追憶
執筆者:百合宮桜
どこまでも続く焼け野原。すべては己とその仲間を生かすための代償とはいえ、いささか大きすぎた。
こんな無益なものが何を生むのだろうか。そんなことを考えると上司から鉄拳が飛ぶ。目の前の生物を殺してからにしろ、ここは哲学を語る場ではないと容赦なしの鉄拳がである。
エレーナの無垢な笑顔を思い出す。ルイさんと慕ってくれた彼女。今はどこにいるだろうか……
思い出に浸っていると快活な声がした。
「兄ちゃん!」
「ジョン……」
無邪気な顔をした少年が駆け寄ってきた。ある女性と出会ってから人殺しを辞めた自分を助けてくれたその子供は今も慕い続けてくれている。自分にそんな価値はないというのに。
「兄ちゃん、兄ちゃんってば!」
気付けばジョンが自分の目の前で手を振っている。また思考の底に潜っていたようだ。
「あ、ああ……なんだ?」
「だ・か・ら! 夕飯だってさっきから言ってんじゃん! どーせ、またエレーナって姉ちゃんのこと考えてたんだろ? 兄ちゃんのムッツリ、ベタ惚れ!」
「うるせぇな。別にいいだろうが!」
「あ〜兄ちゃん、耳赤い! やっぱり人に言えねぇようなエロいことを……」
「考えてねぇよ!」
ゴツンと拳骨を一発ジョンに食らわせてスタスタとジョンの屋敷まで歩いて行く。
ジョンはこの辺一帯の地主の息子だ。当然ながら住んでいる屋敷もデカい。白塗りの土蔵のような建物。それがルイの居候先であり、ジョンの実家であった。
「ただいま〜」
「ただいま帰りました」
「ああ、おかえりなさい。もうすぐご飯が出来ますからね」
「はい。ありがとうございます」
「いいのよ、お互い様なんだから」
温かな笑みを浮かべながらジョンの母親はルイを抱きしめた。
夕飯の後、ルイは地主であるジョンの父に呼びつけられた。
「何のご用でしょうか」
ルイは努めて事務的に口調になる。個人的にこの男が苦手だった。恩人ではあるのだが。
「ふむ……実はな、家に出入りしている商人が面白い噂を持ってきたのだ」
「噂ですか?」
「そうじゃ。何でも面白い船があるらしい。名を高機動魔導飛翔艦『アストライア』と言って、このご時世に世界中を冒険しているとのことだ」
「冒険?」
「ああ。そなたも行ってみたらどうじゃ? 今ならまだこの近くの港、メルフェンに停泊しているようじゃ。探し人を探す効率も上がるのではないかな?」
「そう……ですね。明日、メルフェンに行ってみます」
「うむ。達者での」
「はい。お世話になりました」
翌朝、ジョンの家に別れを告げ、ルイはメルフェンへと旅立った。
これが運命の悪戯となるのは別の話である。