進行、空飛ぶ刃とザトウムシ
執筆者:Mr.あいう
いやぁ、私の勘も鈍ったものねぇ。
なんて自嘲しながら私は重力に従ってほぼ九十度の傾斜をすべり落ちていた。
頭上からシャッターらしきものが落ちてきて、行軍をばっさり一刀両断して。
焦ったような顔でこちらを振り返った幼い艦長さんの珍しい表情に冷静さを吹き飛ばされるなんて、いつの間に私の感情は柔らかくなってしまったのやら。
「キャアアアア!! 落ちてる! 落ちてる!」
隣ではエレーナさんがわが身の不幸を実況中継している。ふところをゴソゴソと探りながら極めて冷静そうなスキンクさんはともかく、急展開に困惑と焦燥の表情のレリオさんと非戦闘系のエレーナさんは助けたほうがよさそう、が、この老体で果たして大丈夫なのだろうかという不安もよぎる。
「やれやれ、不覚ながら、早速文明の利器に頼ってしまいそうね」
誰にともなく呟きながら、左手の指輪に手を掛けた。確か、このつまみを押して……
「あぁ? つまみを押せ! するとバリアで無敵状態だ。分かったら寝かせろクソババァ」
散らばる書類や嫌な臭いを撒いている灰皿が乗った机で突っ伏して寝ていたアストライアの研究者さんを揺り起こして、艦長さんに「アウロは年を取っているからな、危なくないように探索にはこれをもっていくといいぞ」と渡された機械仕掛けの指輪、艦長さんは高電磁シールドだということ以外あまり知らなかった。ので、詳しい使い方を聞いてみると、心底不機嫌に不愉快そうにそう吐き捨てて再び睡眠に入ろうとする彼。
少々カチンときたので、今度は少々強めに揺り起こす。
「いえ、一体どういう仕様なのかを聞きに来たんだけど。不明瞭で仕方がないからもう一度詳しく説明してくださる?」
「……てめぇはあれか? 俺の安眠を妨害するたぁ神にでもなったつもりか?」
私の十分近い努力に折れて、覚醒し切らない頭で煙草に火を付ける研究者さん、名前はハウエンツァ。
彼の手から煙が出るかでないかの内に、その手から煙草をひったくって灰皿に押し付けた。
「クソババァ何しやがる!」
寝起きでいつもの悪態も切れが悪いご様子。笑顔を崩さず淑女的に対応してみた。
「いえ、アストライアの艦長が全席禁煙の職場を推奨してましたので」
「馬鹿かてめぇは。あのクソガキ>俺様の方程式をしらねぇのか? 分かったら失せろモウロクばばぁ」
「いやぁ、もちろん知ってますよ? だから艦長が説明出来なかったこの指輪の使い方を聞きにきたんじゃあないですかハウエンツァさん」
この手の偏屈はある程度話を合わせて持ち上げてみこしに担げば何とかなる。
プライドある相手は、そのプライドを傷つけられるより敗北を選ぶ、アウロ婆さんの知恵袋ね。
「はぁ!? この天才過ぎる俺以外にそれを扱えるわけねぇだろ、最速で説明するから脳髄フル稼働で聞きやがれ。まず有効範囲だが……」
……半径1.5メートル、なら。有効範囲に3人くらいは入るでしょうね。
落下しながら手を伸ばして手近のエレーナさんをまず引き寄せる。
そしてレリオさんには背中から狙撃銃を伸ばして掴ませる。もちろん銃口はこちら側。
三人が集まり団子のような状態になったところで指輪のつまみを押す。
空気が凝縮したような効果音と共に可視の電磁シールドが寸分違わず半径一メートルに展開された。
幸い、手足が少し出てたので粉砕骨折しました! のような事態も発生せず着地。
「おいおいアウロ婆さん。そんな便利なもん持ってんなら早く言ってくれよ」
不服そうな表情(推定、防毒面着用の為声色から判断)で見下げるスキンクさん。何処から取り出したのかかぎ付きロープでぶら下がっている。
「うぅ、助かりました。ありがとうございます」
パタパタと服の汚れを払いながらお礼を言うエレーナさん。
「ありがと、アウロ婆さん。……しかし、な。助かったかどうかはまだわかんないぜ」
