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Eis und Eisen 氷と鉄の世界兵器  作者: テータッセ
第一章 歯車
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第五話 Leutnant

「それで、一体どうするおつもりですか? 参謀長」

中年の参謀副長が、窓辺にたたずむ参謀長に尋ねた。

 参謀長はため息をつく。風は日ごとに冷たくなり、彩られた葉を散らせている。

 つまり、彼女の仕事が増えていくということだ、と彼はひとりごちた。

 窓の外では、あのわがままな少女が落ち葉掃きに専念している。

「あれから1週間。ずっとあの調子だ。よくもまあ懲りずに落ち葉掃きなんかを続けるよ。我々がわがままを聞くまで、庭師にジョブチェンジしたままなのだろうね」

「ですが、あんなことがあった以上、あまり待つことはできませんよ。我々があきらめるしかないかと」

「そうだね……。彼女の気持ちはよくわかるのだよ。彼女は政治の犠牲者だ。連れてこられて、2年間もこの建物に閉じ込められ、文句も言わずにセクシャル・ハラスメントに耐えてきた。いくらフェーゲラインの英雄とはいえ、彼女の年齢を考えるべきだったよ」

彼はゆっくりと窓辺から離れ、革張りのイスに腰掛けた。

「大切な時間を無駄にしてしまった。それに、彼女のあんな姿を見るのは、もう疲れたよ」

「お言葉ですが、あの無愛想な中佐にお子様の姿を重ねるのは……」

「いいのだよ。あの無愛想でも、どこか可愛いのは子供のいない君にはわからないだろう」

「……失礼しました」

机の上に置かれた書類を取り上げ、彼はそれを真剣なまなざしで見つめる。

「あんなことがあった以上……、常識や壁は気にしてはならん。腐った人材はすぐに捨て去り、より若く優秀な者をあらゆるところから連れてくるのだよ」

「では、やはり彼女の要求を呑むのですか」

参謀長の翡翠色の瞳が鋭くなった。

「そうだ。我々はこの1週間を無駄にしたわけではあるまい? 彼女の要求を呑むか呑まんかはかかわらず、異動のリストは完成させたのだ。このリストは完璧だ。これにつぎ込まれた参謀部の労力を無駄にはできんよ。事態は我々の想像を絶する速度で動き始めてしまった」

その言葉に、生真面目な参謀副長はすばやく内線電話を用意した。

「ああ。『召集』を始めたまえ。ノルマは、全員を今から5時間以内に入れ替えることだ」

「了解」

部下に内線で命令を下す参謀副長を眺めながら、彼はため息をついた。ここしばらく吸った息のほとんどが、ため息となって出ていっているようだと彼はひとりごちる。

「黒の皇帝よ、新しいメンバーであれば、彼女は心を開けるだろうかね?」

「きっと大丈夫だ。心配することはない」

虚空につぶやかれた言葉に返事がくる。真っ黒なクロークがさらりと揺れた。

「戦場の香りが彼女を変えるよ。それと共に、新しいメンバーもそれぞれに成長するだろうよ」

黒づくめの気品ある男は、そっとロイヤルブルーの瞳を細めた。



 司令部はにわかに騒がしく、落ち着きがなかった。駐車場から何台かの車が出ては、また帰ってくる。それは司令部の中でも同じであり、廊下には将校が大股で行き交っていた。

 司令部の警備にあたっている警衛隊の兵士たちは、またかと肩をすくめて知らぬふりをしていた。一介の兵士でしかない彼らも、司令部が抱える機密の存在を知っている。その姿が目を疑うようなものであっても、彼らはこういう土地だから、そんなこともあるだろうと思っている。彼らは自分の身の程をよく理解しているのだ。だから何も追究しない姿勢を取っていた。

 1週間前にやってきた青年が、今度はグレーの制服に身を包んで連れてこられているのを目撃しても。

 ヘルマンは困惑を隠せずにいた。急ぎ足で歩く上官に渋々ついていきながら、しきりにあたりを見回す。彼には言いたいことも聞きたいことも山ほどあったが、失礼かもしれないと口に出さなかった。だから、ようやく前を行く上官が足を止めて扉のひとつをノックした時は、やっと説明してもらえるのかと安堵した。

