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昼と夜と異世界と……  作者: 鴇~トキ~
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プロローグ2~友達の輪~

「ペケー! マルー! 今日のサークルの飲み会には参加するの!?」

 急に講義が無くなって暇を持てあまし,学食で時間を潰そうと移動していたオレ達の後ろから,肩を叩きながら一人の女子が話しかけてきた。女子の名前は「秋月 優羽」,同じサークルの二年生だ。ちなみに「ペケ」というのはオレのあだ名で,「マル」というのは真昼のあだ名だ。

 あだ名の由来は実に単純で,オレの左目尻には小さなバッテンの傷があるので「ペケ」。真昼は小さなまん丸の眼鏡を掛けているので「マル」。どうやらオレ達が双子だと言うこともこのあだ名を決めるのを手伝ったとか……×と○か。

「いくよー。ゆっちーは行くのー?」

 どことなく母さんの話し方に似ている間延びした返事をした真昼に,優羽は笑顔を向ける。

「私が行かないわけないじゃん! ペケは? マルが来るんだから来るよね?」

「あぁ,今夜は師匠に用事があって,剣術の鍛錬が中止になったからな。」

「おぉ? やったー! じゃあじゃあ,私が隣でお酌してあげるねっ。ペケとマルの間に座るから,その席予約でよろしくっ。」

 優羽は元気よく言うと,返事も聞かずに手を大きく振りながら走り去っていった。

「まるで小さな台風だな。」

「だねー。」

 まだ四限目だということもあり,いつもは戦場の様な学食はそのなりを潜めていた。オレと真昼は手近な席に陣取り,しばらく他愛ない話をして時間を潰した。

 話題が一区切りすると,真昼は鞄から本を取り出した。流石に外なのでオカルト系の本ではなかった。どうやら最近の流行だと友達から渡された物らしい。

 真昼が本を読むのをボーっとながめていると,ドッと人が押し寄せて来た。どうやら四限目が終了したようだ。

「騒がしいし,いつもんとこ行くか?」

 オレがそう訪ねると,真昼は頷いて本をしまった。二人して席を立ち上がり,人の流れに沿って人口密度が低い方へと進んでいく。さして苦労すること無く人混みを抜け出したオレと真昼は,一番古い一番学舎と呼ばれる建物に向かう。もう使われていないその建物は大学内の端っこにあるので,滅多に人が通ることはない。鬱蒼と茂る木々の間から差し込む木漏れ日に目を細めながら暫く進むと,目的の建物に到着する。その建物の横に,ちょっとした隙間があるのだが,そこをすり抜け裏側に出ると目の前が一気に開ける。表から見ただけでは分からないが,鬱蒼と茂る木々がそこだけ何かに切り取られたかのようになっており,ポッカリとした空間があるのだ。昼間に来ると太陽がちょうど上からその空間を照らすので,温かく昼寝にも最高のポイントだと言えるだろう。端っこに位置するので移動に時間が掛かり,昼休みの前か後の講義がない時にしか来れないが,オレはここを気に入っていた。

「ほれ,今日の分な。」

「ありがとー。」

 オレは太陽に照らされフサフサになったちょっとだけ長めの芝に腰を下ろすと,鞄から弁当箱を二つ取り出し一方を真昼へと渡した。

「いただきまーす。」

「おう。」

 今日の弁当はハンバーグにポテトサラダ,鶉のゆで卵に特性のタレを塗った海苔をご飯に二枚挟んだものだ。真昼はこのタレが好きらしく,毎回白いご飯を箸でつつくのを楽しみにしている。オレはそんな真昼の反応を見て楽しんでいるのだが,海苔入りで「わーぃ!」と喜んでいる真昼には気付かれていないだろう。