そういって、レリオさんは落ちてきた穴とは逆に視線を向ける。つられて一同もその視線の先に眼をやった。そこにあったのは……
「…………これは、戦艦、ですかね」
皆の視線の先には、ほこりをかぶった巨大な戦艦が鎮座していた。
アストライアのように特殊な形状こそしていないが、100メートルはあるかと言う巨体には、今なお威圧感が宿っている。だが、その戦艦を覆うようにして作業用の骨組みが残っており、あちらこちらに部品が散らばっている。
そちらに向かって歩きながら楽しそうな声色でエレーナさんの言葉に説明を加えるスキンクさん。
「だろうな。多分アストライアより少し前の型の戦艦。こりゃ博物館クラスの大物だぜ。しっかし、枠組みだけで未完成だな。一体作業者達は何処に言ったんだよ」
何気なく放ったであろう作業者がいないという彼の言葉は、しかし口調とは裏腹に重たい意味を持っていた。
「おそらく……」「魔物の襲来、って所かな」
おや、先を越された。レリオさんが奥歯を噛み締めて何もない空間をにらみつけている。
「いくら旧文明期の遺跡だっていっても、ここが何らかの理由で放置されたとしても使える部品くらいは回収するはず、敵襲だったらなおさら。これら兵器に一切興味を示さず、且つ敵を分断する罠までかいくぐってこの基地を殲滅させられんのは、餌目的でやってきた捕食者の線が濃厚。つー解釈であってるかな、アウロさん」
そう言って、気だるげに笑顔だけを向けるレリオさん。その眼に宿る暗い炎。
「ええ、そうね。付け加えるとしたら、ここが旧文明の遺跡にもかかわらず、照明が生きているって言うのは、周囲の魔素を吸収して発光する魔法石があるから。そんな高価なものを照明に使えるっていうのは金持ちの証拠。ここが魔物に殲滅させられたのなら、奥に進めばもっと高価な物があるのかしらって期待くらいねぇ」
「そりゃあもっともな意見だ婆さん。俄然やる気が出てきたぜぇ!」
嬉々とした笑顔を浮かべながら(推定以下略)先へ進もうとするスキンクさん、その首を掴んでエレーナさんが引き止める。
「ダメですよ。まずは皆さんと合流しないと! 私の能力でなんとか……」
突然、背後でけたたましい金属音と、長年地下に沈殿していた空気を引き裂くような電子音。
私が思わず振り向くと、先ほど私達が降りて(落ちて?)きた穴の下に駆動音を響かせる金属塊が転がっていた。中央部分にモニター画面には砂嵐、四方バラバラに突き出た四本の足だったものはぎしぎしと動き宙をかく。落下音がなくなり、奇妙な電子音がようやく、意味のある単語の羅列だと気づいたとき、
『頭部ハソsss『前脚ky部破損ハソガガガガガ『目標カク二n『認証ニニ『原因不明制御不能『制御不能』『危険性ヲ破壊破壊ハカイィィィィ』rrレベルレッッド』『ッコードジェノサイド・換装開始ィィii……』
その金属塊はすでに目的を持って自らを組み替え始めていた。
使えるパーツを、ただ眼前の敵の殲滅に用いるために。
……まぁ、なんというかえらく刺々しいフォルムになりつつあった。
モニター画面のあった球体を覆うように全ての部品が金属棘へと変化、と同時におびただしい数のそれが八本に収束、結合する。結果そのうちの六本が地面を付き、体を持ち上げ、残りの二本がこちらに向けられ威嚇するかのように上下する。スクラップのような姿のそれはザトウムシの如く姿へと瞬く間に変形した。
「……おい、今、大虐殺っつったよな」
「…………聞きました。てことはあれ」
「………………ああ、絶対に逃げたほうがいいと思う」
「喋ってる暇もどうやらないねぇ。とりあえず走ろうか」
老骨に鞭打ってでも走らなきゃいけない局面が来るなんて、もっと未来の設計図を描いて日々を過ごすべきだったと後悔しながら、反対方向へ全力疾走。
