ep1-2
「後は、このウィッグを付けて完成! うはは! 凛が黒髪ストレートの清純派美少女になった! 」
「ほほー。髪型一つで大分印象変わるな」
もうこれなら知り合いの誰に会っても分からないんじゃないか?
「よーっし。じゃあ次は制服着てみよう! 」
うーん。なんでこんなにノリノリなんだこいつは。
「じゃあ着替えて! 着替えて! 」
もの凄く詰め寄ってくる白雪を押し返しつつ答える。
「分かった分かった」
白雪には外に出て貰い、着替えを始める。
ま、まてよ? 普段はこれ白雪が着てるんだよな?
「ごくり」
ちなみに俺の中には義理の妹だからホニャララとかそういう感情は一切存在しない。そりゃもう一日の大半はあいつをいやらしい目で見ている。
「匂いとか嗅いだら切り落とすからねー」
「はははは。お兄ちゃんがそんな事すると思っているのか? HAHAHAHA」
今はやめておこう。
しかし、前から思ってたけどやっぱり剣聖の制服可愛いな。あそこの女子の大半が可愛く見えるのはこの制服のおかげだと思う。
「おし! 着替え終わったぞ! 」
「どれどれ。おおおおっ! 超似合ってる! 」
「どーよ? 渋いだろ? 」
若干スカートが短い気がするが、それは白雪が改造してしまったからであり、実際はもっと長いという話なので安心だ。
「渋くはないけど可愛いよ! さすが凛! 」
女装を褒められても複雑なだけだがまぁ喜んでいるのでよしとしよう。
「これからはセーラー系男子って呼ぶね! 」
「それはやめろ」
なんでも〇〇系男子って付けりゃいいもんじゃない。
「おい凛! 紅玉集めんの手伝え! 父さんもうソロじゃ限界! 」
親父がノックも無しに白雪の部屋に入ってきたものだから物凄い回し蹴りを腹部に貰っていた。
「ぐふぅ……さすが京香の娘だ。いいもん持ってやがる……そ、それより凛は? ここにいると京香に聞いたんだが」
「ここにいるだろ」
親父が俺に目を向けると( Д) ゜゜ ←こんな感じになった
「おおおおおおお? ああそうか女子校に転校するんだもんな。うん。いいんじゃないか? うん」
「お父さん照れすぎじゃない? うははははは!! 」
こ、これは面白いぞ。親父でさえこうなるんだから……ふ、ふふふふ。
「あ、なんか悪い顔してる」
「なぁ確かお前明日学校休みだよな? 」
「うん創立記念日」
そうか。そうか。
「なぁ。一つ頼まれてくれないか? 」
「うん? まぁ私にできることなら」
明日が楽しみだぜ。
「くくっ。来た来た」
翌日、俺は剣信学園の校門前に立っていた。無論、女装してである。昨日白雪に頼んだのは女装の手伝いをして欲しいということだ。
別にそういう趣味に目覚めたわけではない。今からこちらに向かってくる親友にどっきりを仕掛ける為だ。
「な、なんで剣聖の女子がここにいるんだ? 」
「し、しかもめちゃくちゃ可愛い」
「あれじゃないか? 俺に告白しにきたんじゃないか? 」
「いや、俺にだな」
「なんでてめーみたいな不細工にあんな子が惚れると思ってんだよバカ」
「なんだと!? てめーこそウーパールーパーの親戚みたいな顔しやがって」
クラスメイトの長谷川と横山が取っ組み合いの喧嘩を始めた。あんなのがクラスメイトだと思うと情けなくなってきた。
「な、なんであいつら殴り合ってるんだ? 」
親友である中野洋介が朝からの流血騒ぎに困惑しつつ現れた。
「おはよう洋介君」
「ああ、おは……え? 誰!? 」
マジで気付かれないな。やっぱりなんか寂しいぞ。
「え? もしかして私の事忘れちゃったの? 」
「え!? 忘れちゃった? いや、俺は君と会うのは初めてだと思うんだけど」
周囲の生徒も俺と洋介のやりとりを囲んで見ている。ちょくちょく「あいつ殺す」「氏ね」「早く氏ね」などの声も聞こえる。本当にどうしようもない奴等である。
「ううっ。ヒドいよ」
これぞ俺のドッキリ作戦~あんなに一緒だったのに~ である。
「えええっ!? な、泣くなよ! マジで知らないんだって! あれか?! 雅の友達か? 」
雅? 誰だそれ。
「雅? 雅って誰? 」
「お前剣聖なのに雅を知らないのか? ……まぁ俺の幼馴染だよ。うん。俺にはあいつしか剣聖の知り合いはいない」
おっ。幼馴染……だと?
