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輝ける星光  作者: 輝ける星光
乗艦
9/28

円描く刀身と氷柱突き刺す言葉

執筆者:ウラン

rina-side


 あたしはリーナ・シュペルスワン、妖魔の中の水魔という存在。

 秘境『グランレイ魔湖』で生まれ育った。

 そこは美しい湖を中心に小さな家の集まる、素朴で、しかし綺麗な場所。

 あたしはその場所が好きだった。いや、今でも好きだ。

 しかし、最近近くに人間がたむろするようになった。

 どうやら、グランレイ魔湖を探しているらしい。

 秘境というだけあり、そう簡単に見つかるはずもないので始めは放っておいたのだが、遂に奴らはグランレイ魔湖を囲む森を切り倒し始めた。

 そこで奴らの目的を調べてみた所、グランレイ魔湖に漂う大量の魔力を利用して何かを造ることだととわかった。

 たしかに、グランレイ魔湖には多大な魔力が存在していることは幼少の頃から知っていし、あたしもそこで魔法の修行をしてきたのは事実だ。

 魔力を利用することはまったく構わないのだが、その効率を上げるためにグランレイ魔湖へ機械塔を設置するというのが許せなかった。

 グランレイ魔湖の美しさを奪うなど、あたし達からすると愚行以外の何ものでもない。

 あたし達はやめるよう訴えかけた。だが、人間達はそれを受け入れるどころか反発したあたし達の仲間を攻撃し、酷い時は死者まで出た。

 ――あたしは、人間が嫌いになった。



 作業服を着ている誰かがグランレイ魔湖を囲う森を歩いている。

 ――人間だ。

 あたしは迷わず、魔法の詠唱に入った。

「~~~~~~~~」

 人間があたしに気付いたようだが、もう遅い。

 あたしが手をかざすと、あたしの頭ほどの太さを持つ3mほどの氷柱が現れた。

 それを人間に向かって飛ばす。

 人間は腕を交差して身を守ろうとしたが、氷柱はその腕ごと人間の頭を砕いた。

 ――もう、何人殺したか覚えていない。

 少なくとも30は殺したと思うが、正直どうでもいいことだった。

 人間だってあたしの仲間を殺したのだ、文句は言えまい。

 ……いや、言わせない。

 あたしは水魔の中でも上位に入る強さだ。

 魔法だけなら、水魔一の自身がある。

 ――人間なんかに、負けるはずがない。

 というか、負けたことがなかった。

 そしてこれからも、負けるつもりは毛頭ない。

 思考を一時停止して向こうをふと見ると、また人間が見えた。

 まっ白い髪に黒い瞳を持つ、15、6くらいの少女だ。

 腰に二振りの刀を携え、背中には刀の倍くらいの棍を背負っているという、異風の出で立ちだった。

 キョロキョロ周りを見わたしているを見ると、どうやら迷ったらしい。

 ――今までの奴とは違う。冒険者だろうか?

