表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝ける星光  作者: 輝ける星光
アストライア初陣
21/28

帰還、『探査の結果得られた物』と『その恐るべき実態』について

執筆者:蠱毒成長中

―帰還後・アストライア内部研究室―


コンコン、ココン


「……誰だ?」

部屋の主・ハウエンツァは散らかり放題の部屋に寝転がりながら気怠そうな声で言った。

「スキンクで御座ェます。件の収穫物を持って参りました。解析をお願いしたい」

「解析だァ?テメェ、俺様が今物凄ェ重要な課題を遂行中だって事を知らねェでそう言ってるのか?」

「残念ながら存じ上げませんなァ。一体どういった案件で?」

「テメェ如きにゃ話すまでも無ェ。…用が済んだんならとっとと失せろ」

「そう言われましてもなァ、用が済んどらんので失せようにもねェ~?」

「……」


ハウエンツァ・パルパトは、この全身黒尽くめの細長い男を大変忌まわしく思っていた。

自称人間と言う割に人間を逸した体つきで感性も人間離れしているし、度々奇行に走っては不快感だけを残していく。

外出時以外は殆ど書庫に籠もっていて何処か怪しく、また時折彼が他のクルーに説教をしている最中唐突に現れてはいきなり揚げ足を取られるという事もザラであった。

更に彼の専門は主に工学系や考古学等であり、生物学や化学についてはあまり詳しくない。

そんな彼の実態を知ってか知らずか、説明中にハウエンツァの苦手分野についての知識を淡々と補っていくなど、自尊心故に天才を自称する彼にとっては実に不愉快極まりない事であった。



「……」

熟考の末、長く関わるだけ無駄だと判断したハウエンツァは自ら引き下がることを選択した。

「…何が要る?」

「大型スキャナと立体映像映写装置、それから3D系と古代言語翻訳のアプリケーションソフトウェアとCADの最新型をば。

可能であればソフトウェアは共にシノテックス社製で1L7Q以降の製品をお願いしたい」


ハウエンツァは散らかり放題の部屋から所定の品(ソフトは最新式のもの)を素早く探し出す。


「道具は返さなくて良い。寧ろ返すな。

つーか、世界の危機にでもなんねぇ限り俺様の目の前にゃ姿を現すな。

判ったら失せろ食糞変温動物が」


そう言うと、ハウエンツァは道具をスキンクに突き付け、ドアを乱暴に閉じて部屋の中へ戻っていく。

道具を受け取ったスキンクも直ぐさま部屋の前から立ち去る。






「精々粋がってろ自惚れ野郎」


随分と部屋から離れた所で、スキンクは吐き捨てた。


―書庫―


スキンクは早速探査を開始した。

先ずはモバイルパソコンの電源を入れ、ソフトウェアのインストールと装置の接続を始める。

まずはスキャナーに、ノイウェルとリリナが入手した設計図を読み込ませる。

透明な樹脂板の内部にレーザー加工で掘られた線は案外あっさりとスキャンされ、CADの画面に映し出されていく。

スキンクは更にそのデータを3Dソフトのアプリケーションへ送り込み、部品の図面を立体化。

更にそれらを組み上げたデータを立体映像投射装置に送る。



ホログラフィックとして映し出されたのは、変の長さがバラバラの曲がりくねった三角形を繋ぎ合わせたような形状の物体だった。

その形状は一見不可解で大した意味を持たないのようだったが、スキンクはすぐさまその形状を理解した。



「…コイツは……肝臓か?」


その絶妙な形状は、肝臓で間違いなかった。

機械的なチューブやシリンダのようなものこそあるが、その全体的なフォルムは完全に肝臓だった。

図面の詳細が判明したところで、スキンクは続けざまに研究報告書をスキャナーに通し翻訳ソフトを起動する。

翻訳は瞬時に終了。スキンクは結果として得られた情報を詠み上げていく。


「…『新型魔導機関内蔵人工肝臓』……やっぱ肝臓だったか……『サイズは平均的な人間属の成人男性相当』…まぁ軍艦傾斜っつったら大体成人男だしなぁ。

『肉体に接続されたコードから装着者の魔力を吸収し半永久的に駆動し続ける』……か。

『この性質上、外部からのエネルギー補給は実質不要であるが、高い魔力を内包し続ける事が出来る者に使用は限られる』……まぁそりゃそうだわな。


『更にこの人工肝臓には、肝臓としての役割の他、血液生成、身体能力向上等の役割を持つ』……つまり、入れてるだけで魔法使いも格闘家って訳だ。


んーでェ…っとォあぁ!?何だと!?」


スキンクは次の文を読んだ途端、驚きの余りひっくり返りそうになった。


「おいおいおいおいおいおいおいおいマジかマジなのか?




この報告書、『装着者の意志に反応する起爆システム内蔵』とか書いてあるぞ!?


しかもご丁寧なんだか何なんだか、爆発力はオクタニトロキュバンの143.6%相当って何の冗談だオイ!?」



オクタニトロキュバン。

キュバンのニトロ化合物であり、理論上最強の爆薬とされる。

研究所内で少量生成されたのみである事から性能の詳細は不明であるが、前述の通り理論上は最強の爆薬であるとされる。

ただ、爆薬としては余りにも製造に金が掛かりすぎるらしく、グラム単価が純金並みという法外な価格を誇る。

また、2011年現在の実験爆薬で最も高性能とされるヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンと比べて特に優れたところも無いため、実用化はされないというのが一般的である。

爆発する際に約1,200倍の体積膨張を伴い、約800kcal/molのエネルギーを放出して8モル当量のCO2と4モル当量のN2を生成する。こういった理由から、実用性は皆無だが理論上は最強の爆薬であるというのが定説である。

また、オクタニトロキュバンは水素を含まないため爆発すると完全に8CO2+4N2になる。

そのため爆発に際して発生するガスは完全に無色透明になることが予想され、完全な無煙火薬となることが期待されている。が、法外に金が掛かるので実用化には至らないであろう。


問題はそこではない。

この人工肝臓の自爆装置によって発生する爆発が、そんなオクタニトロキュバンを45.6%も上回るという事である。

これは勿論読者諸君の想像など遙かに絶する威力であり、装着者の意志一つで巨大建造物一つ程度なら軽々吹き飛ばせるという事に他ならない。

もしかすれば、街一つでも行けるかもしれない。人数を集めれば国一つも幻想とは言い切れなくなるだろう。



そんなとんでもない秘宝の設計図と詳細を目の当たりにしたスキンクは、ひとまずアプリケーションソフトを閉じて作業を終了。

翌日ノイウェルにこの一件を報告。シュヴァルトライテに売却すべきかどうかを相談した。

そして相談の結果ノイウェルは『シュヴァルトライテは三度の飯より研究好きの国。自ら進んで戦争を引き起こすような真似はするまい』と判断。

結果この人工肝臓の設計図と研究報告書は、シュヴァルトライテに売却される流れとなったのであった。


その後スキンクは個人的に持ち帰った『神々の華』計画の資料を翻訳。

これからの冒険の足しになればと、メンバー全員に資料を翻訳した冊子を配ったという。


また、スキンクが解放しノイウェルに懐いた、緑色で楕円形をした動き回る半個体状の物体は、その間の抜けたような甲高い鳴き声から『プルル』と名付けられ、アストライアのマスコットとしてノイウェルと共に不動の地位を築くに至る。





白い剣を模した古の航空戦艦アストライア。

その矛先の向かう先にあるのは、希望か絶望か。創造か破壊か。生か死か。

それを確定的に断言できる者は、現時点では幸いなことにこの世に存在していない。


多分。恐らく。辛うじて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