影の英雄と呼ばれた男
執筆者:CORONA
「ああ……疲れた」
街の中心から外れ、人気のない広場で、背の高い黒髪の男、レリオが小型の飛翔艦に寄りかかっていた。
レリオは疲れたようにため息をつくと、煙草を取出して口にくわえる。
先程までここ、南大陸マーサレスの端に位置する街、ソーサラスは魔物の群れからの襲撃を受けていた。
街につめていた防衛部隊や、周辺に分布する豊富な遺蹟を目当てにソーサラスを訪れていた冒険者たちと協力し、魔物を撃退したのがほんの数十分前。被害は軽いものではないが、街が滅びたりすることはないようだ。現在は住民まで総出で復興作業を行っている。
「そなた、かなりの腕を持っているのだな」
先程の戦いの内容を思いだしながらライターを探していると、いつの間に近づいてきたのだろうか、蒼い髪の少女に声をかけられた。
「……お前も戦場にいたのか。 よかったな、生き残れて」
レリオのことを知っているということは、戦場にいたのだろう。記憶を思い返しても、少女が知り合いだという記憶はないため、ほぼ間違いない。
「うむ、確かに幸運だった。あれだけの魔物に襲われて生きていようとはな……」
やはり戦場にいたようだ。だとすればこの少女は運がいい、戦い慣れた冒険者や防衛部隊まで魔物に殺されていく中で、子どもにも関わらず生き残れたのだから。
「しかし、それはそなたのおかげだろう?」
「いや、俺は別になにも……」
「嘘をつくな、余が魔物に襲われそうになった時、助けてくれたのはそなただった筈だ」
思い出した。魔物に襲われかけたところをライフルで魔物を撃ち抜き助けた少女だ。その後、俺はこの少女と一言も話すこともなく行ってしまったため、すっかりと忘れていた。
「凄いものよな、あの乱戦の中で味方に的確な指示を飛ばし、見事なまでの射撃で味方に襲いかかる魔物を次々と倒しておった。そなたの活躍がなければ被害はもっと甚大なものになっていただろう」
「あの騒ぎでそこまで見てるとは…………嬢ちゃん、良い目してるな」
そういうとなぜか少女は不機嫌そうな表情を浮かべる。褒めたつもりだったのだが、何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか?
「余は女ではない。名はノイウェル・フォン・アルファルト、立派な男だ!」
「……お前が男だと?」
目の前の少女、もとい少年はノイウェルと言うらしい。しかし、こいつが男だとは……神はどこで間違えたのだろうか?
「そりゃ悪かったな、てっきり女だと思ってたよ」
「……まぁいい。少し聞きたいのだが、その飛翔艦はそなたのか?」
「これか?これは確かに俺のだよ。数年前から使ってる……ま、骨董品だけどな」
ノイウェルの示したものは小型の魔導飛翔艦、いわゆる戦闘機というものだ。新型の魔導飛翔艦が普及している現在、骨董品と言われても仕方がない代物だ。ちなみに魔導飛翔艦とは、魔力を原動力として動く、空を飛ぶ船のことである。
「そ、それではあれか?街の上空で魔物の群れと単機で戦っていたのはそなたなのか!?」
「あ、ああ……一応そうなるな」
ノイウェルがぐいっとこちらに迫ってきたので少し驚いた。
しかし、あれは本当に危なかった。地上の魔物の数が減ったので、上空の魔物をどうにかしようと1人で飛翔艦で上空へと向かったのだが、予想より数が多く、多対一というかなり厳しい状況に陥ってしまったのだ。その場はなんとか魔物を駆逐してことなきを得たが、次はどうなるか分からない。
「見つけた……とうとう見つけたぞ!リリナ、リリナはおるか!?」
「はい、ここにおりますノイウェル様」
何を見つけたのか疑問に思っていると、いきなりメイドが姿を現した。さすがにこれには驚いた。
「リリナ、ようやく我がアストライアにふさわしい操舵士を見つけたぞ!」
「はい、私も先程から話を伺っておりました。操舵士、また戦力と見ても彼がふさわしいかと」
何の話をしているのだろうか?それにしても、このリリナと呼ばれるメイド、会話を聞くに、少し前からこの場にいたらしい。………隠密のスキルでも持っているのだろうか?
「そなた、我らと共にくるつもりはないか?」
「……どういうことだ?話が見えてこないんだが」
いきなり、くるつもりはないか、と尋ねられても困る。こちらは何の情報も持っていないのだ。
「それについては私からお話しましょう」
それに気付いたメイドことリリナが説明を始める。
ノイウェル達が世界でもトップクラスの魔導飛翔艦アストライアで世界各地を冒険しようとしていること。そのためには人員が足らず、艦の運営すらままならないこと。そして、操舵士を探していたら俺を見つけたこと……。
「そりゃ面白そうな話だな」
話を聞き終え、一言そう呟くとノイウェルが「そうだろう!?」と目を輝かせながら迫ってくる。
話を聞くかぎりはとても興味がある。特に、アストライアとやらは触ってみたい。このまま過ごしても傭兵としてしか道はないのだ。断る道理もない。
「……よし、わかった。引き受けてやろうじゃないか!」
「本当か!?」
「ああ、別に断る理由もないしな」
「そうか、よかった……えっと」
「俺の名前はレリオだ」
そう言えば、まだ名前を教えてなかった。自分の名前を教えながら右手を差し出す。
「レリオか! これからよろしく頼むぞ!」
ノイウェルは嬉しそうに笑顔を浮かべながら握手を交わす。
これが、俺がアストライアの一員となった経緯だ。
最後に思ったのだが
「ノイウェル様に手を出したら殺します」
……これはどういう意味だったのだろうか。