「おいコラ待て洋介。幼馴染の女の子がいるなんていままで一言も聞いてねぇぞ」
もうドッキリとかどうでもいい。こいつに幼馴染がいるなんて聞いたからには生かしておけない。
「え? ちょっ。お、お前まさか凛か!? なんでそんな格好」
「んなことはどうでもいいだろ。おい、とっとと教室行くぞコラ」
洋介の胸倉を掴んで運んでいく。周りの連中が「林崎かよ! 紛らわしい真似すんなよ! 」と喚いているが全く気にしなかった。
教室に入り洋介を椅子に座らせて俺は対面するように机に座る。
「ほほー。お互いに学院を卒業して、強くなったら結婚を前提に付き合う約束をしてんのか」
「ああ。まぁ小学生の頃の約束だしな。向こうが覚えてるかは分からないが」
なんだよそれ……めちゃくちゃ羨ましい。
「うん。じゃあとりあえず氏んでもらおうかな」
「とりあえずじゃねーよ! ってかスカートでそんな格好すんなよ! パンツ見えるわ! 」
「見えたところでどうなるんだよ……」
まぁ確かにさっきからクラスの野郎共がチラチラ見てくるが、あいつ等は重度に童貞を拗らせているのでスカートに興味が津々なのだろう。物凄くキモい。
「な、なぁ! 本当に林崎なのか? ってか林崎は本当に男なのか? 」
「あ、それはいつも思ってたわ。家庭の事情で男子校に通う事になった女の子なんじゃねーかって」
「んなわけねーだろ。いいか? 俺がこんな格好しているのには訳があるんだ」
皆が「どんな事情なんだ? 」と続きを気にしているのでなんとなく教壇に移動した。
「この前剣聖との合併の話があったのは覚えてるよな? 」
「ああ……忘れるわけがねぇっ!! 」
あの合併が無しになったと聞いた時、俺達は深く悲しみ激しく怒った。どれくらいかと言うと全校生徒が暴動を起こし全校生徒が一週間の停学処分を受けた程だ。
「あの話が破談したのは剣聖の生徒会のせいだと言うのも覚えているよな? 」
皆が無言で頷く。
「俺は! 来月から剣聖に転校する! 」
「!? 」
クラスがどよめく。
「そして! 向こうの生徒会長になり剣信との合併を現実の物とする! 」
腰に提げてある刀。妖刀・朧月を抜いて掲げる。
「皆! 期待しててくれ! 」
おおおおおおおっ! とクラスの皆も刀を掲げてくれた。なんかすごいカリスマを持った気分。
「ん? でも待てよ? 」
洋介がふと声を上げた。
「よく考えたらこいつ一人だけ女の園に行くって事だよな? 」
わーお。そこに気付かれるのは盲点だったわ。
クラスの空気が不穏な物になってきた。
「……あーっと。そろそろ制服を白雪に返さないとなー。今日はもう早退でいいか。うん。じゃ、皆! またいつか会おう! ちゃお! 」
ばびゅんと教室から飛び出した。
「待ちやがれ林崎ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!! 」
うわあ全員刀振り回してる!
「勘弁してえええええええ!!! 」
まだ朝のHR前の校舎に男達の怒号がこだましていた。