背後のザトウムシを振り向くと、信じられないような速さでこちらに迫ってきている。
「扉、扉が向こうにあります!」
息も絶え絶えになったエレーナさんが必死に指差した先には金属製の扉があった。
あれが果たして後ろのザトウムシ相手に何秒持ちこたえるのかはさておき、私はその扉に駆け寄る。
と、いうか一番速く扉にたどり着いたのが60過ぎたばあさんだと言う現実は、私が元気すぎるのか、それとも彼らが貧弱なのか。
まぁ、軍隊に7歳で入った私と常識を比べても仕方ないわね。
扉を開き、後続の彼らが全員入ったのを確かめて左の肩口に鋭い衝撃が走った。
壁を見ると焼け焦げた跡、背後からのレーザーでの一撃だと理解する。
あの手の機械が遠距離武器を備えているなんて想像付いてもよさそうなものなのにと自分に喝を入れつつ滑り込ませるようにして扉の中に入り、閉める。
頭を一発で撃ち抜かれなかった点から照準装置は無いか、ぶっ壊れている。
壁が焼け焦げていた点からこの金属の扉はあの武装では壊しきれない。
それにしても、右肩の翼に当たらなかったのは幸いだった。
「アウロさん! 肩から血が!」
左肩から流れる血を見たエレーナさんが蒼白な顔で叫ぶ。
「ああ、まあねぇ。それより、先を急ごうか。あいつがここを破るのも時間の問題だと思うよ」
安心させようとそう言って、ポケットからナノリペアを取りだした。
服用すると蛋白質で構成されたナノマシンの結晶体が溶け出し、体内環境を整え、傷口も内側から高速でリカバリーしてくれる優れもの。これもあのハウエンツァとかいう性格の悪い彼の発明なのだから、その点では頭が下がる。しかし、口に入れようとするとその手をエレーナさんが止めた。
「あの、これを使ってください。同じナノリペアですけど、私が持ってても仕方ないから」
いや、と言いかけて、止める。集団行動で最もつらいのは役に立てないことだ。責任感の強いエレーナさんならなおさら、先ほど私に助けられた事を忘れられないのだろう。
「ありがとうねぇ、助かるよ」
そういうと、エレーナさんが少しだけ、ほっとした表情を見せる。さて、いつまでもだらだらしていられない。
「とりあえず、前衛の人たちと合流しないと。私達だけじゃあ戦力不足だからねぇ」
「確かに、狙撃手二人に非戦闘向きの超能力しかない竜人に怪しげな防毒面の男じゃああの金属蜘蛛の相手にゃあ不足だな。とりあえず対策は走りながら考えるか」
「自分で怪しげな防毒面の男って言うか……」
レリオさんの呟きを置いて、私達は廊下を走り出した。
金属と金属がぶつかり合う嫌な音を背後に感じながら。
廊下を抜けると、キャンプファイヤーでもやれそうな広い場所に出た。五階くらい上を見上げれるここが、どうやら玄関口だったようで、美人の案内嬢が似合いそうな受付と大画面モニター、そして五人掛けのベンチが十ほど設置されていた。
「さて、と。まずはここがどこか。それと前衛の人たちは何処にいるかを突き止めなくちゃいけないんですけど。闇雲に上に上に行くのは良策とは言い難いですし」
そのうちの一つに腰掛けて、レリオさんが問題を提示する。
しかし、スキンクさんは好奇心の赴くままにウロウロとしているだけで、私にもとても妙案をひねり出す体力は残っていない。
そんな中、エレーナさんがおずおずと手を上げた。
「前衛の方々と合流するんですよね。だったらそこの受付のコンピューターから私の能力で何とか地図を引っ張り出せると思うんですけど」
竜人族は一人一人固有の超能力を持っており、その一人であるエレーナさんも例外ではない。
彼女の持つ超能力は透視、触れた物の使い方や触れた人の心を読むことが出来る。
情報はすべて過去、または現在進行形のもので未来はあまり読めないが、しかし機械の中から情報を引き出すなどその使用方法は多岐にわたる。私もたまに複雑な調理器具の使い方を教えてもらっている。
