侵入、門番と犠牲者
執筆者:ウラン
「北大陸アルコノストの北西部で、旧文明期の遺跡が発見されました。
行商の為に移動していた商隊が、吹雪を逃れる目的で逃げ込んだ洞窟の奥に、前時代の施設らしきものを見付けたそうです。
調査したところ、今までその辺りに遺跡が確認されたという記録は存在していませんでした。
これは手付かずの遺跡である可能性が極めて高い。奥には貴重な古代遺物が眠っていると思われます。
ですがその分、中がどうなっているかは分かりません。けして油断は出来ないでしょう。
どんな危険が待ち構えているとも知れません。準備は入念に、怠りなく。
細心の注意を払い、探索を行ってください」
by実質副艦長っぽいメイドさん
というわけで、私ラグナを乗せたアストライアはそのアルコノストとかいう所に出航中である。
……船あつかいでいいよね? 艦っていうくらいだし。
まぁ、そんなどういでもいいことは置いておくとしよう。それとももっと議論したい? へー、勝手にすればいいんでね?
私は既に準備を終えて、広場的なところに佇んでいる。
服装はいつもの白衣に白いズボン、白い靴という白々セッツ。
武器はハンドガン、つまりは拳銃二丁。二刀棍は持っていかない。
その他、凸状の盾と手鏡サイズのマジックミラー。
最後の武器じゃねーって?
いやさ、あーゆートコには3000℃とかの高熱レーザーなんて理不尽なものを容赦なく放ってくるような奴がわんさかいたりするからね。
所詮は光、反射でバーンって感じよ。まぁ、流石に熱までは防げないけどね。一応耐熱加工はさせて……してあるし。
「ラグ、早いね」
そう気安く話し掛けてきた少女は確か霧川とかいう名だったはず。
「そっちも……きりきり」
そう言うと、霧川は何か奇怪な者でも見るような目つきでこう言った。
「どちら様でいだっ! 目がっ! 目が焼けるようにイダいっ!!」
気安く勝手なあだ名を付けたことを許すどころか、あまつさえあだ名を付けてあげたラグナちゃんマジ仏ー。
うん、だから、仏様に無礼を働いた霧川が罰を受けるのは当然であり、むしろ目潰し程度で済ませてあげた私って超やさしいねっ!
「……おい、霧川が目を押さえてもがいているのだが」
「……幻覚」
「いくらなんでも無理があるかと」
子供艦長ことノイウェルに、冒頭のセリフを担当したメイドバトラーリリアが接触を持ちかけてきた。
「……真実は、小説より奇なり」
「いつの名言なのだ、それは」
3000年くらい前の。
「そろそろ遊びはお止めください」
「到着したぞ!」
周りを見ると、狙撃銃を担いだアウロにレリオ、ガンレットを合わせて気合入ってるっぽいセルシア、描写しがたい感じにでこぼこしているスキンク、それから少し怖そうな表情でカトママぶってるエレーナの姿が。
皆それぞれの様子だが、その瞳に浮かんだ好奇心は寸分たりとも違わない。
「皆の者! 遂に、我らの冒険の始まりだ!」
ノイウェルは、そう高らかに宣言した。
「そうだ、アウロに値下げしてもらったタプカの実でリーナに健康にいいお菓子を作ってもらったぞ! なに、心配はいらぬ。全員分用意してある。リリナ、配っておいてくれ」
おー、遂に私も先輩の手作りお菓子を食べれる日が!
何やら回復した霧川の表情が、上げて落とすかのごとく暗いっていうか、何か悟りを開いたお坊さんみたいになってるけど、まいっか。
で、その洞窟の入り口。
「普通の洞窟にしか見えんがなぁ」
とは子供艦長の談だ。
「まぁ、取り合えず進んでみようよ」
そう霧川が言い、奥に進む。
「うむ、そうだな」
船長が後に続き、当然のようにメイドが付いて行った。
その他にセルシアも先に行く。
まぁ、船長以外は前衛だし、妥当な並びかな。残りの前衛であるスキンクだって後衛達の護衛についてる……のかなぁ?
つーか、もっと後ろ下がっとけよ艦長。
と、前衛メンバーの最後尾にいたセルシアが小道に入った所で、ガッシャーン、とハイテクっぽいシャッターが下りてきた。
「――――っ!」
慌てて、アウロにレリオ、エレーナ、スキンク後衛グループ、つまり私以外がシャッター近づいて行く。
しかし、今度はシャターの手前、もとい前進した四人がいる場所が沈没した。
エレーナの悲鳴が響き、遠ざかって行く。少しして完全に消えた。
……あれ? 私一人ぼっち?