 だが、何故か黒いアンダーシャツに紺のハーフパンツ、その上には金属性の防具は一切ない。

 動きやすさを重視しているのかと思ったが、やはり森に長ズボンではなくハーフパンツを穿いているのは不自然だ。

 ――いや、そんなことはどうでもいい。

 人間は殺す。

 作業員であろうが冒険者であろうが、作業服であろうがハーフパンツであろうが、子供であろうが大人であろうが、男であろうが女であろうが。

 あたしがやることは、変わらない。





raguna-side


 ――思いっきり迷った。

 あ、今の嘘。

 私は現在、過酷な状況に自ら身を置き、耐え抜く訓練をしているのだ。

 しているったらしているのである。

 そんなわけで、助けを求めるべく森を歩き続けている。

 ……あ、ん、いや、過酷な状況の中、どれだけ迅速に、かつ消耗を抑えて助かるかの特訓だ。

 しかし、森の中でアンダーシャツにハーフパンツは流石に寒いな。

 まぁ、野宿していたら、寝ぼけていたのかいつの間にか森の中でさまよっていたのだから、寝巻のままなのはいたしかたない。

 ……あ、っと、そう、そういう設定なのだ。うん、どんな格好の時に森で迷うことになるかわかんないしね、うんうん。

 ちなみに腰の二振りの刀と背中の棍は基本装備ね。もしもの時のため、野宿に武器はかかせないのだ。

 いやまぁ、だったら服装もちゃんとしろって話だけどね。うん、いつもはちゃんとしてんだけどね、今日は何て言うか、何となくそんな気分だったのだよ。

 とか何とか私が試行錯誤を繰り返していると、突然物凄い音が聞こえた。

 何かこう、人の頭ほどの太さを持つ3mくらいの氷柱が人間の頭でも腕ごとかち割ったような音だ。

 とりあえず、人為的な行動なのはあきらかなので、そちらに近づいてみる。

「~~~~~~~~」

 魔法の詠唱らしき声が聞こえたので、咄嗟にその場から飛び退く。

 すると、さっきまでいた所に氷柱が突き刺さった。

「流石は冒険者、身のこなしが違うわね」

 と言う声と共に、一人の女が現れた。

 みたところ、私の(容姿的)年齢と同じくらいの少女だ。

 ピンクの髪に蒼く澄み渡った目。

 その目と同じ蒼のワンピースを着ている。

 ……寒くはないのだろうか? いや、私の言えた義理ではないのだけれども。

 まぁ、とにかく、氷柱を放ったのは彼女ではないかと思われる。

 これは刺激するべきではないだろう。もっとこう、オブラートに話し掛けて。

「……いきなり、何?」

 はい無理でしたー。

 ザ・無愛想。

 私にオブラートとか期待するのはとんだ間違いだったね、うん。

「命が惜しかったら、さっさとここから立ち去りなさい」

 いやいや、立ちされたら立ち去ってるっつーの。

 ――っは! これはこの森から抜け出せるチャンス到来!?

 ここは気がついたら森にいて、途方にくれていたということを告げようではないか。

 ……訓練? 何の話?

「……無理」

 はい私まずったー!

「……へぇ、やるき? いっておくけど、あたしはそんじょそこらの雑魚とは違うわよ?」

 いやっほう! 戦闘フラグ成立っ!

 とまぁ、何かテンションがおかしくなってきた私っ。

「~~~~~~~~」

 とかなんとかしていると、氷柱の少女は詠唱を唱え始めた。

 私はすかさず、背中の棍を手に取りながらその場を離れる。

 氷柱が地面に突き刺さる音を聞きながら、私は少女との距離を一直線に詰める。

「~~~~~~~~」

 少女がまたもや詠唱を始めるが、私は彼女の視線が一瞬右にいったのを見逃さなかった。

 少女の詠唱が終わるも、氷柱も何も現れない。

 私は少女に棍がギリギリ届かない(・・・・)くらいの所で止まり、棍を右手で振り上げ、右側(・・)に叩きつける。

 棍はガシャンッ、とガラスでも割るような音をたて、右側から迫って来た氷柱を砕いた。

「――っ! この――」

 少女が再び詠唱を始める前に私は棍を手放し、刀を片方抜いて少女の首筋に切っ先をあてる。

「……私の、勝ち」

 それでも詠唱を始めようとしていた少女は、私の言葉を聞いた途端、諦めるように全身の力を抜いた。

「あたしが人間に負けた? 嘘、でしょ……」

 まぁ、私はただの人間ではないのだが。

 というか、少女の言葉から察するに、彼女は人間ではないらしい。

 見た目は人間なのだが。まぁしかし、今ではよくあることだ。

「一体どうして、あの攻撃がわかったの?」

 あの攻撃とは、フローム死角氷柱のことだろう。

「……詠唱が、微妙に違った。あれは、視点を任意の位置にずらすもの」

 それと、と私は続ける。

「目線が一瞬、私から見て右に逸れた。決定的」

「そんな、無茶苦茶な……」

 まぁ確かに、普通は一生かかってもできないことだろう。

 がしかし、3000年という莫大な経験があれば話が別。

 ――いや、それよりもあの計画での訓練の比率が高い、か。

「……ふぅ」

「…………え?」

 私は少女の首筋から刀を放した。

 刀を鞘に収め、棍を拾い上げて背中に掛ける。

「――ちょっ」

 これ以上私が何か言ったところで、少女を刺激するだけだろう。

 ……無愛想だからね。

 まぁ、例え少女がまた氷柱を投げてきたところで、私を倒せるはずもないしー。

 うん、彼女は放っておいて、話の通じそうな人を捜すとするか。

 私は少女に背を抜けて歩き出す。

 あれ? また誰かに会っても、私の対人能力じゃ結果は同じなんじゃね?





rina-side


 あの冒険者がどこかへ行った後、あたしはグランレイ魔湖の村へと戻って来た。

 家に帰ってからずっと自室に籠っている。

 両親はあたしの様子を察して一人にしていてくれている。

 ありがたいと思った。

 ここにはやさしい家族がいる。

 ううん、それだけじゃない。

 やさしくて、温かい村の皆もいる。

 だから、ここを人間なんかに汚されるわけにはいかない。

 だからあたしは人間を葬ってここを守ろうとしたし、実際していた。

 でも、今日あの冒険者に思い知らされた。

 そこら辺の雑魚を倒していい気になっていたのはあたしの方で、結局あたしは守っていたのではなく、守っていたつもりだっただけだと。

 ……あたし、一体どうすればいいんだろう?