「本当かよエレーナ、なんか輝いて見えるな」
「えぇ、ありがたいですねぇ」
「ふふふ、ありがとうございます」
ふわふわとした会話で意図的に緊張をほぐしにかかった。
早速取り掛かったエレーナさんだったが、しかし残念ながらこんな場所で平穏など1分ももつはずも無く。
最初にその気配に気づいたのはレリオさんだった。眼光鋭く上空に眼を向ける。レリオさんの危険に対する察知力には同じ狙撃手の私でも眼を見張るものがある。
そんな様子に気づいた私とスキンクさんが一拍遅れて頭上を見上げた。
「来る…………アウロ婆さん。その左肩で何処までやれます?」
背中に背負った対物ライフルを構えながら心配そうに尋ねるレリオさん。やれやれ、いつから私は若い人に労わられる立場になったのかしらねぇ。
「ほ、ほ、ほ。ずいぶんな口を聞くじゃない。年季が違うわよレリオさん」
そう言って狙撃銃を構えて見せると、苦笑を頂戴した。
「エレーナさん。とりあえず、あなたが地図を見つけるまでは粘るつもりだから。作業に集中していて頂戴ね?」
柔らかに、穏やかに、そう念を押す。
ふと横を見るとスキンクさんは煙のように消えていた。まぁ、あの人に関しては心配無用かしらねぇ。
「それじゃあ、位置について」
「よーい…………」
ドン、と。開始の合図は銃声で。
上空の魔物に私とレリオさんの銃弾が吸い込まれ、落ちてくる。
外見は青銅色のコウモリ、体長は羽を広げて一メートル半といった所でしょう。だが羽の部分は鋭利な刃物へと進化を遂げている。飛翔し、思考するブーメラン。と行ったところかしらねぇ。ダクダクと床に広がる黒血が、魔物である事を証明していた。
毒性こそ無いが、同属を呼び寄せる悪夢のような血液。それが床に広がったのを引き金に、上空から次々と青銅色の刃が滑空し接近する。
次々と迫り来る上空の敵に狙撃体勢は取れない、が。
「走って逃げながらの迎撃は得意分野なんです……よ!!」
滑空し首元を狙う刃を横転し交わしながら、狙撃銃と腰のコンバットナイフを持ち替えて再度接近してくるコウモリの頭を切り裂く。
逃亡生活中に身につけた狙撃手にあるまじきスキルだったが、遠距離でばかり戦っていられなかった過去はそんな事情はお構いなしだった。
ちらとレリオを一瞥すると、近距離に近づけさせまいと炸裂弾を駆使して上空のコウモリを物量で叩き落していた。が、しかし。
ズン、と地響きが響く。振り向くと同時に引き金を引いたが、驚いた事に銃弾は硬化した翼にはじかれる。
そこにいたのはコウモリとは言い難いまでに巨大化した生物。本来空を飛ぶための翼は四速歩行のための独自の変化をとげており、天井に張り付くための後ろ足は跳躍の姿勢を取る。
そのコウモリが、驚異的な瞬発力で、跳ぶ。
一瞬で間合いを詰められては狙撃銃の長い銃身はむしろ邪魔。奇声を上げて横薙ぎの一閃。間一髪のところで交わし、狙撃銃の代わりに拳銃を取り出し、超至近距離で狙い撃つ。
が、その確実に当たったと思われた銃弾は魔物の瞬発力に追いつかない。一瞬で五メートルは後方に跳びずさる。そのわずかな交戦、その隙間を縫って攻撃しかねていた上空のコウモリ達が一斉に無力なエレーナさんに襲い掛かる。その刃の数は五つ。
「レリオさん! エレーナさんを!」
その声でトランス状態となっているエレーナさんの方向にレリオさんが振り向いた、振り向きざまの狙撃で一匹は仕留められた、残り四匹。
狙撃は間に合わないと判断、懐のコンバットナイフ二振りを投擲、二匹を柱に縫いつける。
しかし、無理な体勢でナイフを投げたために狙撃が間に合わない。レリオさんの狙撃もあと一発が限界だろう。が、そんな心配を吹き飛ばすようにレリオさんの第二射、一発の弾丸はエレーナさんの首元付近まで近寄っていたコウモリを二匹まとめて吹き飛ばした。
