ep3-2
「……とうとう旦那の実家に初入場」
「うん。だから旦那じゃないからね」
もういちいちつっこむのもめんどくさくなってきたな。
「だからー! 二度と電話すんなって言ったじゃん! めんどくさいな! 」
玄関に入った途端、白雪の怒号が聞こえてきた。
「な、なんだ? 」
あの白雪があんなにキレているのは以前俺がちょっと揉んでみたいなと思ってあいつのおっぱいを鷲掴みした時以来だ。
「ったく……あ、凛」
「ただいま」
「うん。お帰り」
うーむ。ちょっと気まずいな。普段から怒らない奴の怒っている姿を見た後ってのは。
「……林崎さん。なんで怒ってるの? 」
どうやらノアちゃんは空気を読まない方の人間らしい。
「あー。実は中学の時の知り合いが電話してきたっていうか……」
白雪の辛そうな表情と声音で俺はある事を思い出した。
「おい、それってあいつか? 」
「そう。二条城……」
今白雪が言ったのは決して世界遺産の方では無く、二条城憲司という名の白雪の中学校での先輩である。
以前、俺と白雪が兄妹になってしばらく経ったとき、この二条城にストーカー的被害にあっていた白雪に相談された俺は怒りに身を任せて二条城をボコボコにしたのだった。
「なんでまたあいつが? 」
「わかんないけど、以前の僕とは違う! ってしきりに言ってた」
「うーむ。それは怖いな」
「……なに? どうしたの? 」
なんのことだかさっぱり分かっていないノアちゃんに二条城というストーカーが復活したとだけ伝えた。
「……ああ、二条城。私、知ってるわ」
「「え? なんで? 」」
思わず俺と白雪は声を揃えて聞いてしまった。
「……剣豪高校で最近超絶化を会得した人物がそんな名前だった」
「あいつ剣豪に行ったのか? 」
剣豪とは正式には私立剣豪養成高等学校といい。剣聖女学院、剣信学園と同じく全校生徒帯刀を義務付けられている学校で、その中でも珍しい共学の学校である。
「どうだろ? まぁ散々頭良いアピールしてきたしそうなんじゃない? 」
「そうか。ってか超絶化ってなに? 」
「……龍球流の秘奥義、使うと戦闘力が飛躍的に上がる。1000年に一度使える人が現れるかどうか。どんな天才でも越えられない壁を越えた人のこと……決して某少年漫画は関係ない」
「全く信用ならないぞそれ」
やっぱり怒りによって目覚めた最強の戦士だったりするのだろうか。
「んで、二条城は他にはなんて言ってたんだ? 」
「君のお兄さんは確実に殺すって」
……
「よし。俺は今から三年くらい家から出ない事にするから」
「私はどうなるのさ」
「……死にはしないんじゃない? 」
「こいつ最低だ! 」
だってそんな1000年に一人使えるかどうかの奥義を使える相手にどうにかできる訳ないじゃない。
「……凛。来る」
へ?
「こんにちはー! 白雪さん。迎えに来ましたよ」
に、ににににに二条城だっ!
「おいなんで来てんだよあいつ! 」
「わかんない! え?! なんで?! 」
抱き合ってガタガタ震える俺達。
「いないのかな? いやいや鍵は開いてるんだからいるよね絶対。白雪さーん。今日は式場の下見に行くって言っておいたでしょー? 」
「おいやべーよあいつ! どう考えてもやべーよ! 」
「絶対凛に殴られすぎて頭おかしくなったんだって! 」
「……」
ノアちゃんだけは柄を握って戦闘態勢を整えている。物凄く頼もしい。
「あ。かくれんぼですか? 白雪さんは中学生の頃もよくやってましたもんね」
「……」ジトー
「い、いや。鬼ごっことかもしてたからね! 」
何のフォローにもなってない。
「じゃあ探しますよー」
ひいいいいい! 不法侵入!
「……凛。ここは私がなんとかするわ」
の、ノアちゃんかっこいい。
「……その間に逃げて」
そう言って玄関へと走って行ったノアちゃん。
「ちっ。さすがにカッコ悪すぎるなこれは」
朧月は道場に預けてあるので練習用の模造刀を掴んで駆け出す。
「わわっ! 待って私も行く! 」
付いて来た白雪と共に玄関へ下りると
「玄関がねえええええええええ!!!!!???? 」
それはもう綺麗さっぱり玄関がなくなっていた。プライバシー曝け出し過ぎである。
「くっ! ぐはっ! 」
そして家の前の道路ではノアちゃんが二条城を切り刻んでいた。
「……せい」
汗一つかかずに冷静に斬撃を加えていくノアちゃん。
「つ、強い」
待てよ? これってチャーンスじゃね?
白雪の方を見ると白雪も断風を構えて準備は万端なようだ。
「よし」
二人で頷きあって二条城に斬りかかる。
「「氏ねこの陰険野郎がああああああああああああああああ」」
俺が模造刀で思い切り空中へ打ち上げ、跳んだ白雪が交差するように二回斬撃を叩き込む。
「ぐぶぅ」
よし。勝った。