と自分の置かれた状況を冷静に判断していると、何か機械音のようなものが聞こえてきた。
「……まだ、何かあるの?」
私の呟きなど関係ないとばかりに、天井から白い物体が落ちてくる。
それは一言で言うと、機械だった。
球体の頭に楕円系のモニター画面が映し出され、虫のような四本脚を持ち、白く塗装されたメタリックボディが金属光沢を放っている。
太古昔にあったらしいスフィンクス、というものに似ていて、それが立ち上がったらこんな感じになるんだなー、と思った。
……成程、これは罠だ。
先方の侵入者を閉じ込め、慌てた他の者を惹きつけてばらけさせる。
残りはこのロボットで、といった手口。
「……ふーん」
私は躊躇いなく引き金を引いた。
とっさに取りだし、いつでも発砲出来るようにしておいた一丁の拳銃。
アストライアにいつからか居座っていたヒッキー製の、自称鉄をも貫く弾丸。
だがそれは、白い機械に届ききる前に弾かれた。
――電磁シールド?
アレは確か持続時間が少ない。でも、いくらなんでもそれの展開が終わるまで拳銃を打ち続けるわけにもいかないし……。
機械へと、一直線に間合いを詰めていく。
接近系の武器は持ってきていないけど、電磁シールドを長時間展開されるには直接攻撃するしかない。
しかし、近づくにつれて何故か熱くなってきた。
気温上昇? 一体どうして?
いよいよ、温度が人体には耐え難いまでに上昇した。さっと下がるが、白衣の端が焦げていることに気付く。
これはうん、あれだね。あの機械すっごく熱い。
つーか、発熱ってあり? 服が燃えるってどんな温度だよ。これじゃあ近づけないじゃん。
長距離から銃を撃っても防がれるし、近づいたら燃えるし。
まぁ、動かないのがせめてもの救い――
『認証ノ不一致ガ確認サレマシタ。目標補足、破壊シマス』
うわっ! 何か近づいてくるんですけど!!
私は逃げる。あんなのに近寄られたら死ぬって、本当に!
動きを遅くするために、機械の足元に威嚇射撃を放つ。しかし、今度は電磁シールドを張らなかった。
何故? 何故張らない? 自分に銃口が向けられているかどうかわかるのだろうか?
もう一度引き金を引く。今度は機械の頭へと狙いを定めた。
すると、電磁シールドが銃弾を弾き飛ばす。
にしても、随分と型の古い電磁シールドだな。えぇっと、あれは確か――
突然、ビュゥン! という音がして、右足に激痛が走る。
……きたよレーザー光線。うん、あの外見、いつかはやると思ってたよ。
ってかヤバッ! なおも前進してくる白い機械、私今ピンチっぽくない!?
一か八か、私は白衣のポケットからマジックミラーを取り出し、放り投げた。
それをもう一丁の拳銃を引き抜き、鏡に向かって撃つ。
一筋の光線が鏡に反射し、白い機械の足を一本貫いた。
『足部破損ヲ確認。原因不明』
銃口を向けることが電磁シールド発生の条件という私の予想は、大方当たっていたらしい。
すると、肌が気温の低下を感じ取った。どうやら、想定外の事にラグが生じているようだ。
その機を逃さず、私は一気に間を詰め、壊れていない足を一本持ち上げて近くの穴に機体を投げ飛ばした。
あはは! これ以上まともに戦っていられるかっつーの!
実銃と光学銃。違う種類の拳銃を持って来たのは正解だったらしい。
正直、最後の反射を利用した銃撃は賭けだった。ある程度の角度調節くらいならなんとかなるが、正確に当てるのはいくら私でも不可能だ。
何回か外れることを覚悟していたが、どうやらそれは気鬱に終わったらしい。というか、幸運だった。
――まぁ、別に外れた所で大した問題はないのだけれども。
既に完治している自身の足を見て、私はそう思った。
しっかしあの機械、何なのだろう。
というか、ぶっちゃけ魔法師か超能力者いれば楽勝だったんじゃね?
あきらかに魔法と超能力の存在を考慮していない設計。
おかしい。まるで、そんなもの知らないといわんばかりの――。
……あ、そういえば、あの機械投げ込んだ穴ってさっきの落とし穴じゃん。確か、あのグループって見事に銃使いばっかだった気が……。
まぁうん、なんとかなるでしょ。つーかしてくれ。
私はそうだなぁ、シャッター閉まっちゃったから先には進めないし、あえて落とし穴に落ちるのも危険だしなぁ。いや、高さ的に。決してさっき放り込んだ物体が原因じゃなくて。
一応救護班を名乗ってるわけだし、外に出て怪我人の治療準備でもした方がいいかなぁ。うん、そうだ、そうしよう。
というわけで、皆が出てくるまでサボ……待機しておっきまーす!
あ、そうだ。先輩が作ったお菓子があったんだっけ。それでも食べてようか……。
ノイウェル・リリナ・禾槻・セルシア
洞窟前部
進行中
アウロ・レリオ・エレーナ・スキンク
洞窟地下
消息不明
ラグナ
洞窟入り口
意識不明
脱落者1名
残り8名