 突然、バキィッ、という派手な音が響いた。

 あたしが家を飛び出すと、真っ先に赤黒い巨体が目に入った。

 ――魔物だ。

 ぬめぬねした(うろこ)に大きな(ひれ)、大きく扁平(へんぺい)な頭部と幅広い口に長い口ヒゲが特徴的。

 どうやら魚類の魔物のようだ。

 村の皆が応戦している。

 あたしも参戦しようとして、違和感に気付いた。

 ――誰も、魔法を使っていない?

 妖魔は魔法が得意な種族。なのに、何故誰も魔法を使っていないのだろうか?

 その疑問はすぐに解消された。

 魔物の周りに魔力に集まる。

 途端、強い光と爆音が響き、地面がえぐられる。

 ――電撃、か。

 水魔というだけあり、あたし達は水をベースとした魔法を使う。というか、それしか使えない。

 水魔としての伝統が、プライドがそうさせた。

 得てして水とは電気を通すものだ。

 故に、魔法を使って水をばらまくようなことをしたら、余計にこちらが不利になるだけ。

 だから誰も魔法を使っていないんだろう。懸命な判断だ。

 でも、

「~~~~~~~~~~~~」

 あたしは先程の倍はある氷柱を作り上げた。

 ――氷は電気を通さない!

 氷柱が魔物に向かって飛んでいく。

 ――刺さった、と思った。思ったけど。

 氷柱は魔物に届く前に解けきった。

 そんな、そんなはずが、あるわけ……。

 魔物を覆う電撃の層、そこから発せられる熱が、魔物に届く前に氷柱を溶かしきった。

 理論ではわかる、わかるが、信じられない。

 こんな強力な魔物が一体どうして?

 まさか、グランレイ魔湖に漂う魔力に何か関係が?

 その時、あたしは考えに気を取られすぎて、完全に無防備だった。

 そのため、魔物のヒゲがあたしへと迫っていることに気付いた頃には、もう避けられない距離となっていた。

 やられる、とあたしは目を瞑る。が、一向にヒゲがあたしに当たってこない。

 恐る恐る目を開くと、

 ――あの冒険者が、二振りの刀を交差してヒゲを受け止めていた。

「……ナマズ?」

 冒険者が呟いた。

 ナマズ? 何それ?