「入りたまえ」

聞き覚えのある声に、ヘルマンは緊張を和らげるとともに不安を覚える。参謀長の執務室にうやうやしく入った彼は、迷わず参謀長に敬礼した。

「ハンブルクからはるばるご苦労だったね。それとも、彼の車の乗り心地は悪かったかね?」

上官は肩をすくめて出て行った。

 参謀長は緊張するヘルマンに、穏やかな笑みを浮かべてみせた。

「いえ、大丈夫です」

「あと3人で、全員『召集完了』。まだ2時間は残っているよ。相当に急いだのだろうね」

時計を見て満足そうに笑う参謀長。

「失礼します、参謀長……」

ヘルマンは失礼を承知で口を開いていた。相当に急いだというのは本当だ。彼はわけも聞かされずに、着替えて支度をして車に乗れ、と命令されて来たのだ。拉致されたような気分だった。

「訊きたいことがいっぱいあるだろうね。かまわんよ、君には私が説明しようと思っていた」

「それは、恐縮です」

参謀長はイスに腰かけた。

「ところでアイゼンシュタット君。君の父が存命だったころは、毎日のように君たち兄弟の自慢話を聞かされていたよ。彼は砂漠で戦っている間も君たちのことが心配だったようでね、無責任にも私に『死んだら、息子たちをよろしく』とまで言い出すのだよ。その時はまさかと私も鼻で笑ったがね、彼は戦死した」

「…………」

ヘルマンはそんなことは知らなかった。両親を失ったものの、国からの補助金や生命保険が入り、親戚が面倒を見てくれたりと生活に困ることはなかった。

「彼が死んで、奥さんも亡くなり、君たちのことが心配だったが、私は君たちに何もしてやれなかった。私の助けなど必要ないようだったしね」

「そんな……、その気持ちだけで十分でしたよ」

ただ、参謀長はいつも兄弟に助言をくれた。彼の存在があってこそ、ヘルマンは参謀将校を目指そうと思ったのだ。

 しかし、参謀長は首を振った。

「私は君に謝らねばならん。君は軍大学で主席の成績を守り続けている、金の卵だ。ぜひ我が参謀部に入り、ゆくゆくは連邦軍総監部で活躍してほしかった」

ヘルマンの背中に、嫌な汗が伝った。なぜ過去形になるんだ。そう思っても、理由を説明されるまでもなかった。だが、できることなら、耳をふさいで彼の言葉を聞かずにいたかった。しかし、現実は残酷で確実に彼を絡め取っていく。

「君は、軍大学を卒業することなく、この司令部で働くことになった。参謀にはなれず、別の仕事がすでに与えられているのだよ」

どういうことか、ヘルマンにはよくわからなかった。そう疑問を口にしようとしても、参謀長の表情は真剣で、明らかなリアリティをはらんでいた。

――参謀にはなれない。

 疑う心の壁を越えて、その言葉が胸に響く。

 そんなことを彼の口から聞かされるとは、まったく予想だにしていなかった。よりによって、尊敬する人の口からその言葉が吐かれるとは。

 ヘルマンはその言葉を反すうし、めまいを感じた。はぎとられ、押し付けられ、プライドなど引き裂かれた。彼の中で、夢が砕かれ塵になっていく。

――なら、一体何が残っているのだろうか。

 今まで、一筋に勉学に励み、訓練も積んできた。しかし、夢を取り除けば、彼の経験や生活は何の中身もなくなってしまった。愛想笑いを浮かべ、あいまいな関係を持つだけで特に親友もいない。恋愛などもってのほか。

 彼は苦しみの果てに、自己否定に至った。

――なんて馬鹿馬鹿しい青春を送ってしまったのだ。

 彼は参謀長と目を合わせられなくなった。

 こんにちは、湯呑みです。

 何だか絶望的ですが、大丈夫ですよ。きっと。


 資料としてドイツ連邦軍の制服の画像を探したりするのですが、いつもナチスの方の画像が出てきます。

 みんな、ナチス親衛隊の制服(黒いの)好きですねえ。

 私も好きですが、ドイツ連邦陸軍の制服はもっとかっこいい、と自分は思うのです。


 そんなこんなで、次回もよろしくお願いします。

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