分岐、仲間との合流
執筆者:CORONA
「…………う……あ?」
はて?私はなんでこんなところで寝ていたのだろうか?アストライアのメンバーと遺跡の探検にきたはずなんだが。
……遺跡に入ってからの記憶がない。ちなみに子供艦長もいなければメイド長もいない。それどころかキリキリもアウロ婆さんも酒乱ことレリオやエレーナもいない。スキンクは……あいつはまぁ、大丈夫か。
つまり、なにが言いたいかというと
「私、ひとりぼっち?」
シンプルにいうとそういうことだね。辺りを見渡すと地面には弾痕が開いてたり焼け焦げた跡があったり、砕け散った鏡が……これ私の鏡じゃね?ポケットを探ってみたが、やはりない。ま、いいか。
とりあえずここで戦闘があったことは間違いないようだ。死体もなければ血痕もないのでとりあえずは皆は無事なのかな?で、戦闘中に理由はわからないが気絶した私はここに置いていかれたと。
ぬぅ、薄情な奴らめ。アストライアに帰ったらいたず……もとい、説教せねばなるまい。
さーて、これからどうしよう。みんな居ないことだし、ここでさぼっておけばいいよね?うんそうしよう。
お、ちょうどいい瓦礫はっけーん。そこで昼寝でもし「カチッ」…………カチ?
おそるおそる足元を見るとそこには地面に偽装させた何かのスイッチ。次の瞬間には深くて暗い穴。
「ああああああぁぁぁぁーーー」
私は抵抗するまもなくなく落ちていく。
「はぁ……みんな大丈夫ですかねぇ」
「なに、心配は無用だ。きっと無事であろう」
私ことセルシアのため息の混じった呟きに、ノイウェルが答える。
私たちは仲間たちと罠によって分断されたあと、道なりに歩を進めていた。途中、何度か防衛用のロボットに襲われたが、これといった怪我もなく、順調に進んでいる。
「そうですよ、皆さん優秀な人たちですし、大丈夫に決まってます」
「もっとも、これしきの事故で死ぬようではこれから先冒険することなどかないませんが」
禾槻とリリナの言葉に私は苦笑いを浮かべる。確かにアストライアのメンバーは癖のある人が多いが、皆優秀なのだ。一人では乗り切れなくても、力を合わせて生き残っているだろうとセルシアも思う。
「あ、誰か居るみたいですよ?」
禾槻が示す方向に視線を向けると、そこにいるのはエレーナ、アウロ、スキンクの三人。彼らにも目立った外傷は見えない。
「おお!無事だったか!」
彼らの姿を見つけては走って駆け寄っていくノイウェル。心配は無用など言っていたが、やはり本心では心配していたのだろう。彼女たちもこちらの姿を見つけては安堵の表情を浮かべている。
「……レリオやラグナは一緒ではないのか?」
確かに、ここにレリオとラグナの姿は見えない。彼らはまだ別のところにいるのだろうか。
「あー……ラグナ嬢のことは知らないが、レリオの旦那はなぁ」
スキンクがちょっと気まずそうに話し始める。どうやらレリオはリーナ特製のお菓子を、どういうわけか何の対策もなく食べたらしい。案の定気絶したレリオはとりあえず安全なところに置いてきたとのこと。
あの男は学習しないのだろうか、と思わず苦笑いを浮かべる。ほかの人たちも同じように苦笑を浮かべている。
「ということは、あとはラグナさんか……」
私が呟くと、皆黙ってしまう。誰も彼女の消息を知らないのだろう。辺りが一瞬静寂に包まれる。
その静寂の中、私の強化された聴力が微かな声を拾う。
「この声は……ラグナさん!?」
声の質から人物を、大きさや反響から位置を確認すると私は慌てて立ち上がり上を見上げる。それにつられて皆も何事かと上を見る。
強化された視力が落ちてくるラグナの姿を捉えると同時に落下地点へと移動する。
そして次の瞬間、私の腕にかなりの力が降りかかる。思わず落としそうになるが、何とか堪えきった。
危なかった……あの速度で落ちてきた時には目の前でスプラッタな死体ができあがるところだった。
「……うん、配置をもう少し考慮すべき」
私に抱えられているラグナは口調こそ軽いがよく見れば冷や汗をかいている。普段はあまりこういった姿は見せない彼女のことだ。今回は本気で危なかったようだ。
