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輝ける星光  作者: 輝ける星光
乗艦
10/28

機械ノ人

執筆者:CORONA

 いったい、ここはどこなのだろうか。国を出た後、何も考えずフラフラと歩いていたが、いつの間にか道を外れてしまったようだ。仕方がないか、もう日も沈み、更にはこれだけ吹雪いているんだ。もとから道なんてあって無いようなものだったのだから。地図も持たず、方位磁石も持たずフラフラと歩いていれば道にも迷うというものだ。


 これから、どこに行こうか。


引き返す


 そんな言葉が頭に浮かぶ。

 引き返してどうなるというのか。知り合いや友達どころか、家族にまで見捨てられているのに。

 私は、死んでいることになっているのに。

 私が知り合いに会う度に「あなたなんて知りません」「セルシアは死にました」など言ってくる。家族に至っては、話をすると「死んだ娘を思い出す」等と言って家の中に閉じこもってしまった。

 目の前に、実の娘がいるというのに。

 

 ふと気付くと、右の腕、肘から先が無くなっていた。

 痛みは全く感じない。それどころか、寒さや暑さというものも感じていない。

 残った腕の断面を除く。血は流れておらず、見えるのは精密に組み合わされた機械、そして血の代わりに流れている、自分にはよくわからない液体だけ。


 この身体になった時は、自分はまだ人間だと思っていた。

 しかし、この身体に慣れてくるにつれて、私は人間なのか、という疑問が浮かんできた。

 そして今、故郷に帰り、家族や親友に見捨てられ、改めて思った。

 もう私は人間ではないのだと。


 私が人間でないのだとすれば、これからどうすればいいというのだ。


 ゆっくり辺りを見渡すと、魔物に囲まれていることに気づいた。確認できるだけでも十匹以上。どうやら私の右腕を食い千切ったのは奴ららしい。


 ここで死ぬのも、悪くないかもしれない。ふとそんな考えが浮かぶ。

 どうせ行くあてもない。正体を隠して生きていてもいつかはボロがでる。するとどうなるか。

 簡単だ。気味悪がられ、皆離れていく。たどり着くのは孤独だ。


 そんな人生を送るぐらいなら、今ここで死んだほうがマシだと思う


 ジリジリと魔物達が詰めよってくる。それに対して、私は何もせず、ただその場に立ち尽くす。

 一番近づいてきていた魔物が私を殺そうと、飛びかかってきた。


ああ、これで死ぬんだ。


 そして私は目を閉じた。





……おかしい、何も起きない。それとも、痛みを感じない私のことだ、もう死んでいるのかも知れない。

 ゆっくりと目を開くと、目に入ってきたのは先ほどと同じ光景。いや、一つだけ違う。私へと襲いかかってきていた魔物が、その身体にいくつも穴をあけて死に絶えていた。


 何が起きているのか。戸惑っていると、強化された聴力が人の声を拾い始める。


「………!……だ!ひと……さ……た……!」


 上手く聞こえない。距離が遠いのだろうか。どうやら声の質から子どものようだが……。


「こんな所に子ども……?」


 思わず私は呟いた。こんな山奥、しかも夜に。いるはずのない子どもの方向に耳を傾ける。声は次第に大きくなってくる。だんだんと近づいてきているようだ。


「禾槻、急いであの女性を助けよ!レリオはそれ迄魔物に指一本触れさせるな!」


「うん、わかった!」


「ったく、人使い荒いぜ……」


 先ほどの子どもの声の他にも声が聞こえる。どうやら1人ではないらしい。

 こちらに近づいてくる足音と、何かは分からないがガチャガチャと金属音が聞こえる。

 次の瞬間、激しい音が鳴り響く。思わず私は耳を塞いでしまった。

何が起きたか理解するのは簡単だった。私に近づいていた魔物が、身体にを穴をあけて倒れている。

 狙撃、しかもこんなにも視界が悪いのに、正確に魔物を狙って。

 なんという腕前。驚いていると再び銃声と思われる轟音が響く。私に近づいてくる魔物に次々と穴が開いていく。


「助けにきたよ、もう大丈夫だから」


 私が呆然としているといきなり声をかけられる。どうやら先ほどの足音の人のようだ。

 褐色の肌と蒼色の髪をもつその人は、拳銃と短機関銃を構えると近くの魔物に突撃していく。


「大丈夫か!?」


 先ほどの子どもの声が聞こえる。子どもという予想が正しかったようだ。10歳ぐらいだろうか。それぐらいの外見の少年が近づいてきていた。傍には黒髪の青年がライフルを構えて近づいてくる魔物を牽制している。


「そなた、腕が……」


ああ、そういえば腕、ちぎれてたんだっけ。

少年は傷口を見ては、その痛ましさに辛そうな表情を浮かべている。


「ノイウェル君、魔物の数は減ったよ。新手が来ないうちに早くアストライアへ」


「そいつの腕も見つけたぜ。もっとも、腕と呼んでいいかは知らないが」


「……そうだな、アストライアに戻るとしよう」


 どうやら黒髪の男は気づいたらしい。少し、後ろめたい気持ちになりながらもこの少年たちについていく。








「ふむ、そんなことがあったのか……大変だったのだな」


「……拒絶しないのですか?」


 私はアストライアのメンバーに囲まれて、今までの経緯を話した。

 ここでも拒絶されるのか、と心配していたが、そんなことはなかった。

 ノイウェルと呼ばれる少年は、しっかりと話を聞いてくれ、拒絶をみせることもなく受け入れてくれた。それどころか、拒絶ときいて疑問符を浮かべている。

「拒絶?何を拒絶する必要があるのだ」


「でも私、ロボットなんですよ?普通の人とは違うんですよ?」


「何を言うか。そなたが人の心をもち、人らしい行いをするのならば、そなたは立派な人だ」


 他の人たちも、ノイウェルの言葉に同意するようにうなずいている。


 泣きそうだった。実際には涙を流すことはないが、心には暖かな気持ちが溢れていた。


 ああ、私はまだ人なのだ、人として生きていいのだ。


 ありがとう、私の口からは自然とそんな言葉が出てきていた。








 結論から言うと、私はアストライアでお世話になることになった。アストライアではまだメンバーが足りずにいるらしいからだ。 私に居場所はないのだ。居場所をくれる、それだけで本当にありがたかった。


「どうだレリオ、どうにかなりそうか?」


 私の腕をじっくりと調べているレリオにノイウェルが話しかけた。多少は機械に詳しいらしい彼は修理可能かどうか調べているようだ。


「……だめだな、俺にはどうにもならねぇ。知らない技術がわんさかだよ」


 私の腕は彼には直せないらしい。私の腕はこのままになるのだろうか。


「……あいつに頼るしかないな」


「やはり、それしかないのか?」


「ああ、あいつしかいないだろう」


 ノイウェルとレリオが憂鬱そうに深いため息をつく。いったいあいつとは誰の ことなのだろうか。








 腕はすっかり元通りになった。いや、元通りどころか、戦闘に耐えれるように強化されている。


 しかし、その代償は私には大きすぎたように思う。これからあんな自己中を極めたようなやつと付き合っていかなければならないとは……憂鬱だ。


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