青春と進路
自分がどうすれば良いのか分からない。将来をどうしたいのかが見えてこない。したり顔で、楽な道を選んできた代償だろうか。
田中美穂は今学期から高校2年生になった。みんなが、受験勉強にやる気を出していくのと反比例に、自分はやる気がなくなってきているのを感じていた。
「美穂!おはよう。」
教室に着いたら、親友の矢口洋子がかけよってきた。
「おはよう。今日は暖かいね。夏もすぐ近くだね。」
洋子の挨拶に適当に返事する。しかし、洋子は一瞬ぎょっとした。夏という単語に過剰反応したのだ。
「もう夏とか言わないで!受験がどんどん近付いてくるじゃん!」
洋子が冗談半分本気半分に怒った表情を作る。
「あはは、ごめん!でも、実際焦るよね」
洋子に合わせ応えたものの、あまり焦っていない自分がいるのが分かる。
しかし、焦っていないのは、本当に自分だけなのだろうか。もしかしたら、洋子も心のどこかで、受験モードに入り切れていないのではないか。
「美穂、あのね、」
気が付いたら洋子が言いにくそうな表情をこちらに向けてきていた。
「なあに?」
いま、考えていたことを悟られないように、咄嗟に取り繕う。
「私ね、塾に通うことにしたんだ」
洋子が小さな声で私に告白した。
1限の始まる知らせであるチャイムが鳴った。私達は一度分かれ、別々の席に着く。ほどなくして、授業が始まった。
授業が退屈に感じられるようになった頃、洋子の告白を思い出していた。別に高校2年生から塾に通うのは、珍しいことではない。むしろ妥当であろう。しかし、それでも、少なからず驚き、悲しかった。洋子は自分の目指すべぎものが見えているんだろう。
「田中美穂さん、問1〜3を答えを板書してください」
物思いに耽っているのがばれてしまったのだろう、先生に当てられてしまった。面倒と思いつつも、席を立ち前に出る。あまり迷うことなく、解答を導けた。
「美穂ーー!さっきの問題どうやって解いたの??」
授業後、洋子が私のもとへ来て、困ったような顔をした。私は板書したときより丁寧に説明すると、納得したように頷いた。
「やっぱ美穂はすごいね!頭良い!」
洋子の言葉に曖昧にお礼を言い、話を変える。
「私さ、実は、やりたいことまだ決めていないんだよね」
洋子のきょとんとした顔を見た瞬間言ったことを後悔したが、もう遅かった。
「私が勉強する理由って、皆がやっているから、なんだよ。なんとなく勉強しているの。将来やりたいことを見据えないの」
覚悟を決めて一気に言う。洋子は少し考えてから静かに喋った。
「たぶん、みんなそうだよ。みんな、よく分からないけど、何となく頑張っているんだよ。目的以上に頑張ることが、大切なんだよ。」
洋子の言葉は、明るく、そして辛かった。虚しいまでの公平さが、明るく辛かった。