プロローグ
2030年、8年間続いた第三次世界大戦はようやく幕を下ろした。極東の2発の核ミサイルから始まったこの戦争では、多くのミサイルが各国の上空を飛びかい、大地に穴をあけた。
大戦のうち、2026年からはヨーロッパに戦場が移り変わった。かつて融合と平和を唱えていたはずのヨーロッパ。だが、戦争のころには同盟を捨て、いがみ合っていた。混乱のうちにミサイル防衛システムは異常をきたし、先進国でさえミサイルを浴びた。
誰が戦争を始めたのか。なぜ防衛システムは機能しなかったのか。
人々の不信は戦後も消えず、くすぶったままだ。
そんな戦時下、あるヨーロッパの小さな帝国だけはミサイルの被害を受けなかった。一握りの被害は、隣国のため派遣した軍のもののみ。
かの国は国連に国と認められていない。しかしながら、どうしても否定することのできない、長い歴史を持つ国であった。
北ドイツのとある場所に隠された真っ白な門。そこをくぐる権利ある者は、はるか昔に旧大陸から失われた景色を見た。
神話、民話、おとぎ話として語られる今はなき旧大陸の文化。その小さな玉手箱である。
ヨーロッパ人はその平和の地をたたえて、フェーゲラインと呼んだ。
外の世界では戦争が終わり、巨大な損害の反動としてか科学排除思想が広まった。これ以上の進歩を望まず、過去の栄華に酔いしれる。人々はフェーゲラインを渇望した。唯一の国境である、北ドイツに置かれた白い門を見つめ、一目でもその豊かな自然と異端な姿を見たがった。
奇跡に酔う彼らを尻目に、いまだ科学を信奉する者はいた。弾圧される少数派は、息を潜めながらこの異常な社会の風潮が過ぎ去るのを待つ。
2つの勢力の対立は日々深刻化していき、科学主義者のうちからカリスマ的なまでの力を持った、武装派が登場した。
カドケウス――本部がどこか、リーダーが何者かすらわかっていない。彼らは懐古主義思想を一掃するため、懐古主義者たちが作った現体制を崩壊させようと目論んでいた。
各国首脳たちは、戦後復興の一段階として彼らの撲滅を目標とした。懐古主義者たちは争いを望まない。争いをもたらすカドケウスは敵だった。
そしてある日、フェーゲラインの唯一の隣国であるドイツの首脳が、帝国に招き入れられた。国内の紛争で一役買った英雄を、兵器としてドイツに貸し出そうとしていたのだ。
しかし、フェーゲラインは懐古主義者たちの味方ではなかったらしい。世界は新勢力を含んだ3つの勢力の争いに、突入していく。
はじめまして、湯呑みです。
これから、なるべく一週間に一度のペースで連載を続けていきます。
手探り状態ですが、どうかよろしくお願いします。
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