第6章 仲間を増やす
週明けの朝。
鬼塚はいつも通り声を張り上げたが、その背後で社員たちが互いに目を合わせる。
その目が、以前より確かに強い。
昼休憩、営業部の同期・藤田が俺のデスクにやってきた。
「ちょっと話せるか?」
会議室に移動すると、藤田は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
「……お前、録音してるんだろ?」
一瞬だけ心臓が跳ねる。
だが、嘘はつかなかった。
「ああ」
「だったら、俺の証言も使え。三年前、俺、部長に見積り改ざんさせられた。
断ったら、顧客の前でわざと恥かかされた」
拳を握りしめる藤田。
目は怒りで赤くなっていた。
「ずっと黙ってたけど、もう黙るのはやめる。俺も協力する」
握手を交わす。
その手は汗ばんでいたが、力強かった。
その夜、菅原から連絡が入る。
〈システム部の二人、協力するってさ〉
〈過去に部長に責任なすりつけられたことがあったらしい〉
画面を見て、深く息を吐いた。
仲間が、また増えた。
翌日、資料室で佐伯と村瀬、藤田、菅原の四人が集まった。
テーブルに証拠を並べる。
「これで、取引先とのやり取り、帳票、ログ、全部揃ったな」
佐伯が震える声で言った。
「……あとは、決定打だけ」
「会食の録音だ」
俺はICレコーダーをポケットに入れる。
「次の金曜、部長と得意先の会食に同席する。
そこで全部録る。これが最後のピースだ」
そのとき、資料室のドアが開き、経理部の若手・田島が顔を出した。
「あの……俺も協力したい。
去年、部長に偽装精算やらされたの、俺のデータ残ってます」
村瀬が驚いて田島を見る。
「田島くん……あんた、あれずっと黙ってたの?」
「怖かった。でも、もう嫌です」
田島の声が震える。
その震えが、どこかで自分の震えと重なった。
その夜、全員で近くの安い居酒屋に集まった。
ノートPCを開き、証拠を時系列に並べる。
「これ、もう完全にアウトですよ」
藤田が言うと、場に小さな笑いが起きた。
「じゃあ、俺たちはどうやって出す?」
「同時に。社長、労基署、取引先。三方向一斉送信だ」
テーブルの上にビールジョッキが並ぶ。
全員が無言で乾杯した。
その音が、戦いの号砲に聞こえた。