。


「三代目の国王、つまりわしの息子はもう二年も前に死んだ」


 それじゃあ、私達がいままで護ってきたモノはいったいなんだったの?


「そんな! そんな話、私は、民は知らない! です!」

「すまんな、セルマ。わし達王族はお主ら騎士や民達をこれまで欺いていたことを謝ろう」


 動かない老いた体で、あろうことか先代の王が私なんかに頭を下げた。


「お、おやめてください!私の様な下の者に殿下が頭を下げるだなんて!」

「よいのだ。このような老いぼれが頭を下げたところでどうにかなるものではないが、すまなかった」


 深く、一分以上殿下は私に頭を下げ続けていた。


 こんな時にどう対応したらいいのかなんて騎士学校で習わなかったってば!


 私がオロオロしだすと、殿下はようやく面を上げてくれた。


「今日そなたを呼び出したのは、この老いぼれの勝手な願いを頼みたかったからじゃ」


 老いても衰えない鋭く蒼い眼が私を直視した。


「お願い? 私なんかに?」


 一年間城門警備しか任せられてこなかったこんなへっぽこ騎士が王の命を受ける?

 それは、戦いで多少の名を残した者にだって滅多に与えられることのない誉だ。それがなんで。


「見ての通りわしはもう長くない……するとどうじゃ? 今はわしがなんとかこの国を動かせておるが次はだれがこの国を治めることになる?」

「それは……政治的権力の強い神官の方々が次の国王様が決まるま―」

「ならん!」


 その時の殿下の声は今までに無いくらい気迫を含んでいた。全盛期の覇気が込められていればもっと迫力はあっただろう。それでも私は喉まで出かかっていた言葉をおもいっきり飲み込んだ。


「……大声をだして悪かったの。良いか、神官どもは信用ならん……この席を持てるのは、我が王家の血を継ぐものだけだ。一時でさえこの席を他の者に明け渡してはならん」

「け、軽率な発言……失礼いたしました」

「いや、そう畏まるでない。ほれ、イザヴェル、入ってきなさい」


 王の言葉の後、私たち以外に誰もいないこの寝室に入ってきたのは私とそう歳の変わらない男の子だった。


「……」

「……?」


 なんか、じっと見られてる。


「なるほど、お前が女で唯一騎士をやっているとかいう」


 第一印象、最悪。


 上から私を見下しているような蒼い眼が堪らなく癪にさわ――

 ……ん? 蒼い目?


「名前、セルマだっけ?」


 蒼い瞳が眩しい。この蒼穹の瞳を持つということは王家の証のはず。


「え……つ、つまりこの方は」

「我の孫だ。そして、息子達が残した最後の希望でもある」


 若くして威厳ある風格は、これまで見てきた同年代の者達とはケタ違い。まっすぐな蒼い瞳に見つめられてたまらず動けなくなった。

 ただ、綺麗で気高く強いという印象。私たち平民騎士と生まれ持った差がこれほどまでの物とは……


「イザヴェルだ、よろしくな」


 生意気そうだと思ったけど、今見せた優しい笑顔は正直反則である。


 これが、私と彼との出会い。


 とまあ、こんな感じの緩い初対面であった。

 

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