ep3-1
だって、その刀は極光一刀流の秘宝だもの。
「せぇい!! 」
先日、ノアちゃんが言っていた言葉を思い出しつつ勢いよく抜刀する。うーむ。難しいな。
「甘い! 全然甘い! そんなものではティッシュの一枚も斬れんぞ! 」
俺の師匠になったノアパパが物凄い喝を入れてきた。実はあの後、釈放されたノアパパに抜刀術を教えてくれとお願いしたのだ。当然断られたのだが、ノアちゃんも一緒にお願いしてくれたので無事に俺のお願いを聞いてくれた。
「おっさんの教え方が悪いんじゃねーのか? 」
「おま、自分から頼んできておいて、月謝も払ってないのによくそんな事言えるね」
「まぁ俺の方が勝ったんだから仕方ないって」
「違う! 貴様には負けていない! 朧月に負けたのだ」
「はいはい。いいから続けるぞ」
「くぉのやるぉおおおおおおお」
む? ノアパパがキレそうだぞ。
「……凛。お昼ご飯ができた」
今にもノアパパが俺に飛びかかろうとしている時にノアちゃんがやってきた。
「おっ。悪いねいつも」
「……ううん。お母さんも喜んでいる。息子ができて」
「……まずはお友達で」
ノアちゃんのお母さん。セシル・ウィンターさんは、ノアちゃんとは正反対の性格をしたブロンド美女だ。その髪の毛と同じくらいに明るい性格で、巨乳である(ここ重要)
「ノアちゃん。今日はパパもそっちで食事していいのかな? 」
「……お母さんがコレを渡せって」
ノアちゃんはお父さんに小さい物体を投げ渡した。
「なんだこれ? 」
「……ぷっ○ょ」
「え? まさかこれが俺の昼飯? ねぇ? 嘘でしょ? 」
この流れを見ていただければ分かると思うが、いや、ノアちゃんの名字でわかると思うが。ノアちゃんの両親は離婚している。(同じ敷地には住んでいるのだが)なんでもノアパパの浮気が原因だとか。あの時は股間にムヒを塗りたくってやりました~HAHAHAAHAと笑うセシルさんの声が忘れられない。
「ど、どんまい」
「くっ! 貴様は俺の妻と娘と飯を食って俺はここで一人で○っちょだと? なんだこの理不尽」
「……まぁ自分が悪いんだけどね」
「は、はい」
丁寧にぷ○ちょの包装を解いてちまちまと食べだしたかわいそうな大男を物凄い哀れんだ目で見てからノアちゃんと一緒に屋敷へ向かう。
ここ、極光一刀流の敷地には道場と屋敷が建っており、かつては屋敷に家族全員で住んでいたのだが、現在、父親だけは屋敷へ入ることを禁止されているという事だ。
「……調子はどう? 」
「うーむ。まだ微妙だな~。やっぱりこの間のはまぐれだったのかな」
あの後、何回か朧月を抜刀してみたのだが、あの物凄い斬撃はおろか発光もしなくなってしまった。このままだと過度のストレスであの刀をへし折ってしまうかもしれないので今は模造刀で練習している。
「……凛ならきっと大丈夫」
「お、おう。ありがとう」
いきなり手を握られたので動悸が激しくなってしまった。
「っと、悪い、電話だ」
誰からだ? ああ、白雪か。
『凛ー。お腹空いた。死ぬ』
「冷蔵庫に昨日の煮物が入ってるだろ? ご飯も炊飯器の中にある」
『修行まだ終わらないのー? 暇だよー遊ぼうよー』
「はいはい。もう少し待ってろ」
まったく。可愛い奴め。
「ノアちゃん。今日はご飯頂いたら帰るわ。妹が寂しがってるから」
「……そう。家族は大事ね」
寂しそうなノアちゃん。あ、そうだ。
「じゃあ家に来るか? 白雪となら絶対仲良くなれるぞ」
「……林崎さんと? ふむ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言うものね」
この発言はスルーしよう。
「……じゃあ、お邪魔させてもらう」
「おう。まずはセシルさんのおっぱ、じゃなくて昼飯を堪能しよう」
「……私もいずれはああなるわ」
切ない目で自分の胸を見ているノアちゃんの姿はとてつもない罪悪感を俺に与えたのであった。