 冒険者はヒゲを弾き、片方の刀を鞘に納めて背の棍を取り出す。

 そして柄頭と棍の一端をくっつけて、軽く回す動作をする。

 そうしたら、刀と棍が接合し、持ち主の身の丈を上回る薙刀となった。

 それを魔物に向かって振り下ろす。

 ――まずい、あの刀も棍も明らかに貴金属。

「だめっ、そいつは――」

 あたしの言葉が届く前に、冒険者は魔物の顔を切り裂いた。

 魔物に深々とした傷が残ったが、致命傷というほどではない。

 それよりも、冒険者の方が問題だった。

「……あいつ」

 冒険者は組み立てた薙刀を落とし、両腕をだらんとぶら下げている。

 魔物を覆っている電気で痺れたのだろう。金属の武器で直接攻撃するなんて無謀以外のなにものでもない。

 しかし、頼れるのはこの無謀な冒険者しかいないということも事実なので、近寄って魔法で治療をする。

「……君は、さっきの」

「今痺れをすこし和らげたわ。でも、完全に痺れが取れたわけじゃないから過信しないで」

 冒険者は頷き、再び薙刀を構える。

「ちょっと! あたしの言ったこと聞いてた?」

 冒険者は無視して魔物に跳びかかる。

 ……あれは他人にまったく頼ろうとしない奴の動きだ。

 確かに、あれだけの実力があったら自分の力を過信してしまうのはしかたのないことだ。でも、だからって……。

 冒険者の姿を再び見て、あたしは本当のことに気がついた。

 ――違う、あの娘は自分の力をちゃんとわかっている。だからこそ、今の状況ではああするのが一番効率的なのを知って……。

 もう、意地を張るのはやめよう。

 あの冒険者だって身をていしてあたしを守ったんだ、今さら人間がどうこう言ってられる場合じゃない。

「~~~~~~~~」

 あたしが詠唱を唱え終えると、魔物の体が水の膜に覆われた。

 水は不純物を含んでいるために電気を通す。

 だが、そうではない純粋な水ならば話は別。通すどころか電気を遮断する。

 でも、不純物がまったくない水を作るのは困難で、水魔一と自負しているあたしでも攻撃に使うほどのことはできない。

 せいぜい、こうやって膜を張るのが精一杯。

 しかし、感電を防ぐ程度のことくらいはできるだろう。

「これで大丈夫よ!」

 冒険者はこちらを見て頷き、また魔物の方を向く。

 すると、今度は鞘に納めてあったもう一振りの刀を抜いて、薙刀のもう一端と柄頭を付ける。

 あの軽く回すような音。

 薙刀は、双方に刃を持つ『二刀棍』となった。

 冒険者は二刀棍の刀身が円を描くように回し、魔物を切り裂く。

 切る切る切る切る切る。

 斬撃の嵐が魔物を襲う。

 ――あの堅そうな鱗をゼリーでも切るかのように軽々と、和らげたとはいえ痺れた腕で……

 彼女は何者なんだろう? あたしはふとそんなことを思った。

 数分後、遂に魔物は絶命した。

 あたし達は冒険者に礼を述べると、彼女はおもむろに口を開いた。

 その場に緊張が走る。

「……迷った」



 その後、彼女はあたしの家でご馳走した。

 あたしが得意の手作りお菓子を振る舞うと、彼女は気絶するくらいよろこんでくれた。

 素直にうれしかった。

 あたしは彼女を近くの町に案内する役を買って出て、彼女も快く了承してくれた。

 その道で彼女と色んな話をした。

 話してみればみるほど、彼女は不思議に満ち溢れていた。

 お菓子の話になると急に元々少ない口数がさらに少なくなったけど、きっとあなたはうれしいと口数が減るんだよねっ!

 町にさしかかり、あたしは思い切ってあの疑問を口にした。

 ――何で、あなたはそんなに強いの?

 すると彼女は、ははっ、と呆れたように、しかしながら自虐したように無表情のままで笑った。

 あたしはそれを見てはっとした。

 彼女は弱い。とんでもなく強いけど、もっと根本の所でとてつもなく弱いんだ、と。

 あたしは悟った。


 あたしはその後、自分がわからなくなって、彼女のように冒険の旅に出た。



 それから、実に100年の時が過ぎた。

 妖魔の寿命は人間の比ではないので、あたしは精々2、3歳くらい歳を取ったようにしか見えない。

 あたしは人間をあの頃よりずっと知った。そして、あの頃よりずっとわからなくなった。

 あたしより強い人間は一杯いた。

 もう、あの頃の過剰な自信が恥ずかしく思えるくらいに、人間は強かった。

 あたしは無償に、彼女に会いたくなった。


 ある日、アストライアという艦を見た。

 その迫力にあたしは圧倒された。

 すると、アストライアの艦長は乗員を探していると言う。

 あたしはその誘いにさっさと乗った。

 もっと、世界を見たかったから。


 すこしして、あたしは衝撃で倒れそうになった。

 彼女が、彼女が、あたしの彼女があの時のそのままの姿で現れたのだしかも乗員?マジでやったありがとうマイゴットあたしはあなたに一生ついていきますいやでもそれは彼女に悪いし感謝だけにしておきますでもいいですよね神をそれを望んでいるそうにちがいないうんまちがいない神様あたし達を見守っててくださいねうふふうふふうふふふふ。

 彼女は本当に変わっていなかった。

 妖魔のあたしでさえ2、3は歳を取ったように見えるのに、彼女は本当に、文字通り何も変わっていなかった。

 でも、彼女は人間。これは間違いない。100年の観察経験がそう言っている。

 だから、彼女は人間でありながら、人間や妖魔を超えた、もっと別の次元の何かなのだろう。

 まぁ、それでもあたしの気持ちに変わりはないもんね、うふふ。

 彼女はあの時のことを覚えていないみたいだけど、いいもんね! これから思い出をいっぱい、いっぱい作ればいいんだから。

 おっと、自重自重。彼女に呆れられたら大変。

 もっとこう、頼れる先輩! みたいなイメージを作り上げないと。

「……変なとこ、触んないでください。……お菓子? どうも。あれ、何このデジャブ…………あ゛ぅ」

 気絶するほどおいしかった? うふふふふふ………………。

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