ep2-5
「……凛。割とまずい事になった」
「うん? どうしたのノアちゃん」
翌朝、相変わらず「うははうはは」とやかましい我が義妹と登校してくると顔を若干青くしたノアちゃんがやってきた。
「お? どーしたのうぃっち? 」
白雪も俺と一緒に首を傾げる。
「……お父さんが怒り狂っている」
はい?
「えっと、お父さんが怒り狂っている? えっと、原因は? 」
親子喧嘩に口を出せるほど俺はまともに親父とコミュニケーションを取ってきていないから答えられるか心配だが、とりあえず話だけは聞いてみよう。
「……凛と結婚するって言ったら」
周りに聞こえないように耳打ちで驚愕の内容を言い放ったノアちゃん。
「あんたなにしてまんねん?!!!!!!! 」
「「!!!? 」」
「あ。し、失礼しました」
驚きのあまりなんか変な関西弁でちゃったよ。
「……これを渡すように言われた」
ノアちゃんが手渡してきたのは一通の封筒。中には紙が一枚折りたたまれて入っていた。
「な、なんだ? 果たし状か? 」
娘が欲しければ○○へ来い! 的な?
「ええと。どれどれ」
とりあえず中身を見てみる。
「!!……」
俺はそっと手紙を閉じた。
いやいや。そんなバカな。
「なになに? 何て書いてあるの……いやいや。そんなバカな」
俺から手紙を奪って中身を見た白雪も俺と同じ感想を抱いたようだ。
落ち着いてもう一回開く。
うん。何回見ても紙にはコ ロ ス の三文字しか書いてない。
「いやいや、悪質な中学生の虐めじゃないんだから」
ノアちゃんの話によるとこれを書いたのはお父さんなのだろう。大の大人がこんな手紙を書くなんて信じられないよ。
「……ごめん。お父さんが真剣に凛を探している」
えええええ。
「……しばらく商店街には近づかない方がいい」
「いや、そしたら私何もできなくなっちゃんだけど」
「……大丈夫。しばらくと言っても私があのおっさんを仕留めるまで」
し、仕留めるの?
「……実の父とはいえ、愛の前には他人も同然」
そう言ってカチャリを鳴らすノアちゃんの顔は無表情なのに物凄い恐かった。
「……昨日仕留め損ねたけど、今日こそ仕留める」
「既に仕留めにいったの!? 」
「……凛を殺すとかふざけた事を言ったからもう後ろからバッサリと」
こえええええええ。父親を背後からバッサリいく女子高生こえええええ。
「……そしたら逃げながらこの手紙を渡せって言うから渡したんだけど。何このふざけた内容」
怒っているのか? 無表情だけど怒っているのか?
「ま、まぁお父さんは私の顔知らないでしょ? なら襲われる心配はないよ」
「……ごめん」
な、なんで謝るんだ!?
「……それはもう旦那自慢がしたくてこれ見せてしまった」
ノアちゃんが見せてくれたのは俺の写メだった。
「え!? いつ撮ったの!? 」
「……こう、物陰からこっそり」
盗撮じゃねーか……
「うはは! うぃっち面白いね! 」
放課後、「……一狩り行って来る」と電光石火で学校を出て行ったノアちゃんと別れ、俺と白雪は家路に付いていた・
「はぁ。もしノアちゃんのお父さんが襲ってきたらどうしよう」
むざむざ斬られる訳にはいかないが、なにせこっちの刀は斬れないのだ。せめて普通の刀でもあればなぁ。
「あ~。なまくらで極光一刀流の当主を相手にするのか。しかも相手は殺す気満々」
俺がこの刀を持ち歩いているのはこの発光が面白いからという理由と、校内での試合なら殺される事はないからという理由があるからであって、殺意満々の相手と戦うなんて想定外だ。
「いや、しかしだな。極光の当主ともあろう者がこんな学生相手に本気で向かってくるなんてありえるのか? いや、ありえない」
もしかしたらちょっと脅かしてくるだけかもしれない。そしたら軽く謝って油断した所を後ろから殴り殺す勢いで行ってやろう。
「ふ、ふふふふ。いける、いけるぞ」
「ね、ねぇ凛」
俺が完璧な作戦にニヤニヤしていると俺の腕を突然白雪が引っ張ってきた。
「なんだ白雪。いいところなんだ邪魔するな」
「あ、あの物凄い形相でこっちに向かってくるおじさん」
へ?
「ふしゅうううううう。ふしゅううううううううう」
え? なにあれ人間? 軽く身長二メートルはあるけど。
「おい。貴様、もしや林崎凛ではないか? 」
二メートルの大男はゆっくりと俺達、いや、俺の方へやってきた。間違いない、こいつがノアちゃんの父親、極光一刀流当主だ。
ここは素直に俺が林崎凛だと認め、さっきの作戦に移るべきだ。
やってやるぜ。身長差がなんだ!
「いいえ違います~。私は林凛子という名前の今をときめく女子高生です☆」
「ふむ。確かにターゲットは男だ。失礼、あまりにも顔が似ていたのでな」
「いえいえ~気にしてないですぅ~」
「本当にすまない。では、気をつけて帰りなさい」
……
「言うな。何も言わないでいい」
「う、うん。ま、まぁ結果オーライ? うはは……」
よし、上手く撒けた。っていうかこれ俺完全に巻き込まれてるだけじゃね?
「くそー。ノアちゃんめー」
早くノアちゃんにそれは恋ではないと気付かせてあげないとな。
「でもまぁ私が見る限りは完全にうぃっちは凛にメロメロだけどねー」
「はっ。恋愛経験0のお前に何が分かる。ここは恋愛マスターである俺の判断に間違いないのさ」
「恋愛マスターて……ゲームだけじゃん」
「ふははは! なめるなよ! コレでも相当な回数リアルで告白されてきたんだぜ俺は」
俺はモテ王なのだよ諸君。
「全部男の子相手だけどね」
「それ言ったらダメだろ……」