「い、いったいどこから現れるんですかあなたは!?」
「……落とし穴、古典的な罠。少数を対象にすれば容易な分離などの効果をもたらすが、床に注意を払い続ければ回避が可能。故に、まず複数回の利便は望めない。しかし成程、レーザーの雨を浴びせるなどの処置を取れば、初見でなくともそれなりの――」
「なるほど……つまり、落とし穴に落ちたのであろう?」
「…………」
「落ちたんであろう?」
「…………」
エレーナの問いにラグナは淡々と答えるが、ノイウェルがラグナを見つめながら問うとラグナは視線をそらして黙ってしまった。しかし、確かにエレーナの言葉はもっともである。下手すれば死んでいたのだ。他の人たちも確かに、と頷いている。
「……では、そろそろよろしいでしょうか?」
ラグナが落ちてきたあと、皆少し休憩したところでリリナが話を切り出した。
「さきほどエレーナ様からの情報で、この先が最深部であることが確認できました」
その言葉に皆の表情が引き締まる。
「先ほどまでの探索でここが手付かずの遺跡であることは明らかであり、しかしこれといった古代遺物や情報は見つかりませんでした。ということは、この先の部屋に何かがある確率は非常に高いと思われます」
「なるほどね……確かにその通りだ」
リリナの言葉にアウロが納得したように頷く。
「ここにくるまでに様々な障害がありました……。防衛用のロボットやトラップしかり、外部から潜り込んだ魔物も存在しました。この先に貴重な遺物が眠っている可能性がある以上、強力な護衛が配備されていてもおかしくありません。そこで、それにそなえて皆様の装備、所持品を確認したいと思うのです」
「たしかに。皆の所持品や戦力を知る事はとても大事なことだな」
腕を組んで納得するノイウェルをみたメンバーたちは各自の所持品と装備を並べていく。
どうやらあまり消耗はないらしい。ナノリペアが二個と各種弾薬が幾分か減っているが、戦力に支障はないだろう。ナノリペアも弾薬もまだまだ余裕がある。問題はレリオがいないことぐらいだろうか。
道具を確認したリリナは腕にある腕輪型のモバイルパソコンにつけられた時計に目を通す。
「はぁ、しかたありませんね。レリオ様は置いていくと……」
リリナがため息をついて話し始めると同時、エレーナたちが通ってきたらしいワープ装置が起動し始める。
装置が放つ光から出てきたのは、体中に傷を負ったレリオだった。その姿をみた何人かは表情が引きつる。
「ってー……俺を置いていってもらっちゃこまるぜ」
レリオの口調は軽い。どうやら見た目に反して傷はそう深くはないようだ。
「な、なにをいってるんですか!?早く治療しないと!」
「お、サンキュー」
慌てるエレーナからナノリペアを受け取ったレリオは苦笑いを浮かべながらそれを飲み込む。流れ出る血は止まり、傷も次第に塞がっていく。
「……で、なにがあったのですか」
「ん?いやー気絶したくだりはもう聞いただろ?目を覚ましてすぐここを探してたんだけどよぉ、途中で魔物どもに見つかってな。多勢に無勢、命からがら逃げてきたってわけよ」
笑いながらリリアの質問に答えるレリオ。すでに傷は完全に塞がっている。
「うむ、よく生き残った!これで全員そろったぞ!」
「そうですね、各位準備はよろしいですか?」
リリナはそう言って周囲を見渡す。
意気揚々と腕を組むノイウェル。
ノイウェルの傍に粛然と佇むリリナ。
銃を手にもって立ち上がる禾槻。
両手のガントレットを打ち鳴らすセルシア。
馴れない銃を持って緊張の表情を浮かべるエレーナ。
いつもどおりのマイペースなラグナ。
マスクのしたで怪しげな笑みを浮かべる(ていると思われる)スキンク。
武器の確認をしながら立ち上がるアウロ。
座り込んではいるがライフルを上へと掲げるレリオ。
用意は整った。
あとは最深部へと踏み込むのみだ。
ノイウェル・リリナ・禾槻・セルシア・エレーナ・ラグナ・スキンク・アウロ・レリオ
分岐点 最深部前