表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

【第一回】ペンギン、Tシャツ、校長室


 二十七時の校長室。冗談みたいに静まりかえって、窓の向こうでかすかに聞こえる虫の音の他に音はない。私は部屋をぐるりと見回し頷いて、も一度見回し頷いた。今度は部屋を歩き回って、あちらを見たりこちらを見たりし、近づいて見たり離れて見たり、観察しながらまた頷いた。これが我らが校長室か。狭すぎず広すぎず、ちょっと広い程度の広さで、壁の上には歴代の写真、ガラスケースは壁際に、何かの資料が詰まったファイルとそれが入った段ボール。そんな私の侵入を、捉えているのは金魚だけ。あぶくを泳ぐらんちゅうと、その下にいる水泡眼。

 汗だくで、二十六時に目が覚めて、夢の名残がほどける中で、校長室に行かなきゃと、天啓みたいに閃いた。校長室へ行ってみよう、今まで行ったことがない、校長室へ行ってみよう。Tシャツを、ペンギン柄のに取り替えて、ジャージのままで家を出た。サンダルの音が夜に響いて、響いただけで消えてった。私の高校に着いてから、サンダルを脱いで上履きに、そのまま歩いてここへ来た。私の小さな大冒険。

 初めて訪ねる校長室は、月の光に照らされて、白い光の下にある。磨かれた床はぴかぴかで、足を滑らせたくもなる。きゅっきゅきゅっきゅとやってみる。これはなかなか悪くない。ふと窓の外に目をやると、空から何かが落ちてきた。まっすぐに窓に落ちてきた。ガラスを破って粉々にしてそいつは机に降りたった。きらめくガラスの粉の中、机の上で立ち上がる。私は我が目を疑った。むらさき色のペンギンが傷一つ無く立っていた。ぶるると体をふるわせて、彼は私に目を向けた。おしまいだ。私は両手で頭を抱え、つるつるの床にへたり込む。のどの奥から漏れる声。

「こ、校長……」

「いかにもだ。不法侵入はよくないよ。明日の昼にまた来なさい。原稿用紙を渡すから」

 突きつけられた反省文。我らがペンギン校長先生。私の小さな大冒険。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