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第9章 崩壊の始まり

 月曜の朝。

 出社すると、フロアの入り口でスーツ姿の監査員たちが社員証を確認していた。

 労基署と外部監査の合同チーム。

 その光景を見た瞬間、空気が一変する。


 朝礼で人事部長が告げた。


「本日より社内調査を開始します。各自、調査員の質問には協力してください」


 フロア中にざわめきが走った。

 鬼塚は険しい顔で腕を組んだ。


「お前ら、余計なことはしゃべるな。最低限の回答だけしろ。

 これは一時的な調査にすぎない。すぐ終わる」


 その声には、いつもの迫力がなかった。

 わずかに震えている。

 社員たちがその変化を感じ取ったのか、目を合わせ合う。


 午前十時。

 俺は会議室に呼ばれ、監査員の前に座った。


「この契約書についてお聞きします。

 この日付と実際の支払日、差がありますが、理由は?」


 俺は静かに答える。

 机の上のUSBを指し示すと、監査員は黙って受け取り、メモを取った。


 会議室を出ると、廊下で鬼塚が待っていた。


「お前……何を言った」


「聞かれたことに答えただけです」


「……調子に乗るなよ」


 鬼塚が睨みつける。

 その顔をまっすぐ見返した。

 心臓は早く打っているのに、不思議と怖くない。


 午後、経理部の村瀬が資料を提出したとき、経理部長が青ざめて立ち上がった。


「待て、それはまだ——」


「提出しない方が違法です」


 村瀬が言い切る。

 経理部の他の社員たちが息を呑んだ。


 夕方、社内チャットに緊急アナウンスが届く。


【全社員へ】

明日、全社集会を行います。役員より重要なお知らせがあります。

業務を中断して参加してください。


 その瞬間、フロア中がざわめきで満たされた。

 誰も声に出さないが、誰もが思った。


——ついに来た。


 鬼塚はPCを乱暴に閉じ、席を立った。

 その背中は、初めて小さく見えた。


 夜、資料室にチームが集まる。


「明日、決まるぞ」


 藤田が言う。


「部長、もう逃げられないな」


 佐伯が笑った。


「でも、油断するな。最後に何をするか分からない」


 俺は深く息を吸った。


「明日、全部終わらせる」


 その言葉に、全員が頷いた。

 沈黙が一瞬続いたあと、小さな拍手が起きた。

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