ep2-4
「それで、燐はいつ私の旦那になる? 」
「うん、お友達でお願いします」
「むぅ」
カラオケから出た後、十五分に一回の割合で同じ質問をしてくるノアちゃん。いや、確かに悪い気はしないんだけれども。
「それよりノアちゃん、さっきから合計で三十回は電柱にぶつかってるけど本当に大丈夫? 」
「もーまんたい」
そういうノアちゃんの足取りはフラフラとしていて危なっかしい。あ、またぶつかった。
「邪魔、斬る? 」
「斬っちゃダメ」
そしてぶつかる度に抜刀しようとするもんだから性質が悪いことこの上ない。
「じゃあ私の彼氏になる? 」
「う~ん。全く関係ないよねそれ」
そしてこの何の関係もない所に地雷を仕掛けてくるものだから彼女との会話は気が抜けない。
「ちっ」
「っていうか、ノアちゃん。それは本気なのか? 」
酔っている相手にどうかと思うが、真剣な声音で聞く。
「うん」
「あれだぞ? つまり俺と男女の仲になりたいと言うことだぞ? 」
「うん。子供は最低十五人作ろうね」
もの凄い家族計画を立てていらっしゃる……
「おや? 私と結婚する気になった? 」
「いえ全く」
「残念」
まぁ酔っ払いだししょうがない。明日になれば元通りになっているさ、きっと。
「ここ、私の家」
「え? ここ? 」
ノアちゃんが家だと指差す建物はそれはもう立派な道場だった。っていうかここって……
「え!? マジで!? ノアちゃんって極光流の人!? 」
「うん。次期当主」
ま、マジか。極光一刀流といえば剣術が盛んなここら辺でも五本の指に入るっていう名門だぞ?
「す、すげー」
ぜひとも一度お手合わせしたいという俺の男心が疼きだした。
「そんなに凄くないよ。じゃあね、凛。また明日。チュッ」
投げキッスを完璧にスルーして手を振って歩き出す。
「ぬぅおおおおおうわちゅああああああん! おかえりいいいいいいい!! 」
直後、野太い上にもの凄いでかい叫び声がノアちゃんの家から聞こえた。
「……よし。絶対に関わらないぞ」
嫌な予感しかしなかったので聞こえなかった事にして家へと帰った。
「なぁ白雪、ちょっといいか? 」
帰宅後、白雪にノアちゃんについて相談してみることにした。
「へー。うぃっちがねー。まぁ適当に付き合うのもどうかと思うからその判断で良かったんじゃない? 」
「うむ。さすがモテ王である俺だな。選択は間違えていなかったか」
「え? モナ王? それならもう食べちゃったけど」
「モナ王じゃねーよ!!! なんで俺がモナカアイスみたいになっちゃったんだよ! 」
っていうかそれ俺の分じゃねーかよ。
「うはは! それにしても凛。早速正体バレたの? 物凄いアホね! うはは」
白雪にアホって言われた! 悔しい! 悔しいけど何も言い返せなくて更に悔しい!
「まぁ童貞だから仕方ないかーうはは」
「おいちょっと待て、今のどこに童貞であるかどうかが関係してたんだおい」
酷い暴言だ。訴訟も辞さないぞ。
「うーん。じゃあ私が凛の彼女になってあげようか? そしたらうぃっちも諦めるんで無い? うはは」
「えっ!? い、いやぁ。それはちょっと」
「いや、なんでそんな照れてるの……流石童帝」
「おいてめー今童貞の貞の部分が帝になってただろ。なんだ? 俺は王なのか? 童貞の王なのか? 」
ちょっと乗ってやっただけなのになんて奴だこいつ。
「まぁとりあえず、うぃっちに秘密を握られちゃったんだから気を付けないとね」
「おう」
でも、きっとノアちゃんは俺の秘密をバラしたりはしない。そんな気がする。