だが、レリオさんは余りにエレーナさんに集中力を使いすぎた。
「……痛っ! ミスった!」
上空のコウモリが完全に意識の外からレリオさんの背中を切り裂く、防弾ジャケットが朱に染まる。
援護しようと狙撃銃を構える、が。地上の巨大コウモリが私目掛けて跳躍、回避が間に合わず右足の腿肉を削がれた。婆さんのわずかな肉までもって行ってどうするつもりかぜひ尋ねたい。
バランスを崩したところにさらに上空からコウモリの急襲、首だけはガードしようと手を掲げる。
が、その時聞き覚えのある電子音が鳴り響いた。
『非常ジジジzzz『敵性生物カク『敵性『敵『敵『敵『tttt『殲滅』『ss『攻撃対象タスウ『マルチレーザーレーザー『ジェェェノサイドォォォォ』
先ほどのザトウムシ型ロボットが出現し、レーザーを乱射する。
ただ、先ほどと決定的に違う点は、この場にいるのが認証されていない人間だけでなく、人間の敵の代表格である魔物がうようよと存在する点だった。
レーザーに捕らえられるのは空中のコウモリ達、次々落とされていく仲間をみて、魔物たちも攻撃の優先順位を変更した。滑空しザトウムシに斬撃を加える、が金属のボディはたやすくは切断されない。
「地図見つけました! こっちです、早く逃げましょう」
トランス状態から脱したエレーナさんがぶんぶんと手を振り、一つの扉を指差す。
右足を引きずりながら歩いていると、レリオさんが肩を貸してくれた。
「大丈夫かアウロ婆さん。年なんだから無理すんなよ」
「……ったく、人生の先輩に向かって生意気だよ」
そういいながらも、おとなしく体重を預けさしてもらった。
「いやぁ! 絶景だぜ全く! 蜘蛛型兵器VSコウモリ軍団の異種格闘戦。見ようとして見れるもんじゃねえよなァ~!」
「スキンク……いつの間にそんな所に。今まで何処にいたよ」
「ん、ハウエンツァの奴が作った光学迷彩スーツの性能を堪能して隠れてたんだよ、ほら」
そう言って、拍手をうつと同時に姿を消してみせるスキンクさん。
「なーんか光の屈折率を操作してるらしくてな。このプレートを操作するだけで、簡単に透明人間だ」
手の中のプレート型の小型装置をもてあそびながら飄々とした態度でヘラヘラと笑う(推以下略)スキンクに対して青筋を立てるレリオさん。心ナシか私の腰の手がきつくなる。
「俺達が必死で戦闘してるのに安全地帯でのんびりしてたわけか…………」
「ひゃははは、世の中逃げるが勝ちってねェ~!」
そんな風に嘯く彼の軍服についている焦げ跡と、心無し引きずる左足は、おそらく私の左肩と同じレーザーによるものだろう。あんなうまいタイミングでロボットが現れるはずが無い。
おそらく魔物の襲来に気づいた時点で、ロボットと魔物を対決させる構図を思いついたのだろう。
そして、危険を冒してロボットをここまで誘導して来た。
こんな事を本人に言えば高笑うだけだろうが、なんだかんだ軽口を叩くが彼もまた、アストライアの一員なのだろう。
「自分で言わない功績を、他人が言うのも野暮な話だねぇ……」
「ん、なんか言ったかアウロばあさん?」
「いや、スキンクさんにため息をついてただけさね」
そしておそらく、彼自身もそんな風に思われるのは心外だろう。
彼はあくまで、自分のためにしか動かない人間だと自負しているらしいから。
「皆さん、急いでください! あっちの戦いが終わったら、どっちが勝つにしろ次は私達の番ですよ!?」
「「「確かに」」」
三人の声が同調し、苦笑を生む。扉の中に入り、一時の平穏が四人を包み込む。
ノイウェル・リリナ・禾槻・セルシア
洞窟前部
進行中
アウロ・レリオ・エレーナ・スキンク
洞窟地下
休憩中
ラグナ
洞窟入り口
意識不明
脱落者1名
残り8名