 お昼を挟んでいるどちらかの講義が休みの場合,オレ達はここにやってきてのんびりするのが日課になっていた。

「ごちそうさまー,修夜。おいしかったよー。」

「お粗末様。」

 真昼はいつも「おいしい。」と言ってくれるが,たまに創作料理に失敗すると「まずいよー。」と言うので,お世辞とかではない素直な感想なのだろう。

「そういえば修夜。父さんの夜ご飯はどうするのー?」

「ん? 普通に作ってから行こうと思ってたんだが,何かあるのか?」

「いやさー,今日は特別講義で帰るのが遅くなるから,どうするのかなーっと思っただけー。」

「あー……,そういやそうだったな。急いでも遅れそうだし,真昼は先に行っててくれ。」

 オレは真昼に答えながら弁当をしまうと,そのまま芝の上に横になった。

「いやー,買い物もあるだろうし,僕も修夜と一緒に行くことにするー。」

「いいのか?」

「いいよー。ゆっちーにメールしとくねー。」

 そんな会話をしながらしばらくのんびりして,オレ達は午後の講義に向かった。講義中に優羽から「席は確保しておくから,急いでくること!」とメールが入った。適当に返信して,電源を切る。オレは講義に手を抜かない方なのだ。

 講義が終わってから携帯の電源を入れると,メールが三件来ていた。二つは優羽からのどうでも良い内容だった。最後の一つは親父からで,仕事で晩飯を外で食うことになったという内容だった。

「真昼,親父の晩飯作らなくて良くなったぞ。仕事らしい。」

 言いつつオレは携帯を閉じるとポケットに突っ込んだ。

「そかー,じゃあ遅刻しなくて済みそうだねー。」

 そう言って真昼は携帯を取り出してポチポチしだした。きっと優羽にメールを送っているのだろう。いつの頃からだったか,二人で用件があるときには真昼が代表で連絡をする様になっていた。それでも優羽はオレにもメールを送ってくるのだが,オレはたまにしか返事をしない。優羽も別に返事を求めているようではないので,このスタイルが定着している。

 本日最後の講義が終わって講義室を出ると,廊下で優羽が待っていた。

「やぁやぁ二人とも,おつかれさん! 一緒に行こっ。」

 そう言って,オレと真昼の間に突っ込んできて腕を抱える。

「ちょっとー,ゆっちー危ないでしょー。」

 オレも真昼もとくに振りほどく様なことはせずそのまま歩き出したが,何歩か歩く度に優羽が腕にぶら下がっては真昼がふらつき,お互いに文句を言いあっていた。

 そうしている内に,行きつけの……というほど来ているわけではないが,サークルで集まる時にいつも利用している飲み屋に到着した。

「ほら,いつまでやってる。着いたぞ。」

 未だにじゃれ合っていた真昼と優羽に声を掛けると,オレはさっさと店に入った。

「ちょっとペケ! 昼間の約束覚えてる!?」

 後ろでうるさい優羽をスルーしてオレは店内を見渡す。と同時に店員がやってくる。

「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「イエローコートで六名予約した者でっす!」

「どもー。」

 真昼はともかく,オレはオレと店員の間で飛び跳ねながら答えた優羽の頭を押さえつける。

「跳ねるな。」

「うぐ。」

「ごめんねー。」

 オレが優羽を大人しくさせると,店員は笑顔で右手にある階段を指した。

「お部屋は二階の竹の間になります。」

「やったー! ついに,初めての二階っ。楽しみだね,ペケ! ほら,マルも!」

「ちょっ!?」

「引っ張るなって……。」

 二階と聞いてはしゃぐ優羽に手を引かれ,オレ達は階段を上った。

 竹の間には既に他の三人メンバーが揃っており,奥の席に横一列で座っていた。

「おっ? みんな早いねぇ。待った?」

 さっきまでのテンションがちょっと下がって申し訳なさそうにする優羽に答えたのは,部屋にいた三人の内唯一の男で,同じ二年生「阿部 徹」だ。

「気にするなよ優羽。つか,俺らも今来たことだしさ。」

 そう言って男は胸ポケットからタバコを取り出し,火を付けた。灰皿を見ると綺麗なままだったので,今来たばかりというのは本当らしい。

「ありがと,徹っち。」

 優羽はフォローしてくれた徹にお礼を言うとその向かいの席に着き,オレと真昼を両サイドに座らせた。

「こんばんは,優羽。ペケくんとマルちゃんも。」

 席に着くと正面に座った三年生の女子「久茂 千歳」がおっとり挨拶して来た。三年と言っても,学年が上なだけで,年齢的にはオレと真昼と同い年だ。

「こんばんは,ちーさんっ。杏里もっ。」

「おう。」

「ばんわー。」

 オレと真昼は一言返事をし,優羽は徹を挟んだ千歳の反対側にいる二年生の女子「烏丸 杏里」にも挨拶した。杏里は優羽の挨拶に,コクリと一つ頷いた。

 ヘビースモーカーの徹にマイペースな千歳,寡黙な杏里に小さな台風優羽,それにオレと真昼がこのサークルのメンバーだ。元々は全員が大学の大きなテニスサークルにいたのだが,訳あってそこと訣別し,そして新しく作ったのがこの「イエローコート」だ。

