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第8章 決定打の入手

 金曜の夜。

 指定された個室に入ると、鬼塚と取引先の部長がすでに座っていた。

 テーブルの中央には酒と料理が並んでいる。

 俺は胸ポケットのICレコーダーのスイッチを押した。

 赤いランプがかすかに光る。


「山田、今日はしっかり飲めよ。数字はお前に任せるからな」


 鬼塚の声が耳の奥で響く。

 乾杯が始まり、グラスが触れ合う音が録音される。


 やがて、酒が進むと空気が緩んでいった。

 取引先の部長が声を潜めて言った。


「例の件、例の謝礼、ちゃんと用意してます?」


「もちろん。来週には経理通すから」


 鬼塚が笑う。

 その笑い声と金額のやり取りが、はっきりとレコーダーに刻まれた。


 さらに鬼塚は続ける。


「うちの連中もビビッてるが、ああやって怒鳴っときゃ言うこと聞く。

 残業も減らさず回してやってるんだ。ありがたく思えって話だ」


 喉がかすかに震える。

 だが顔は笑っていた。


「……部長、さすがです」


「お前も分かってきたな。いいぞ」


 録音が進む。

 時間が妙にゆっくり流れる。

 部屋の隅の時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえた。


 会食が終わると、鬼塚は上機嫌で言った。


「山田、次の案件も頼むぞ」


「はい」


 外に出ると、夜風が頬を撫でた。

 ポケットの中のレコーダーがずしりと重い。


 帰宅後、データをPCに移し、再生する。

 鬼塚の声、取引先の声、金額、笑い声——

 全てが鮮明に記録されている。


 佐伯と村瀬、菅原、藤田を呼び、データを再生する。


「……これで、決まりだな」


 藤田が低く言った。


「社長、労基署、取引先、一斉送信だ。来週、実行する」


 全員が頷く。

 村瀬の目が赤くなっていた。


「やっと、終わらせられる」


 菅原がUSBを持ち上げる。


「これ、三重バックアップ済み。もう消せない」


 俺は深く息を吸った。


「次で全部爆発させる」


 その言葉が、決戦の合図のように部屋に響いた。

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