「揃ったことだし,酒頼もうぜ。生のヤツー?」

 煙を吐き出しながら徹が言うと,全員がその手を挙げる。

「生6っと,後はテキトーで良いか?」

「オレは枝豆があれば後は適当でいい。」

「僕刺身食べたーい。」

「ポテトっ! 徹っちポテト頼んでっ!」

「たこわさ。」

「あら,杏里ちゃんわさび苦手じゃなかったかしら?」

「たこわさは,別。」

 そんなこんなで徹が注文を通し,暫くしてビールと枝豆が運ばれてきた。全員の手元にビールが行き渡ったのを確認し,優羽がおもむろに立ち上がる。

「それではっ。あの日ことを絆に変えて,これからも変わらぬ友情を! カンパーイ!」

 全員が優羽の後に続き「乾杯!」と言うと,一気にその中身を飲み下す。それはおしとやかな千歳や寡黙な杏里も例外ではない。

 これは,ある種の儀式かもしれない。あの日,オレ達が揃ってサークルを辞め,新しい居場所を作った時からの誓いの儀式。特に誰が言ったわけでもないが,オレ達の飲み会は毎回こうして始まる。サークルと言うよりは,居心地の良い仲間と共にワイワイ騒ぐのが目的の様なものなので,特に決まりやすることはなく,乾杯が終わるとお互いの近況報告や世間話に興じるのが常だ。

「しっかし,杏里はだいぶ話す様になったな。良い感じじゃねーか?」

 暫く,全員が思い思いに過ごしていると,徹が杏里の頭を撫でながら全員に問いかける様に言った。

「そうねぇ。欲を言えば,私たち以外の人とも普通にお話しできると良いんだけど……。」

「その内出来る様になるだろ。焦る必要はない。」

 千歳の呟きにオレが返事をすると,真昼も賛同してくる。

「僕もそう思うなー。ゆっくりで良いと思うー。」

 そしていつの間にか,全員が杏里に寄り添う様に集まり,広い部屋の中で一塊になっていた。

「何か,やっぱり良いねっ。」「何がだ?」「何て言えばいいのかな……この空気?」

「うん……。私も,好き。」「あらあら……。」「なんかさー,家族みたいだねー。」

「家族?」「そそー。徹くんと千歳さんの子供が……。」「ぶほっ!?」「うおっ!」

「ちょっとー! 徹っち汚いよっ!」「ちょ!? いや,だって……マルてめぇ!」

「あらあら,徹は私が相手じゃ嫌なのかしら。」「えぇ!?」「あははー。」「徹,顔,赤い。」

「う,うるせーっ。」「徹,とりあえず拭くの手伝え。」「え? あぁ,悪いなペケ。」

「気にすんな……パパ?」「あははー」「ペケもかよ!」「悪い,ついな。」

 こうしてじゃれ合える仲間がいるのは,正直助かっている。ここにいる全員が何かしらの悩みを抱え,そしてそれを打ち明け合っている。時にはそのことについて遠慮無く相談し,互いに助け合っている。母さんのことも……。

「……修夜?」

「ん?」

 全員で騒いだ後,一息ついてちょっとボーッとしていると真昼に声を掛けられた。

「大丈夫?」

「大丈夫だ。少し,母さんのことを考えていた……。」

「そっか。」

「あぁ……。」

 オレは沈み込みそうな思考から抜け出し,心の中で真昼に感謝しながら立ち上がる。

「どこいくのー?」

 いつもの間延びした問いかけに,オレは笑顔を向ける。

「トイレだよ。」

 気分を落ち着けて戻ると,真昼が全員に揉みくちゃにされていた。それを見て俺は思わず吹き出した。

「修夜。笑ってないで助けてよー。」

 本当に,こいつらには助けられる……。オレは笑いを堪えながら近づき,そして躊躇無く真昼を襲う側に混じるのだった。

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